長く暑い夏の夜
こんなに暑い夜だからドライブにいこうとサヤマ先輩が、オレとシュウジにいった。
オレはどこにいくんですかとサヤマ先輩に聞いた。
「あそこの“おちゃめなペンギン”だよ」
「センパイ、あそこってユーレイが出るってウワサでしょう」
シンナーのやり過ぎのせいで、前歯のないシュウジがサヤマ先輩にいった。
おちゃめなペンギンというのは、山奥にあるラブホテルだった。だったというのは、山奥にあるのと、不況のせいで客足が遠のいて潰れたからである。が、ほかにもあるウワサがあった。このラブホテルには出るらしいのである。
ホテルが建つまえは、平家の落ち武者の墓地だったからというウワサや、不倫中のカップルが無理心中をはかったがいいが、この世に未練があってユーレイとなって現れる。
ほかにも、レイプで殺された女性が出るや、堕胎して死んだ赤ん坊の泣き声がきこえる。などといったいわくつきのラブホテルであった。
「でもお前ら、たんなるウワサじゃねえか」
「でも先輩、オレのツレのカノジョの聞いたはなしでは……」
「それだよ。それって、結局、また聞きだろ」
「そうですけど……」
「じゃあ、今からホテルにいこうぜ!」
「たのしみだなー。オレ、ユーレイみたことないっすよ」
サヤマ先輩とシュウジはホテルにいくきまんまんだった。
「でも、クルマはどうします?」
オレはサヤマ先輩にクルマのことを聞いた。このなかでは誰もクルマをもっていなかった。
サヤマ先輩は、ケータイを誰かにメールした。十五分ぐらいだろうか。一台のクルマが猛スピードでこちらにやってきた。
「オメェおせえんだよ。このバカ犬が!」
「す、すみません……」
クルマの中から運転している小太りの男がサヤマ先輩にあやまっていた。
「こいつわぁ、オレのパシリ。名前は……わすれた」
「そんなぁ、ひどいですよサヤマ君。ボクの名前はヒトシですよ」
「うるせえ! てめえの名前なんかどうでもいいんだよ! このバカ犬!」
「で、なんでボクを呼びだしたんですか?」
「オレたちと“おちゃめなペンギン”までドライブだよ」
「あそこですか? あそこは……」
「それを確かめるためにいくんだよ。おいバカ犬、ビデオカメラもってきたんだろうな」
「もってきましたよ……」
「ヨッシャ! それじゃ出発じゃ」
オレたちはヒトシのクルマに乗って、ラブホテルへむかった。
途中、コンビニがあったのでオレたちはいろいろ買い物をした。シュウジは、なぜかコンビニで花火を買ってきた。
「ハデでたのしいでしょ」
「シュウジ、おまえ気がきくねー」
買い物をすまして、コンビニをあとにした。
オレたちはコンビニで買ったもので夜食を食べていたが、サヤマ先輩はビールも買っていた。
おまえらも飲めといってきた。
サヤマ先輩はごねるとめんどくさいので、オレはいやいやながらビールを飲んでいた。シュウジは逆に、ありがとうございますといってビールを飲んでごきげんだった。
夜中の二時ごろ、やっと目的地であるラブホテル“おちゃめなペンギン”に着いた。
ホテルの玄関はカギがかかっていてしまっていた。そこへシュウジが、ガラスのない窓を見つけたので、オレたちはその窓からホテルに入った。
先頭は、シュウジ、サヤマ先輩、オレ、サトシの順だった。
「おいバカ犬。ちゃんとカメラ回してるだろうな」
「もちろん、回していますよ」
オレたちはホテル内を歩いていたがなにも起こらなかった。途中、あきてきたのか、先頭のシュウジがホテルの部屋に入ると、買ってきた花火を取りだして火をつけた。
「この花火、ハデでサイコーじゃん」
「おいシュウジ、オレにもやらせろよ。バカ犬、ちゃんと録っとけよ!」
「わかりました……」
シュウジに花火をわたされたオレ。
廃墟になった部屋で花火大会をするオレたち。
サヤマ先輩は部屋の奥に何かを見つけた。それはビールびんだった。びんにロケット花火を差しこんでヒテシに向けて火をつけた。
ロケット花火はヒロシに当たった。ロケット花火をヒロシに当てて笑いころげるサヤマ先輩。ヒロシは部屋から出ていった。
花火もなくなり、幽霊なんか出ないとわかり、オレたちはホテルから帰ろうとした。が、ヒロシの姿が見当たらなかった。
「センパイ、あの人、にげたんじゃないですか?」
「シュウジ心配するな。バカ犬が逃げないように、クルマのカギはオレが持ってるんだよ」
「どこにいったんです? 先輩、あの人にメールしたらどうです?」
「そうだな。してみるか」
サヤマ先輩はサトシにメールを送った。メールはすぐに帰ってきた。
『どこかのカップルがやってます』
メールにはそう書いてあった。
どこの部屋でカップルがやってるか、もう一度メールを送った。
三階の奥の部屋だと返事があったので、オレたちも三階にいった。
三階は想像を超える廃墟だった。
ゴミが散乱してくさい臭いがして、ホコリが山のように積もっていた。
奥の部屋に近づくと、女の声が聞こえた。
オレたちは、女の声がする部屋にくると、ヒトシがドアごしにビデオカメラを撮っていた。
「おいバカ犬! なにやってんだよ」
「これ見てくださいよサヤマ君。こんなところで、やってるカップルがいるんですよ」
「そりゃラブホテルだからやってるカップルぐらいいるだろう」
オレは違和感を感じた。なぜ潰れたホテルにカップルがいるんだ?オレは部屋を見てあることに気がついてサヤマ先輩にいった。
「サヤマ先輩、この部屋やばいです」
「何がやばいんだよ」
「カップルのベットのまわりのホコリ、足あとがありません」
「それじゃ、ベットのうえにいるのは誰なんだ?」
「わかりません。ただいえるのは、ベットには誰もいません」
そうなのだ。ベットのカップルは声はすれど、姿は見えなかった。
「はやくかえりましょうよ……」
「シュウジのいう通りですよ。サヤマ先輩、はやくこのホテルから出ましょう」
「わかったよ。おいバカ犬も帰るぞ」
「ちょっとまって。あとすこしだけ。めずらしいでしょ。これをネットに流してボクはネ申になるんだ」
こうふんしてカメラを回すヒトシを、オレたちは強制的にヒトシをホテルから連れ出した。
残念そうな顔をしているヒトシ。
「今度はおまえひとりでいけばいいだろう」
ヒテシの顔を見て、サヤマ先輩はあきれたようにいった。
オレたちはホテルをあとにした。もうすぐ夜が明ける時間だ。
クルマがオレの家に着いたので、オレとシュウジはクルマからおりた。
「おまえら、いまのみねえのか?」
「オレはもう眠いから」
「オレも見たいんだけどバイトなもんで」
「しょうがねえなぁ。オレとバカ犬と、ほかのやつらと見るわ。じゃあな!」
サヤマ先輩とサヤマはクルマを出して、オレたちからさっていった。
「そういえばシュウジ。いつバイトなんかやってたんだ?」
「バイトしてないよ。ただ……あれ、サヤマ先輩ら見るんだれう?」
「そうらしいな」
「なんか、呪いのビデオみたいだろ。あれ見たらオレたちも呪われるのかな?」
「わからんよ。まあ、サヤマ先輩になにかあったらやばいだろうな……」
オレはシュウジにいった。シュウジの顔は真っ青だった。オレもいやな気分だった。シュウジは自分の家に帰った。
オレはサヤマ先輩にウソをついた。
サヤマ先輩はこのあとあのビデオを見るだろう。
そして映っているアレに気づくだろうか?
四つの目が見えたのがわかるだろうか……。