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第七十三話 マリー

「ママ……ママ…………なんで……ッ!」


 熱を失った母親の体にしがみつきながら、マリーはずっと泣いていた。


 * * *


 パーティが解散してから私はパン屋を経営している家に帰ってきた。クエストの合間にときどき帰っていたから分かっていたが、小麦の香りがする家はやはり変わらないままだった。


 四人での生活が気に入っていたのだが、ああなってはパーティは解散だろう──主に私のせいだという気がするが。私には他に入れるパーティのあてもない。しばらく冒険者には戻れないな。


 パパとママと話し合った結果、とりあえず冒険者に戻るまではお店の手伝いをして生活することになった。


 一人増えて大丈夫かと訊いたけど、そのくらい大丈夫だと胸を張って答えたパパの言葉にここは甘えよう。


 いざとなれば、冒険者をやりながら蓄えた分が少しはある。それを使えば、何かあってもしばらくはどうにかなるだろう。


 クエストで何度もやっていた掃除とかどぶさらいとかそういうの嫌いだったけど、ああいうクエストほど金払いはよかったものね。この貯金もその報酬があってこそだから、そこには感謝してもいいかもね。


 だからきっと大丈夫──そう思ってたのに。


 ある日、ママが突然血を吐いた。それから、ひどく咳き込むことが多くなり、店には立てなくなった。


 ゴホゴホと咳き込む音が聞こえてはいけないとママは奥の部屋に閉じこもった。


 それから寒い季節が来て、体力が落ちたのかママは寝たきりになってしまった。私とパパは店番とママの世話を交代でやるようになった。ベッドに寝ているママが「ごめんね」と何度も言うのが辛かった。


 ママが病気になってからパンの仕込みを毎朝一人でやっているパパが、だんだんと弱っていくのが分かったが、私はまだ仕込みを手伝えるほどの腕ではなかった。私がずっとうちで手伝いをしていれば──そう思った。


 私も頑張って上手くパンが焼けるように少しずつ練習はしていたが、ふっくらとしたパンが焼けるまでにはまだまだかかりそうだった。


 私たちの世話も空しく、ママは衰弱していくばかりだった。それもそのはず──ママの病気は不治の病なのだから。


 私だけじゃなく、パパもママも分かっている。でも言わないようにしていた。だからこれはママと少しでも長く一緒にいるためのお世話。


 ある朝、ママの様子を見に行くとママの返事がなかった。揺すっても大きい声で呼びかけてもママは何も言わなかった。


 ずっと前から覚悟はしていたはずなのに──それなのに、涙が止まらなかった。みんなで一緒に出掛けたり、パンを作ったり──色んな思い出が甦る。


 もう新しい思い出は作れないんだと、もう笑って話すママはいないんだと、そう思った。




 ぽっかり心に穴が開いて感情が全部すり抜けていくような状態のまま、ママは埋葬された。


 その後、パパと私はママが元気なころの生活に戻った。ママがいないだけで、うちは前よりもとても広く感じた。


 パパはゆっくりと、少しずつ前に歩きだしている気がしたが、私はまだママの死から立ち直れていなかった。心に大きな穴が開いてしまったような、見える景色から色が抜け落ちてしまったような──そんな状態だった。


 ある日、本当かどうかも分からない噂話をお客さんが話しているのを聞いた。熟練した回復魔法の使い手はどんな病も治すことができる、と。


 よくある与太話かもしれない──私はそう思った。でも、もしそれが本当ならママもきっと──きっと助かったはず。


 私の回復魔法は効果がなかったけど、もし私が回復魔法をもっと使いこなせたら──そんな思いがよぎった。


 その日から私は店にくるお客さんに回復魔法の使い手について訊くようになった。それで私も一歩前に踏み出せるような気がして。


辛い

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