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同棲同盟  作者: つくし
4/4

お金は…おっかねー

「オリー、家に連れて帰っていい?」

 私はフォーと帰宅中である。フォーが公園で何をしていたかを半ば、いや、9割ほど疑いながら聞いていた。信じているのはフォーが公園にいたことくらいだ。

 何がユニコーンだ、いるはずがないだろ。ましてや喋るなんて。こんにゃく食っても会話なんてできないよ。

 フォーが楽しそうに、もう目がピッカピカで眩しいくらいに話している中、空を見上げていた。

 空といえば何色か。青、白、灰、黒。赤、と答える人はいるだろうか。赤い空。夕焼けならありえるか。精神が安定しているかどうか試せそう。

 ちなみに、私は青と答える。だって、今、空は青いんだもん。

 あ、雲だ。すんごくでかいな。異質すぎないか?ちょっと鳥肌が立ってしまうわ。控えめに言ってキモい。なんて言えば伝わるかな。あ、そう、キメラだ!顔はニンゲン、身体は昆虫…かな。足もあるし、でも、尻尾はない。あぁ、見んとこ見んとこ。膝の皿をこしょぐられた時みたいな感覚や、これ。こんなん見るより、フォーの話を聞いてる方がましだわ。

「それで、さよならしてきたの」

「そ、そう。私も会いたいな」

「姉ちゃんも会いたい?」

 なわけあるかい。ビーム出す化け物なんか会いたくないわ…信じてないけどね。

「一目見るくらいなら…」

「また会いに行くから、その時は姉ちゃんも一緒に行こうね」

 熱出して寝てよ。

「姉ちゃん、菓子欲しい!」

「え、いきなり何よ」

 フォーは駄菓子屋を指差し、私に言った。そこは通りにポツリと佇む、古き良き駄菓子屋だった。

 しかし、一般的なのとは異なる点があった。

 "店主不在 お金を置いておいてください"の貼り紙があった。いわゆる、無人販売店というやつだ。

「こんなとこにあったっけ」

「私も初めて見た。あまりここ通らないけど」

「見た感じ、一昔前からあったようだもんね」

 フォーは引き戸をゆっくり開ける。

「すいませーん、あ、店主いないんだっけか」

 店内は駄菓子ばかりで、少し奥にお金を入れる箱が置かれていた。

「なにこれ、これもなに、初めて見た」

 フォーがそう言うと、私も駄菓子を手に取る。私も見たことない駄菓子だ。

 商品名を見ると、グミ、ガム、キャンディと書かれていた。色が様々で食べ物とは思えない。

「あ、これ知ってるやつ!」

 そこには袋詰めされた塩煎餅があった。私もこれは小さい頃からよく食べている。

 駄菓子屋だから、これに似たものが多く置かれているとばかり思っていた。グミやらガムはどんな味なのだろう。どんな食感なのだろう。全く想像がつかない。

「知らなかったやつ買ってこっか」

「姉ちゃん、お金あるの?」

 あ、持ってないや。というか、お金ってどうやって手に入れるんだ。

 あ?なんだお前、すごい偉そうに腰に手なんか当てちゃって、私見てくるじゃん。

 フォーは勝ってない身長で、ウィズを見下ろしていた。そこにあった台に乗って。

「持ってるよ、お金」

 終わった。この子…こいつが優位に立つとろくなことがない。ていうか、嘘だろ、お金持ってるなんて。

「見せてみろ」

 そう言うと、フォーはポケットに手を突っ込んで、おもむろに握り拳をウィズに見せる。

 そして、落ちてくるお金を受けるために左手を添える。

 お金を落とす前に右手を軽く揺らし、音を鳴らしてみせた。

 ウィズは手で顔を覆った。

 十円玉2枚と五十円玉、それから百円玉が聴こえる。フォーはまだ音を鳴らしている。

「それ、どこで拾った?」

「え」

 まだ見せてないのに信じてもらえて驚くフォー。

「あ、え、えーと…」

 焦って話そうとした時、フォーの手が緩み、お金が顔を出した。小さい手では四枚を全て受けることができず、床に十円玉が転がる。

 チリーン。

 お金の落下音がウィズの鼓膜を刺激した。

 はっとした表情をした後、ウィズは右耳を抑えた。そして、目をつむった。

 何かを受信しているような、何かを思い出そうとしているかのような、そんな表情でいた。

 そして、ゆっくり目を開く。口を開く。

「お金は…おっかねー」

「えっと、だからこのお金は…え」

 どこで拾ったのかを、あたふたしながら夢中で説明していたフォーは、しょうもないウィズの一言で我に返った。しょうもない言うな。

「ごめんごめん、それで何だって?」

 ウィズは落ちた十円玉を拾い上げ、フォーに渡しながら言う。

「だがらー、公園の話したじゃん?木の枝拾う前に光ってるものあったから、拾ったの。それがまさかお金だとは思わなかったな…ほんとだよ?」

 嘘をついているようには見えないし、おそらく本当のことだろう。でも、なんで公園にお金が落ちていたのか。

「その公園ってどこにあるの?」

「もうないよ」

「どういうこと?」

「私が出たら、もうそこには何もなかったの」

「なにそれ、普通そんなことなくない?おかしいと思わなかったの?」

「姉ちゃんの普通と公園の普通は違うのかも」

 立て続けによくわからないことを話すフォーに半ば呆れるウィズ。そもそも公園に行ったことがうそ…なら、そのお金はどこからってなるし…。

「お金を使ったらなくなるし、時間も過ぎたらなくなる。公園も使ったからなくなる、そういうことなのかもね」

 やっぱり、この子、おかしい。昨日のことといい、大人すぎる。それでも、普段は12歳ではあるのだが。私よりも大人びているのは癪である。とても12年での経験値では説明できない。

 フォーは料金箱にお金を入れようとしてこう言った。

「お金、入ってる」

 私はこの子について深く考えることはやめた。単純に考えが独創的なだけだろう、と思うことにした。

「私たちの前に誰か来てたのかな」

「そうみたい」

「それで、何買うか決めたの?」

「グミとキャンディ!」

 フォーは小さい手で持ったグミ2個とキャンディ3個をウィズに見せる。

「私はどれ食べようかな〜」

 フォーの手のひらのグミを取ろうとした時、フォーは手を握った。

 困惑の表情でフォーを見るウィズ。悪い笑みを浮かべるフォー。

「このお金、私が拾ったもの。それで買ったものは私のもの」

 けっちー!石油王でもそんなけちくさくないぞ。ちょうど5個買うな。紛らわしいだろ。

 フォーはお金を料金箱に入れた。

 チリーン。

 再びお金の落下音がウィズの鼓膜を襲った。

 瞬時に、右耳を抑え、目をつむった。

 一瞬、いや、瞬く間もなく、脳裏に女性の顔が浮かんだ。見たことのない顔だ。今まで見たことある人よりも、おそらく年齢は上。もちろん、会ったことはないのだが、なぜか、心があたたかくなった。

 そして、音は遅れてやってきた。

「毎度あり」

 フォーはその声に反応して振り返る。

「姉ちゃん何やってんの、DJ?」

 不思議そうにウィズを見つめるフォー。ウィズは左手で胸をおさえる。

「ない乳揉んでも大きくならないぞ」

 言いながら、お菓子をポケットにしまった。

 ウィズにフォーの声は届いていなかった。

 ウィズにはお金の音が長く、とてつもなく長く耳に残り続けていた。

 苦しい…というより、温かく暖かい。その熱は徐々に体全体へと渡り、ウィズは膝をついた後、倒れてしまった。

「姉ちゃん!?」

 フォーはウィズに呼びかける前に走り出していた。倒れたウィズの肩を、小さい身体で支える。

「姉ちゃん?ね、姉ちゃん?」

 声は震えていた。弱々しく、いつ消えてもおかしくない声で必死に呼びかけていた。

 その頑張りは虚しく、声は届いていなかった。

 ウィズは意識を戻さない。

 泣きそうになりながらもなんとか歯を食いしばり、ウィズを担いで店を出る。

 するとそこには、女性が立っていた。フォーたちを待っていたかのように。待っていた割には驚いた表情をしている。

「何があった?」

「ね、姉ちゃんが…ひっく…」

 口を開いた途端、ダムが崩れたように、涙が溢れ出てきた。

 フォーはどうしよう、どうしようと呟きながら、ウィズをそこに寝かせ、女性にすがりつく。

「帰ったら話を聞くわ。とりあえず…」

 女性はフォーの頭を優しく抱え、優しく撫でてやった。

「ウィズは心配ないわ。私に任せなさい。フォーは…」

「一人で帰れる」

 鼻水垂らして女性を見上げながら言う。

「顔、ぐっちゃぐちゃじゃない」

 女性はフォーの顔を裾で拭いてやった。

「フォーは強い子ね」

 ぐちゃぐちゃの顔で、ぎこちない笑顔を作ってみせるフォー。

「じゃあ、後でね、姉ちゃん!」

「気をつけなさいよ」

 姉ちゃん、久々に聞いたな。

 駆けていくフォーを見つめる女性。見えなくなると、優しい表現から一変、険しい表情に。

「あなたたち、一体どこから出てきたのよ」

 フォーたちが入っていたはずの駄菓子屋は、そこにはもうなかった。空き地というか、そこに何かがあったことすら思わせないほど、荒れ果てていた。

 眠っているウィズの側で胡座をかき、女性は右手をウィズの額に置いた。そして、女性も目をつむる。

「ごめんね、ウィズ。少し見させてもらうよ」

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