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75話 天道と黒龍<後>

更新時間が遅くなってしまい、すみません><

また、急遽引越しすることになったため、申し訳ありませんが金曜日と日曜日の更新はお休みします。

場合によっては引越し作業が延期になる可能性もありますが、その際には別途お知らせ致します。

よろしくお願いします!


 セツカとシオンは当時を思い返すように、記憶の中にいるブラックマリアドラゴンを鮮明に語ってくれる。


「あ奴が復讐という炎に蝕まれ、おかしくなっていったのは(つがい)の竜と子龍を失ってからでした」


「あれは見ていて面白いものじゃなかったわね。今までのブラックマリアの姿が、見る影もなくなっていったもの」


 表情に影を落とした二人は、一呼吸置くと彼女の身に起きたことを教えてくれた。


 ブラックマリアドラゴンが灰龍に狩りを教えるべく出計らった隙をついて、子龍の噂を聞いた人間に巣が襲撃されたらしい。

 

 子守をしていた番の老竜が応戦するも、子龍を人質に取られてしまい成す術なく魔法の的にされ、事切れる間際にブラックマリアドラゴンが帰還。


 怒り狂う彼女をみた人間が、あろうことか獲物を取られて怒っていると勘違いし、夫である老竜の死骸と共に目の前で人質にしていた子龍を殺し供物にと捧げて命乞いをしたと。


 怒りのままにそのこと如くを殺し、最後の一人になぜ子龍を狙ったのか問いただしたところ、後に滅ぶことになった大国の王が子龍を拐ってこいと命令を出したのだそうだ。


「あ奴は悩んでおりました。人間が憎い、されど人間全てが悪いわけではないはずだ。灰龍だけは無事だが、行き場のない負の感情を鎮められない自分はどうしたら良いのだ、と。我にはよく理解できませんでしたが、日に日に荒んでいくあ奴を見ていると、ここまで劇的に変化をもたらす『愛』とは一体何なのだろうか? と、強い興味を抱いたことを覚えています。そして––」


 セツカはチラリとガレリアさんに視線を送った後、言葉を続けた。


 最後の人間が言っていた王とやら、その真意を確かめて来ると言い残し、単身人化した状態で人間界へと渡ったブラックマリアドラゴン。


 ようやく辿り着いた今は亡き大国で目にしたものは、死んだと思っていた我が子の変わり果てた姿。


 一部のものたちが老竜の素材欲しさに子龍を一体人質にして残ったが、任務を優先したものたちは一体だけを連れて無事国へと戻っており、王は拐ってきた子龍を魔法で痛ぶって見せることで王家の威光を強めていたらしい。


 子龍を奪還して一度魔界へと戻ったブラックマリアドラゴンは、セツカに灰龍と共に弱った子龍を預けると、止めるのも聞かずに人間界へと乗り込んだそうだ。


「怒りに呑まれて我を忘れるなど愚かだと、生きて子龍の傍にいてやるべきだと何度も諭しました。ですが、あ奴の心はすでにどうしようもないほどの怒りと憎しみに支配されてしまっており、最後の理性で子龍を連れ戻ったようです。もはや噴火寸前のマグマのような、その身すら焼き焦がすほどの怒りを内に迸らせてましたので」


「あの灰龍(ばか)は母親が怒りに任せて人間を殺すところを見たことで、本来の龍としての本能に目覚めてしまったって訳ね。父であった老竜の死にも何も感じていないようだし、ブラックマリアの想いは残念ながら受け継がれなかったのよ」


 二人の言葉に、何とも言い難いと言った様子の一同。


「セツカとシオンは……ブラックマリアさんの仇討ちを、なんて考えたりしないの?」


 僕の言葉を聞いて、人族側に緊張が走る。


「うちはないわね。人間が弱いとはいえ、魔力の補給が難しい人間界で暴れまわればいずれ魔力が尽きることなんてわかりきっているもの。ブラックマリアはそれをわかった上で行動を起こしたのだから、死んだとしてもきっと本望だったでしょう」


 淡々としたシオンの言葉に、少し緊張は和らいだものの複雑そうな一同。


「我もありません。……と言いたいところですが、少しわからなくなりました。もし……もし、そのような目にあったのが主殿だったらと考えた時、我はあ奴と同じ行動を取る気がしてまうのです。その様なことを考えていたら、なんだかあ奴のことが他人事だとは思えなく……」


「貴女……」


 シオンが驚いた表情を浮かべる中、不謹慎だけど僕は何だか嬉しくなってしまった。

 

 セツカは少しずつだけど、変わってきている。


 そう思えたから。


「セツカ、シオン、素直に気持ちを打ち明けてくれてありがとう。……グラーヴァさん、ブラックマリアドラゴンの遺骸はその後どうなったんですか?」


「ん……? 黒龍が死の間際に自分自身を黒炎で燃やしたから、ほとんどが消滅しちまったよ。残ったわずかな部分に関しては、直接討伐したワシら天道が半分を。残りを被害の大きかったリーゼルンと復興支援に尽力したウェルカ、ネーブの3カ国で分けたはずだ。ワシも龍鱗を保有しているが、それがどうかしたのか?」


「そうですか……。遺骸が残っているのなら、家族の近くで埋葬してあげたいと思いまして」


 静かに話を聞いていたリルノード公は、すぐに戻りますと部屋を後にすると、しばらくして大きな箱を抱えて戻ってきた。


「シズク様。こちらは我が国が受け取った、ブラックマリアドラゴンの魔石です。お納めください」


「な?! 閣下、何を?!」


 コアンさんが慌てて止めようとするけど、手で制すリルノード公。


「本来あるべき場所に還すのです。確かに我が国は、かの龍により甚大な被害を出しました。ですが、本当に我々は一方的な被害者でしょうか? 起こるべくして起こった悲劇だと言われても致し方無い内容だと、わたくしは感じました」


「ですが、それは我が国が周辺国を牽制していくために必要なもの。手放す気がないとはいえ、その価値は毎年しっかりと国庫に計上されているのですぞ! 周辺国とてそれは周知しております! 今の状況下で国庫まで枯渇しかけていると知られれば、いつ寝首をかかれるかわかったものではありません!」


「そうかもしれませんね。ですが、ここで還さずしていつ還すのですか? 真の歴史を知った以上、更なる禍根を生みかねない要因は断つべきではありませんか? それとも、セツカ様の言葉は全て嘘だと切り捨てますか?」


「それは……」


 押し黙ってしまうコアンさん。


「安心せい、コアン殿。我が国に保管されているものも、国に戻り次第シズクへと還すと誓う。また、此度のリルノード公の決断により周辺国が動いた場合には、我が国も協力は惜しまん」


「エンペラート皇帝……ありがとうございます。これで問題ないですね、コアン?」


「はっ!」


 敬礼したコアンさんは、頭を下げると後ろへと下がった。


「リルノード公……陛下……。ご寛大な決断、本当にありがとうございます」


 僕が頭を下げると、微笑む二人。


「先に手を出したのは人間だ。当然、ワシが持っとる分も還すと約束しよう」


「あたいもだ。一部の人間がしでかしたこととはいえ、大切な友人を失わせる結果になっちまってすまなかったね」


 二人から視線を向けられたガレリアさんも、わーってるよと頷く。


「黒龍を討ったこと自体は後悔してねぇ。だが、寝覚がひどく悪りぃのも確かだ。よく知りもしねぇで勝手なこと言って悪かったな。もう言わねぇと誓うぜ」


「皆さん……ありがとうございます」


 僕は頭を下げると、セツカとシオンへ視線を向けた。


 残るブラックマリアドラゴンの遺骸を集め、故郷にお墓を作る。


 必ず成し遂げると二人に誓い、強い決意を胸に刻んだ–––。

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追放《クビ》から始まる吸血ライフ!
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[一言] 引越しするんですね!忙しいですよね……。更新気長に待ってます!
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