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61話 シズクへの疑い


 僕たちが一息ついて地面に座り込んでいると、真剣な表情をしたアスリさんがやって来た。


「で、もちろんあの解毒薬の出どころ、説明してくれるんだろうね? まさかとは思うが、いざと言う時に備えて保管してました。なんてふざけたこと吐かしたらタダじゃ置かないよ?」


「アスリ、今はそんなこと……」


「あんたは黙ってな! いいかい、タイミングが良すぎるときは疑ってかかるもんだ。毒を持った魔物ばかりの襲撃、偶然居合わせたはずのシズクが持っていた大量の解毒薬。いくらなんでも都合が良すぎるだろッッ!」


「それはそうですが……」


 僕を庇ってくれたリルノード公も、アスリさんの言葉に反論できず黙り込んでしまう。


「貴様、我が主殿が此度の襲撃を引き起こした張本人だとでも言いたいのかっ?!」


 冷たい冷気を放っていると錯覚するほど、背筋が冷える濃密なプレッシャーをアスリさんに向けるセツカ。


 漏れ出ているだけだからまだ周囲の患者さんに影響はないけど、これ以上はまずい。


 そう思いセツカを止めようとしたところ、アスリさんが驚いたように目を見開いた。


「この重圧……。あんた、まさか……」


「アスリ、それ以上を口にするのはおよしなさい。シズク様が本気でこの街を襲撃する気があれば、この程度の規模で済むはずがないと理解できたでしょう?」


「ああ、みたいだね。だが、それとこれとは別問題だ。壊滅させる気なんてはなからないなら、理由はいくらでも思いつく。ウェルカがリーゼルンに恩を売るためだとか、自分が英雄と崇められるためだとかね。だからこそ、説明はしっかりしてもらわないと納得できないよ」


 セツカのプレッシャーにも全く引く様子のないアスリさんは、セツカと睨み合い火花を散らす。


「セツカ、落ち着いて。気持ちは嬉しいけど、今は事態を悪化させるだけだよ」


「ですが……」


「大丈夫、ちゃんと説明すればわかってくれるよ。ほら、これでも食べて」


 そう言ってお皿に乗った大きなステーキを手渡すと、不服そうながらも後ろに下がってくれた。

 

 ご褒美で無理やり納得させたみたいでアレだけど、アスリさんの言ってることも理解できるからね。


「へぇ、あの状態でも抑えられるのかい……。ますますあんたに興味が湧いて来たよ。それで? 説明してもらえるってことで良いのかい?」


「ええ、もちろんです。ただ、ここでは説明できないので一度大公邸に戻りたいのですが良いですか?」


「あたいは構わないよ。でも、そう長くはここを離れられないからね。急ごうか」


「大丈夫です、行き来はすぐなので。『ゲート』」


 僕はここへ来たときと同じように、大公邸へと繋がるゲートを生成した。


「は……? 襲撃から救援までがやたら早いとは思ってたけど、なるほどねぇ……。こりゃあのレベルを手懐けちまう訳だ……」


 久しぶりに信じられないようなものを見る視線を向けられてしまった。


 ゲートで大公邸へと戻って来た僕たちは、エンペラート陛下に襲撃が落ち着いたことを報告してから事情を説明。

 有難いことに僕の無実を証明する手伝いをしてくれるとのことで、レスティエ様やベルモンズ宰相、グラーヴァさんたちと共にアスリさんたちへの説明会に参加してくれることになった。


 応接間へと場所を移した僕たちは、陛下と共にいたコアンさんを含めた三人に僕の偽物(フェイク)魔法のことを説明。


 ワクワクとした様子を見せるリルノード公、何を言ってるんだと怪訝そうな視線を向けてくるアスリさんとコアンさんに、ひとまず実際にフェイクで生み出したものを食べてもらうことになった。


 方法は単純で、たった今運び込まれた紅茶の付け合わせであるスコーンと同じものを僕が作り出すと言うもの。


「こちらが実際に調理されたスコーン。こちらが僕がフェイクで作り出したスコーンです」


 リルノード公たち三人と、折角だからと言って自分たちの分も用意させた陛下たち全員分を用意し終えた僕は、それぞれの前に二つのスコーンを並べた。


 アスリさんとコアンさんは実物と偽物を交互に見比べたり、実際に手に取って感触を確かめたりと様々な方法で2つを比較している。


 リルノード公はフェイクの方をじっと見つめたまま動かない。


「アスリよぉ、断言するぜ。お前さんはこれから、今まで生きて来た中で最も美味いスコーンを食うことになる。そして、坊主が近くにいないことを後悔する日々が始まるんだ!」


「ハッ、何を馬鹿なこと言ってんだい! 確かによく出来ちゃいるが、これはフェイクなんだよ! 食える訳ないじゃないか!!」


「ふぉふぉふぉ。確かに、フェイクとだけ聞くとそう思ってしまうのも仕方ないわい。では、余らは先に頂かせてもらおうかの」


「フフ、シズクくんが時々しかダメですなんて言うから、中々食べれないのよね。こんな絶好の機会を用意してくれたアスリには感謝しないと」


「シズク殿には悪いが、私も同意見ですな。できれば今夜の酒のアテも用意してもらいたいものです」


 そんなことを言いながら、期待に満ちた視線を向けるベルモンズ宰相。


 セツカの一件や今の説明会のこともあるし、断りづらいのをわかってて言ってるんだろう。


 とても負けた気分だけど、仕方ないので「今日だけですからね」と伝えたら、満面の笑みを浮かべてスコーンを食べ始めた。


 ちなみに、セツカだけは1個じゃ足りないだろうと思い、山盛りのスコーンを準備したんだけど次々に口へと放り込んでいる。 


「おいおい、あんたらマジかよ……。昔グラーヴァにイタズラで食わされたことがあったが、無味無臭なのにモニュモニュとした気持ち悪りぃ食感でひでぇもんだったぜ?!」


「アスリ、食べてみればわかります。世界が変わりますよ」


 いつの間にかスコーンを実物と偽物のどちらも食べ終え、口元を布巾で拭いながら微笑を向けるリルノード公。


「リル嬢までかよ……。わかったよ、食えばいいんだろ、食えば!! ええい、女は度胸ッ!!」


 目を強く瞑ったまま、勢いよくフェイクスコーンを口に放り込んだアスリさん。


 恐る恐ると言った様子で一口噛むと、目を見開きあっという間に咀嚼して飲み込んでしまった。


「……うんめぇぇええええええええッッ!!! なんだこれ?! ホントにこれがフェイクなのかよ?!」


「これは……。コックには申し訳ないが、シズク殿のスコーンを食べた後だと数段劣ると感じてしまうほどの差がありますね」


「それだけじゃねぇ! 微量だが魔力が回復しやがった! どう言うことだっ?! 魔力そのものを食ったからか!? て言うか食いたりねぇ! もっとよこせ!!」


「わ、わたくしもできれば後2つ、3つほど……」


「シズク殿。私は5個でお願いします」


「あはは……」


 陛下たちも1つでは物足りなかったようで、熱い眼差しを向けて来た。

 

 仕方ないのでテーブルの中央に大皿を3つ作り出し、全てに山盛りのスコーンを用意すると、全員が手を伸ばして次々に自分のお皿へと移していく。


 リルノード公はともかく、アスリさんとコアンさんはさっきまで食べることを躊躇していたとは思えないほど、ガツガツと食べ進めていた。


「シズク、疑って悪かったな! こんなうめぇもんが作れんなら、解毒薬が作れたところでなんら不思議じゃねぇ! 原理は全くわかんねぇけどな!! セツカも主人を疑って悪かった!」


「ふふん、わかれば良いのだ! 主殿の魔法は素晴らしいからな、あれくらい容易いことよ!!」


 二人はスコーンを頬張りながら、先ほどの一件を水に流せたようだ。


 でも、束の間の平和な時間はあっという間に終わりを告げた。


「し、失礼しますっ! たった今伝令が入りました! ヒ、ヒドラが……大量の魔物を引き連れ、こちらへ向かっているとのことですっ!!」


 応接間に飛び込んできた、顔面蒼白の騎士の言葉によって――。

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[一言] おお!タイトル通りの話ですね!正に食べられる魔法?!
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