表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

永続転生記

異世界転移するまでの日々~平和な日本で馴染めないと判明したので異世界に避難する~

作者: 天原 重音


 目を覚まして視界一杯に映ったのは白い天井。首を動かして左右を見る。窓ガラス越しに青い空が広がっている。白いサイドチェストの上の花瓶には生花が活けられていた。

 視界の端に入ったシーツで『今ベッドで横になっている』事に気付く。

 手指に力を入れても激痛の類はない。上半身を起こすと背中と胸の辺りに痛みが走った。我慢出来る範囲内なので無視してそのまま起き上がる。

「病院?」

 自分がいる部屋は白を基調とした清潔感溢れる部屋。身に着けているのは病人服。

 最期の記憶は何だったかを思い出し――ため息を吐いた。自分以外に部屋には誰もいない。どれ程盛大なため息を吐いても誰かに聞かれる心配はなかった。

 サイドチェストの向こう側に冷蔵庫が有る。喉の渇きを覚え、ベッドを降りて冷蔵庫を開けるが空っぽだった。

 水が入ったピッチャーやコップはない。自分の所持品らしきものは一切ない。

 ベッドに腰を下ろし少し考える。氷の魔法で即席のコップを作り、魔法で作った水を注いで飲もうかと考えた瞬間、ガラッとドアが開いた。

 入って来たのは看護師の女性。

「え? 根本さん……」

 根本――それは自分の転生先の苗字。

 ベッドから降りて、看護師に『喉が渇いたので水が欲しい。冷蔵庫は空っぽだった。何処で水が貰えるのか』と尋ねる。看護師はしどろもどろになりながらも、『持って来るからベッドで安静にしていなさい』とだけ言って去った。

 その後ろ姿を見て思う。

 医者を呼びに行ったな、と。

 水が貰えない事に別の意味でため息を吐いてから再びベッドに腰を下ろし寝転がる。

 看護師が戻って来るまでに時間が掛かるだろうから、それまでに状況の整理を行おう。



 先ず、自分(菊理)の転生先の名前は『根本葉月』で、年は十二歳。小学校六年生で十日後に卒業だ。

 次に、家族構成。両親と年子の妹。計算高く、外面が良く、嘘と演技が上手いぶりっ子な妹に騙されている両親から冷遇を受けていた。母親の代わりに朝から晩まで家事をやらされ、学校へは殆ど行けていない。

『中学校に通わせる資格はない。家事が嫌なら死ね』

 学校に行きたいと言ったら、両親にそう言われ、マンションのベランダから突き落とされたんだっけ。そこで葉月の記憶は途切れている。

 誰が見付けて通報したのか、現在病院にいる。

 家に帰れと言われたら家出するしかないだろう。あの家に居たら命に係わる。

 家族はどうなっているか。気にはなるが、再び一緒に暮らす事はないだろう。親戚は驚くだろうね。両親も妹も外面は良かったから。

 


 目を覚ましてから五日が経過した。

 あのあと、やって来た医者の診察を受けた。もう暫くの入院が決まった。日数的に小学校の卒業式は出られない、そう思ったが目を覚ますまでに三日程意識不明の状態だったので、あと二日で卒業式が行われる。もう十数日入院が決まっているので出席は不可能。余り通えていないが、高校じゃないから卒業は出来るだろうけどね。

 家族の現状も教えて貰った。

 両親は『長女虐待殺害未遂』で逮捕。妹は自身の嘘が原因と言う事から女子少年院行きが決まった。『過去類を見ない虐待』と大体的に報道された結果、三年以内に出所しても親族一同、妹を引き取る事を拒んだそうだ。全ては妹の嘘から始まった事。家族はどうでも良い。


 彼らは『根本葉月』の家族と親族で在って、決して『坂月菊理』の家族ではない。混同してはいけないのだ。


 親戚一同も妹の嘘を信じて葉月の冷遇に加担していた。慰謝料の支払いを裁判所で命じられ、彼らは真実を知り泥沼な罪の擦り付け合いをしている。自分は外野なので干渉はしない。なお、親族一同からの慰謝料は強制徴収が決まった。

 罪の擦り付け合いは小学校や児童相談所でも行われている。児童相談所でどうにかならなかったのか、学校の教師は気付かなかったのかと、大揉めだ。

 外野の事は外野各自で決着をつけて欲しい。

 外野よりも自分の今後の方が重要だ。

 まず学校。中学校に進学予定だったが準備は何もしていない。制服すら買い与えられなかったからね。

 そもそも、小学校にすらまともに通えなかった。ランドセルは何処かのお下がりで使っていないのに超ぼろい。両親と妹がカッターでズタズタにしていたってのも有る。

 勉強は菊理の人格に目覚めた今なら追い付けるだろうが、馴染むのは難しいだろう。学校にほぼ通っていないのに勉強が出来るってある意味変だよね?

 せっかく平和な日本に転生したのに、ここで生活出来ないなんて、一体何の罰ゲームか。

 薄味の病院食を食べながら、今後について考える。

 日本での生活が難しい。過去と同じように別の世界に転移するしかないのか。



 更に数日が経過し、自分は退院した。警察官に家まで送って貰う。慰謝料もこの時貰った。銀行口座は持っていないので現ナマです。

 久しぶりに帰った家の中は荒れていた。電気が止められているのか、電源を入れても電気が点かない。

 テーブルの上の皿に乗った料理は腐り、ガラスのコップは床の上で砕けて破片が飛び散り、中身をフローリングの上にまき散らした跡が残っている。冷蔵庫の中身は腐り腐臭を放っている。風呂場の浴槽の水は腐り、異臭を放っていた。……ここは腐海か?

 これは、散らかっていたが正しいな。幸いな事に水道は止まっていないので掃除は出来る。

 家事が一切出来ない母親。散らかすしか能がない父親と妹。葉月のものが一つもない部屋。

 取り合えず、窓を開けて換気をし、掃除を始める。要らないものを全て捨てよう。

 あれこれをゴミ袋に詰めて行く。葉月の所有物が存在しないからか、母と妹のアクセサリー類と粗大ゴミ以外殆ど残らなかった。粗大ゴミと言っても家具家電だけどね。これらを売り払おうにも自分はまだ子供。リサイクルショップに持って行く事は出来ない。部屋も引き払いたいけど出来ない。どうするか。

 そうそう、掃除中に通帳も見付けた。あの父親かなりの借金を抱えていたらしい。掃除中にヤクザっぽいおじさんがやって来た。自分の事は被害者と知っていたらしく、変な対応はされなかった。

 子供に優しいのか気遣いの言葉を貰ったが、親の借金の事について尋ねられた。知らないけどさっき掃除中に見つけた通帳を渡し、

「部屋を出て養護院に行きたい。家具家電を引き取ってくれる場所を教えて欲しい」

 と、思い切って子供には似つかわしくない事を言ったが、不審がられる事もなく、アクセサリー類と粗大ゴミと部屋の売り払いを代理でやって貰える事になった。向こうからすれば、借金の回収が幾らか出来るから代理を引き受けてくれたのだろう。

 ついでに、部屋を出るまでの水道光熱費などは全て両親の借金にして貰った。三日後に出る事を決め、自分は去る準備を始めた。

 まず、衣類の購入。食糧の買い溜めは出発直前でも良い。当面はスーパーかコンビニの弁当だ。 

 次に行うのは、尋ね人の探索。地球にはいないようだが、別の世界で探知に引っ掛かった。この世界に移動で良いな。幸いな事に余り距離が離れていない。親族からの慰謝料はかなりの額が有る。たまに購入目的で日本に訪れるのも良いかも。

 予定が決まったところで処々の手続き。これは部屋を出た直後に行う。役場に行ってあれこれ書類を提出するだけだが、色々と聞かれるだろう。先に書類を取りに行き、家で書く。迷惑を掛けるが受付に纏めて出して去ろう。

 必要な食糧と必須品の購入一覧も作る。

 三日間はあっと言う間だった。

 昼前。再びやって来た小父さんに鍵を渡して頭を下げる。売り払う対象は一か所に集めて置いたから問題はないだろう。全部代理でやって貰うのだ。お願いしますと頼むのは当然だ。

 大事なものは宝物庫から出した道具入れに入れてある。少ない荷物が入ったリュックサックを背負い、マンションをあとにした。

 徒歩で移動し、到着した役所の受付ボックスに転出届を始めとした書類を入れ直ぐに立ち去る。迷惑な利用者でごめん。

 次に向かうのは、公園の公衆トイレ。着替える為です。

 何故着替えるかって? ふふふ。幻術で見た目の誤魔化しが利かない時の対策として骨格そのものを変える魔法『千変万化』を作っている。骨格まで変える場合、二十四時間以上連続で使用出来ない欠点が有るが、骨格に手を加えているのでバレないのだ。外見年齢も変わるから、子供が利用し難いところも利用可になる。

 女子トイレの洋式の個室に入り、魔法を行使。手鏡でチェックしながら大学生に見える程度に、骨格を成長させて着替える。下着も変えて、淡色の膝丈ワンピースを着て、厚めのスプリングコートを羽織り、ニーソックスとブーツを履く。手荷物をリュックサックからトートバッグに変える。これで同一人物とは思うまい。花粉症患者の振りとしてマスクも着用する。

 公衆トイレを出て次に向かうのはビジネスホテル。電車で数駅移動してから探す予定だ。バスで駅に向かい、駅前のファーストフード店で昼食を取る。食後に電車で移動。ビジネスホテルが駄目だったら、ネットカフェに行こう。いや、最初からネットカフェの方が良いか?

 電車を降りるまでにどちらがいいか考え、ネットカフェだと会員登録などを行う必要性があるからビジネスホテルにした。駄目なら別の方法を考えよう。

 


 結論から言うと、ホテルには泊まれた。駅前のシティホテルだけど些細な事だ。

 出て来る食事は朝食のみ。異世界転移の準備も行いたいし、ダラダラとしたいし多少値下がりするので五泊する。借りた部屋でホテルに入る前にコンビニで購入したおやつの菓子パンとジュースを口にして小腹を満たす。

 夕食は混雑具合を考え……午後八時位になったらファミレスかコンビニに行けばいい。

 現時刻は午後四時過ぎ。夕食までの間に異世界転移用の魔法具に魔力を込めよう。



 午後八時。

 千変万化が解けない程度に魔法具に魔力を込めたあと、休息を取ってから近場のファミレスに向かった。ステーキがメインのファミレスで、ガッツリと厚切りステーキを食べた。当然の事ながら男の格好をして行った。女が一人で食べると目立つからね。

 ホテルに戻る道中、コンビニに寄ってスポーツドリンク(二リットルのペットボトル)とカフェオレ(牛乳パック型の一リットル)、スイーツ類を買う。

 部屋に戻って鍵をかけ、ブーツを脱いでから魔法を解除。視線が低くなり、服がぶかぶかになる。はしたないがこのまま服を脱ぎ、シャワーを浴びる。

 風呂から出たら、今日はもう寝よう。

 


 翌朝。目覚まし時計なしで七時過ぎに目が覚めた。

 顔を洗面台で洗い、髪を梳かして身繕いをする。魔法で外見を変えて服を着たら食堂に降りる。朝食はバイキング形式で食べ放題だ。ありがたく食べて部屋に戻る。今日の予定は日用品の買い出しにしよう。十分な食休みを取り、フロントで外出を告げて鍵を預ける。

 部屋は散らかっていないし、清掃のルームサービスは断っている。でも、念の為もう一度断りを入れて置いた。

 ホテルを出て駅前のバス停に向かう。駅前にはデパートが有るがドラッグストアが入っていない。仕方がなく少し離れたところのドラッグストアに向かう。昼食はそのまま何処かで食べよう。帰りにコンビニかスーパーで夕食の弁当も買うか。

 

 

 二日目はこんな感じで過ごした。四日目まで似た感じで過ごした。

 ただ、就寝前に魔法具に魔力を込めたと言う違いは在ったが。

 


 宿泊してから四回目の夜が明け、本日が最終宿泊日。これまでと同じように朝食を食べて、今日はダラダラと過ごす。

 明日の出発に備えて今日はゆっくりと休もう。

 で、ゴロゴロとしていたらいつのまにか寝てしまい目が覚めると午後一時を過ぎており、慌てて昼食を食べに出かけた。ゆっくりと過ごし、帰りにコンビニで夕食を買って戻る。

 夜。明日の予定を確認する。

 魔法具に魔力を込める作業は今日はない。昨日までで十分に溜まったからだ。食糧は小分け購入に変更したので問題はない。残金も結構残った。

 ここから電車で二時間離れたところに観光名所の山が存在する。山の中腹にお寺が有る。登山と参拝目当ての客が多い。

 電車で移動後、昼食を取り、人気のない林に移動し、魔法具を使って転移。

 これで良いな。これ以外に思い付かない。

 最終日の夜はこうして更けて行った。



 翌朝。何時も通りに身繕いをして朝食を取り、部屋に戻って荷物を纏め、フロントに降りて宿泊料金を払う。

 念の為に認識阻害の魔法を使っている。顔は覚えられないし不審には思われないだろう。使用した名前も別の名前を使ったしね。

 駅に向かい電車に乗り込む。通勤ラッシュの時間帯からは少しズレているので電車内は空いていた。ボックス席に座り車窓から外を眺めて過ごす。目的地が近付くにつれ、乗客が増えて行ったが、平日だからか人で埋まっている感はない。

 二時間後。目的地に着いた。

 電車を降りて、駅から出ると、駅前はバスで来た観光客で賑わっていた。

 ちょっと早いが適当なお店で昼食を取る。観光地なだけ在って、ファミレスやコンビニ弁当よりも美味しい。

 ついついお土産の定番商品の饅頭を買ってしまった。転移先で食べよう。

 さて正午。人の流れが飲食店に向かう中、気配遮断を使い、こそこそと移動する。目的地は登山用の道。そこから少し離れたところで転移しよう。

 今の季節は春で三月の終わり。豪雪地帯でもないので雪は残っていない。現在位置が九州なので熊もいない。

 登山用の道をある程度登り、横に逸れる。この辺りで良いかな? 千変万化を解除して服を着替えて最終準備完了。

 道具入れから異世界転移用の魔法具を取り出し、起動。目的地は誰か分からないが尋ね人がいる世界。

 視界が己の魔法光で埋まる。

 正常に戻った時、どんな世界が広がっていて、一体誰に会えるのか。ちょっとワクワクした。

 魔法は正常に起動している。

 しかし、思わず声が漏れた。

「あれ?」

 目的地に向かっているが、目的地の特定の場所に引っ張られる感覚が有る。

 感覚の正体に当たりを付けるよりも前に、視界が白一色に染まった。


『うおおおおぉぉっ!?』


 そして、耳を劈く雄叫びが耳朶を打ち、視界が正常に戻る。

 何事かと周囲を見回すと、ローブを身に纏い青い顔で倒れている数名の男性と騎士格好の男性で溢れている。

 如何やら屋内のようだ。足元の床には魔法陣らしきものが刻まれている。目を凝らして良く見ると文言に見覚えが有る。

 まさかと、冷や汗を掻く。

 これ、異世界召喚術式か? 聖女? 勇者? どっち!?

 左右を見回していると、見覚えの有る銀髪と赤毛、茶髪がふらりと現れた。

「誰が召喚されたのかと思ったら、貴女だったのですね、ククリ」

「おう、久し振りだな」

「おおう。マジで久し振りだな」

 見覚えの有る男三人。三者三様の反応をしている。

 銀髪緑眼の白人系美丈夫はベネディクト。赤髪茶眼で褐色の肌を持っている偉丈夫はギィード。茶髪黒目の白人系偉丈夫はアルゴス。

 比較的良識派のギィードがいて安心したが、状況的には落ち着かない。異世界転移が途中で異世界召喚に切り替わるとは。レアケースだ。

「ここ何処? 何が起きてるの?」

 天ならぬ天井を仰いで状況の説明を三人に要求する。

 現状、取り合えず出来る事はこれだけだった。 

ここまでお読み頂きありがとうございます。

短い上にほぼ突貫で書いた短編です。続きが有ります。

続きを投稿する時になったら連載に切り替えようと思っています。続きも読んで頂けると嬉しいです。

さり気なく、今回で全員の顔と名前出し達成となりました。ちょい出しではなく続編で活躍させる予定です。


誤字脱字報告ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 続きがあるというか、続きがないと起承転結の承で終わってるというか
[一言] 短編詐欺かつ連載してったらハイファンやん……ローファンが読みたいからローファンのランキング見てるんや……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ