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バッドエンドパーフェクトヘリカルスキャン。

作者: 坂下貴靖

ボクは、反省と、後悔の念すら残していない。この人生においては。


 ボクは、所謂、マニアックな、オタク青年だ。

 部屋には、ボクの集めた、業務用ビデオテープ、千本以上が、乱雑に並んでいる。普段は、使用しない、編集用の機材もある。そこで、熱心に、自分の好きな映像に、好きな文章、そして、好きなイメージ映像などを、貼り付けるのだ。

 ボクには、好きなアイドルがいた。そのアイドルの、ビデオの編集には、特に気をつかう。そして、家に籠って、ただ、その特別な趣味に、時間を割く。

 ビデオ製作に必要な、大切な機材は、精密、緻密に、作られている、国産製ビデオデッキだ。これはボクの自慢の品でもある。録画ヘッドが、斜めに取り付けてある、珍しいマニアックな、品物で再生も、美しく緻密に再生される。

 ボクが、今日、手に入れた、この録画再生方式の、ビデオデッキは、もう、15代目の作品で、基本的に、この黒い筐体のビデオデッキは、見た目は変わらない。しかし、中身の性能は、ものすごく、アップデートしてくるから、マニアにはたまらない。事あるごとに、ボクは、このビデオデッキを購入愛用してきたが、この進化には、目を見張るものがある。

 まだ、ボクは、このビデオデッキに、1本目のビデオを、入れていない。電源すら入れていない。コンセントは、繋いである。ボクはただ、そのマニアックな筐体を、眺めていたかったんだ。

 その日は、気だるい真夏の一番暑い日だった。

 ボクはヘリカルスキャン方式の精密なビデオデッキを手に入れて、大満足だった。そして、そのビデオデッキを眺めていた。マニアには、そういう時間こそたまらない。そういう楽しい時間があるのだ。

 そして、クーラーの入った、涼しい部屋で、なんのビデオから見ようかと、ニヤニヤしながら、想像するのだ。

 ボクは、そういう精密なものを見ると、妙な興奮と、物質の静けさから、静寂を感じるのが好きだった。ボクはさまざなものから、それを感じることが出来た。ボールペン一本からでもだ。ある種の特殊な類の、品物を見ると、それはボクを興奮させた。そういう、気質は、ボクに、簡単な仕事を与えてくれたし、それは、一部の周りの、人から、期待通りの仕事をボクにさせてくれた。

 その、マニアックな感覚を、数十秒間、与えてくれるのが、今回のビデオデッキの類だった。その数十秒間ボクを魅了する時間は、ボクにとって、何時間もの、トリップに、感じさせてくれる。

 そしてその数十秒間が、心地よいのだ。

 ボクは、それを眺めて、部屋を出た。水を汲みに行こうと、決めたからだ。ボクは、一回に氷入りの水を汲みに行った。そして、忙しく、水を汲み、部屋に戻った。そして、床に座った。

 そして、ボクは、ビデオデッキを、また、眺めだした。数秒たち、20秒ほどが経過し、1分ほどが経過した。

そしてボクの意識は、飛んでしまった。そして、ボクの意識は、変遷する。しかしやはり、ビデオデッキはそこにあった。部屋には、ビデオデッキ一台だけ、部屋は暗く、床があるかすら見えなくなる、電源は気付くと自動的に入っていた、その体感間隔は、時間を隔てているとは感じさせない。その空間では、ボクは大量のビデオのデータが読み込まれていたのがわかった。シュイーンという音を立てて、録画ヘッドが回り始める。

ボクにはそれが一瞬で理解できた。ボクは、これから起こる、危険な状態、そして危機的状態がすぐに理解できた。そして、この、危機的状態から、逃れられない恐怖に駆られた。

 精密な機械というのは、それだけで、完璧には大抵作られていないはずだった。しかし、このビデオデッキは、偶然にも、完璧な出来栄えで、完璧な設計図から一億分の一ミリコンマも、ずれていない、ビデオデッキだった。

 録画ヘッドは、ボクを消しにかかるそう感じていた。水を、持ち込んだのが悪かった。そう思っていながらも、ボクの人生は、ただ、この空虚な完璧なビデオデッキによって、消磁されてしまうのだ。つまり、このビデオデッキと出会ったことによって、ボクの周りの人間、仕事、人生は、データとして扱われ、あっという間に、録画ヘッドに、よって、擦り切られてしまうのだ。そして、ボクの周りの人間からの、遠い声が聞こえ始める。

「うわ、最悪。」

「あーあ。こういう終わり方なのね。」

「こういう人生、ハイハイハイ。」

もう、すでに、ボクの体は残っていない。もうボクは半分以上、完璧なビデオデッキによって、終えようとしていた。

ボクの好きなアイドルからは、

「ハイハイ、最初からいなかったようなものね。私も、あ、な、た、も。」

と冷たい言葉を掛けられ。

「あーあーあーあーあ、終わりね。」

と誰かわからない、声すら聞こえて、それが聞こえている間に、鋭い感覚と擦り切れるような痛みとともに、真っ暗になり、何も無くなっていた。

それまで数秒だったろう。ボクはいなく。ビデオデッキだけが音を立てて、回っている。ただ、シュイーンという音を立てて、そして、全く闇になった。テープが切れるように。軽いノイズを残して、ばさっと、ハサミを入れたように、そして真っ暗になった。

彼の、人生は、ビデオテープ上にあって、データが再生されていただけだった。

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