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「はいおまちど、カイ君のステーキとアイリちゃんのピラフ、ウタ君のハンバーグ」
「仕事終わりの飯はやっぱりうまいなぁ!」
耀紀と海は声をそろえて言った。
「それ私に対する皮肉のつもり?」
焔が二人のことを睨みながらエビピラフを口に運んだ。
「まぁ、いいじゃないかアイリちゃん。」
店主が笑いながら宥めた。
「今回は僕らより年上の女性だった。多分20歳くらい。」
耀紀はボソッと話した。
「言い方が悪いけど、君らはついてると思うよ。
あの~、なんだっけ君らが受けた手術の名前。」
「『真人開一地天手術』です。」
海が肉をほおばりながら回答した。
「そう、それだ。確かあの手術成功率が60パーセントくらいなんだろ?
そんで成功したら君らみたいな訓練兵、失敗したら鬼天使になっちゃうと。
自分で仕事増やしてどうするつもりかねぇ~」
「ほふもほうほほふ(ぼくもそうおもう)」
「食ってから話せよ。」
店主は食器を洗いながら話を続けた。
「この戦争が始まってもう一年か。実感がないなホントに..
普通に飯食って、寝て、仕事できるんだもんな。」
「ほふもほうほほほ」
「だから口に入れながら話すなって」
耀紀は口に入れていたハンバーグをすべて飲み込んでご馳走様と会釈した。
「今日はカイ君とウタ君の手柄を祝してみんなタダにしてあげるよ。」
店主は三人に異なる味のキャンディーを渡してまた来いよと言った。
三人は店を後にして帰路についた。
「ウタ、お前何味?」
「林檎だよ、カイは?」
「パイン」
「アイリは?」
耀紀が焔に同じ質問をすると焔は眉間にしわを寄せて
「よくわかんないけど、柑橘系の何か。」
「大体そういうのオレンジだろ。」
「そういえば明日は訓練休みだけど、二人は何か予定あるの?」
「僕は特にないかな」
「俺も」
「だったらみんなで少し遠出して鬼天使狩りしてお小遣い稼がない?」
「別に構わないけど、遠出ってどこに行くんだ?」
海は自分の髪をいじりながら聞き返した。
「日本海側とかでいいんじゃない?」
「遠すぎだ、全然『少し』の範疇じゃない」
「だ~か~らぁ~、頭使いなよぉ~準いっとぉ~」
海は少し苛立った様子でガリンッと音を立てて口にあった飴玉を砕いて飲み込んだ。
「俺の弟をお前の都合で動かしたくはない、
あと仮にトキがOKしたとしてももう一人くらい必要だろ?
その穴埋めはどうするんだ?お前も脳みそつかえよ四等兵」
海も焔に対して挑発的な態度をとった。
「いい度胸してんじゃねぇかよ、準一等さんよぉ!」
「上等だ!クソアマが!」
「やめなよ二人とも近所迷惑だし、恥ずかしいよ。」
耀紀が二人の間に仲介しに入った。
「せっかくの休日なんだから楽しくやろうよ、ね?」
海と焔の睨み合いは何事もなく終わったが二人はしばらく何も話さなかった。
「じゃあ、また」
海は自分の家の前に着くとそう言って家に入っていった。
「私、やっぱりあいつのこと好きになれない」
「やっと、喋った」
「そういえば日本海側って言ってたけどどこら辺行くの?」
「北陸あたりでガッポリ稼いで帰りにお寿司食べない?」
「マジでか!オシス!」
耀紀は子供のようにはしゃいだ。
ドンドンドン
誰かが自分の部屋のドアを叩く音が聞こえた。
耀紀はベットから身体を起こし、ふらつきながら玄関に向かった。
ドアにもたれながら鍵を開けると私服姿の焔と耀紀よりも身長が低い女の子が出迎えた。
耀紀はしばらく二人の顔を交互に見た後、目をこすりながら部屋に入るように合図した。
「今起きたの?」
「御覧の通りです。」
「ウタちゃんの部屋、男の子の割にはきれいなんだね。」
「偏見が過ぎるだろ。男でも部屋きれいな人はごまんといるよ。」
耀紀はそう言いながら私服をクローゼットの中から取り出した。
「理音色さん..だっけ?今日一緒に来てくれるの?」
クローゼットの影に隠れて着替えながら耀紀は焔と一緒にいた女子に尋ねた。
「うん、俺もちょうどお小遣いほしかったからな。」
「僕の見間違いじゃないといいんだけど理さんって女の子だよね。」
「女だ。それがどうした?」
「いや、なんでも..」
着替えが完了した耀紀は焔と理を連れて瀬最波家に向かった。
家の前には海とその弟である時がいた。
「何で昨日飯誘ってくれなかったんだよ~、うたぁ~」
時は海とは少し違って見た目はチャラチャラしている。
「トキが先に帰っちゃうからじゃん。でも今日はオシスだぞ!」
「マジか?!てことは大体何体くらい鬼天使ぶっ殺せばいいんだ?」
「相場だと一体につき50000円、そこから開発税とか埋葬代とか諸々引いて
最終的に手元に残るのは15000円くらいだな。でも今日行くのは北陸だろ?都内や
中枢都市じゃないから多少レートは下がるかもな。それを加味すると20体くらい
倒せば寿司食べてもおつりがくる。」
理が淡々と述べた後に海が続けて言った。
「でも、野良がそんなにいるとは考えられない。都内でも多くて月に7体くらいだ。」
「まぁ、そういうの行ってから考えない?
いるにしろ、いなかったにしろお前がいれば正味安パイだからさ!」
時が海の肩に手を置きながらそう言った。
5人は開けた広場のような場所まで移動した。
「人が来るといけないから早めに移動しちゃおう。」
耀紀がそう言うと耀紀以外の4人全員が超術を解禁した。
トキの脚部には太陽のような文様が浮かび上がり、
理の脚部には左右それぞれに光の輪のようなものが三つずつ現れた。
「耀紀、お前は俺に乗るのか?それとも瀬最波時に乗るのか?」
「トキはなんか怖いから理さんにお願いしてもいいかな?」
「怖いってなんだよ!怖いって!」
そんな会話をしている間に海は『6』の刀を抜刀し2立方メートルほどの空間を斬り付けた。
「『陸琴ム解変』」
「こっちは終わったぞ」
海は刀を鞘に戻してトキの頭を軽く叩いた。
「じゃあ、私が軸になるから」
焔はそう言って理と時の間に入って理の左手と時の右手を握った。
外見は、両サイドに理と時がいてそれぞれの背中に耀紀と海が担がれて
真ん中に焔がいるという何とも妙ちくりんなものだった。
「そんじゃあ、ファイブカウントで行くよ。」
時がそう言うと理は首を縦に振った。
その時、向こうから不良のような男が二人近づいてきた。
「おい、あいつら何やってんの?」
「あの年でおんぶに手つなぎかよ!クソ面白れぇじゃねぇか!」
時は不良たちの気配に気づいていたがカウントを開始した。
「5、4、3..」
「君ら、離れといたほうが身のためだぞ」
海が少し大きめの声で忠告したが不良たちは聞く耳を持たなかった。
「2..1..」
耀紀たちとの距離が1メートルほどになって、
不良の一人が理や時の脚部を見て何かを悟ったがそれはもう遅かった。
目の前にいたはずの五人の男女は一瞬にして消え、
それと同時にとてつもない威力の衝撃波と爆音が不良たちを襲った。