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71話 クラーボツの誤算1


 魔界の自室にて、リリアナと共に優雅にティータイムを楽しんでいたクラーボツ。


 直にヒドラがソールを陥落させ、あの人間どもに大きな貸しを作れる。


 そうすれば、人間界のどこかにいるであろうティアとネイアの捜索をより本格化させるよう圧力もかけやすくなるし、何より近い未来自分が当主になった暁には、人間界への太いパイプを持つこともできて一石二鳥の作戦。


 サキュバス族やインキュバス族は人間にとても人気なので、自身にとって不都合な者は秘密裏に奴隷として流せば懐も温まると考えていた。


「楽しそうねぇ、クラーボツ」


「おや、顔に出てしまっていたかい?」


「ええ、とてもニヤニヤとしていたわよ。それで、人間界(あっち)はどうなの? ティアベルは見つかりそう? 母様がうるさいのよ、早く捕まえろって」


 面倒そうにぼやくリリアナ。

 

 彼女はティアの妹であり、クラーボツの婚約者だ。


 顔立ちは姉妹だけありティアと似ているものの、目元は釣り上がりとてもキツイ印象を受ける。


「そうしないうちに捕まると思うよ。なんせ彼女たちがいるのは、間違いなく人間界なんだ。人間に正体がバレれば奴隷にされるだろうし、かと言って都合良く理解のある庇護者が見つかるとも思えないからね。もしかしたら、もう死んでしまっているかもしれないよ?」


「それならそれで助かるわ。母様に小言を言われなくなるもの。でも、死んだという確証がないことにはダメよ? 母様はあの女を前王へと献上したいみたいだから」


「おや、そうなのかい?」


「なんでも大の女好きらしいんだけど、燃え上がるとすぐに壊してしまうんだって。だから、女はいくらいても良いみたい」


「あはは、それは怖いね。ティアベルは君にそっくりだし、喜ばれそうだ」


「何言ってるのよ、私の方がよっぽど良い女でしょう?」


「もちろん君にの美貌には敵わないさ」


 アハハハと声を合わせて陽気に笑った二人は、やがて見つめ合い顔を近づけていく。


 唇が触れ合うまであとほんのわずか、そんな距離で突然立ち上がるクラーボツ。


「ど、どうしたの?」


「ヒドラが……倒された……?」


「えっ?! どういうこと?!」


「わからない……。突然ヒドラにかけていた魅了が解けたんだ」


「あのヒドラはバイオレットヴェノムドラゴンの毒すら食らうほどの、飛び抜けた力を持つ個体だったはずでしょう?! 現に、魅了の魔眼で支配下に置くまでに護衛が何人も死んだのよ?! まさか、紫龍に気づかれた……とか?」


 顔を青ざめさせて、小刻みに震えるリリアナ。


「それはないはずだけど……くそ、どうなってるんだ! 全然状況がわからないっ!」


 彼らとて不用意にヒドラに手を出した訳ではない。


 ヒドラの巣近くに住む魔族や知性の高い魔物などに幾度となく紫龍の目撃証言などを聞き、一定の頻度でヒドラの確認に来ていることなどを入念に調べた上で、その隙間を狙って一時的に借りるつもりで魅了したのだ。


 調査結果などからの推測では、次に紫龍がヒドラのもとを訪れるのは早くても二ヶ月先。


 それまでにヒドラを巣へと戻しておけば龍の怒りに触れることはないという結論から実行に移したものの、イレギュラーのことも当然想定していた。


 だからこそ、万が一に備え自分たちの関与を悟られぬよう近くには見張りすらつけずに寄り付かないようにしていたのが、結果的に仇となった。


 彼らは白龍の時もそうだが、サンダーバードもヒドラも倒されることを想定していない。


 傷つくことはあっても、討たれるなどとは思ってもいなかったのだ。


 一定の手傷を負った場合にはすぐに魔界へ戻るよう指示していたほか、自身を討つ可能性がありそうな者がいると判断した場合にも近づかぬか逃げるかするよう、入念に暗示をかけておいた。


 サンダーバードの際は、その後白龍がゲートの方へと飛んで行ったという目撃情報を得ることができたため、おそらく人間界に渡りサンダーバードを食べたのだろうと結論づけることができた。


 もちろん、龍が自らの設置したゲートで人間界へと渡ったなどとバレては不利益しかないため、クラーボツはロド王らには現在も白龍が人間界にいるであろうことを報告していないが。


 だが、白龍が紫龍の好物に手を出すとも思えない現状、最悪の展開が頭を過ぎる。


 二人は眠れない夜を強い不安に苛まれながら過ごし、翌朝にはすぐさまゲート近辺の目撃情報を集めるよう指示。


 半日後には、部下から有力な情報を得ることができた。


「何?! アッシュヴァイオレンスドラゴンがゲートの方へ飛んで行った?!」


「はい、そのようです」


「なぜだ?! 灰龍は人間界になど興味がないはずだ。それとも、偶然同じ方向に向かっただけなのか……??」


「おそらくですが、ヒドラを追っていったのではないかと。過去にも何度かヒドラを襲い、紫龍へとちょっかいをかけているという情報がありましたので。現に、2時間もせずに再びゲート方面から飛んでくる灰龍が目撃されています」


「そういうことか……。では、ヒドラを倒したのはおそらく灰龍で間違い無いだろう。一安心だな」


 部下が下がったあと、ほっと胸を撫で下ろし笑みを浮かべるクラーボツ。


 それから2日後、ロド王から魔報––魔力による簡潔なやりとりを可能とする魔道具––を受け取り、再び人間界へと渡ったクラーボツは念願の情報を得ることになる–––。

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追放《クビ》から始まる吸血ライフ!
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[一言] なんかざまあ来そうで楽しみです!
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