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世界勢力が大きく二つに分かれ、第四次世界大戦が開戦してから1年が過ぎた。
多くの人々が住処を失くし、友が消え、そして自らに恐怖した。
親が子を殺し、子が親を殺すのもよくあることだ。
そして今日もだ。
ザッザッザッと列をなして兵隊が行進している。
此処は出兵する兵士を訓練する養成所通称『大創地樹』という施設である。
出兵する兵士は皆、16歳から20歳の男女、いずれも健康的で愛国心のあるもの。
そして最後に『人間』をやめる覚悟のあるもの。
「整列!駆け足!」
長官号令がかかると兵隊たちは皆行進の列を乱さず別の形で整列した。
「本日の訓練はこれにて終了とする!明日の訓練はないため休息をしっかりとるように!
それでは解散!」
訓練兵たちは先ほどとは打って変わってのびのびとしながら帰っていった。
「ノム長官殿。」
声をかけてきたのは身長が160センチほどの小柄な男子兵、そしてその後ろには長身な女子兵がいた。
「耀紀詩三等兵、どうした?」
「本日お時間よろしいですか?」
「体術稽古か?」
「いえ、『超術』の方を稽古してほしいのですが大丈夫ですか?」
長官はそれを聞いた途端苦笑いして答えた。
「私もできることなら教えてやりたいが、君の超術分類は『異神』だったはずだろ?
少なくともこの地区には異神分類のやつはいないと思うぞ。」
耀紀はしょんぼりした。
「あっ、あの長官様」
後ろにいた女子兵が口を開いた。
「私に超術稽古をしていただくことは可能でしょうか?」
「焔愛梨四等兵、君は『攻掌』だったか?ならば可能だ。」
焔は耀紀の頬をつまみながらいいだろ~と耳元で囁いた。
「見ていくだけでも何かの参考になるかもしれんぞ。見ていけ、耀紀。」
「ありがとうございます。」
耀紀は近くにあったベンチに腰を掛けて焔の訓練姿を見ていた。
(僕は役に立てるのかな...)
そんなことを心のうちで考えていると後ろから人気を感じた。
耀紀が振り返るより早く「またハブられてんのか?」という声が聞こえてきた。
声の主は瀬最波海という耀紀と同じ訓練兵だ。
「ハブられてない、こうやってしっかり見学してる。」
「それをハブられる言うんだよ。」
「あれ?時は一緒じゃないの?」
海には時という双子の弟がいる、彼もまた耀紀の同期だ。
「先に帰った」
二人は会話を続けながら目の前で長官と超術訓練をしている焔を見ていた。
「改めてあいつ凄いよなホントに、もう超術使いこなしてる。」
「攻掌の場合、体術さえできればいくらでも応用がきくからね。」
「あと、俺あのルックス好きだわ。」
超術を使用しているときの外見は人によって変わってくる。
焔の場合は額に光粒子でできた角のようなものが生え、四肢には黒色の幾何学模様が浮かび上がる。
「で、カイは何しに来たの?」
「ん?あぁ、飯行かないかなぁって思って。」
「行く。」
「どこ行く?」
「肉。」
「単語で会話するのやめろ、分かった肉な。焔も誘うだろ?」
海はそう尋ねると耀紀は首を縦に振った。
そして同時に遠くから焔の「ありがとうございました」という声が聞こえてきた。