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53話 沈みゆく泥舟1


 ウェルカ帝国、リーゼルン公国の面々と別れたロド王は、宿の自室へと戻ると顔を歪めながら床を強く蹴り付けた。


「くそっ! くそがッッ!! 何故こうもウェルカに遅れを取る?! あんな勢いだけの弱小国家に、なぜだァ!!!」


 だが、自身とて改めて考え直してみたところで、自らリーゼルンへと向かうと言う決断はできないと理解できている。

 だからこそ、余計にその決断を下して見せたエンペラート皇帝に腹が立つのだが。


「しかしぃ、リーゼルンに大きな貸しを作れるとはいえぇ、ウェルカ帝国は大胆な決断をしましたなぁ。ですがぁ、これは好機ではありませんかぁ?」


「どう言う事だっ!!」


 ミハエルの言葉に、不機嫌そうに食いかかるロド王。


「現在ぃ、我々には切り札であるヒドラがいますよねぇ。いくらなんでもぉ、リキミ団長とはいえヒドラは荷が重いでしょうからぁ、切り捨てることになってしまいますがぁ。団長の犠牲と引き換えにぃ、リーゼルンに壊滅的なダメージを与えつつぅ、エンペラート皇帝を始めとしたウェルカ帝国の重鎮を消せるのですぅ」


「だが、ウェルカにはかの『天道』の一角、無のグラーヴァがおるのだぞ?! ヒドラくらい、なんとかできよう!」


「お忘れですかぁ、陛下ぁ。グラーヴァは確かに天道ですがぁ、あやつはバックアップが主な役割の天道ですよぉ。その力は確かに絶大ですがぁ、純粋な戦力としてはリキミ団長にも及ばないですよぉ」


「確かに……。かの有名な龍討伐の逸話も、他の天道と協力した上で、であったな」


「その通りですぅ。いかがされますかぁ?」


「好機なのは間違いない。だが、リキミを失うのは……」


 眉間にシワを寄せ、悩む素振りを見せたロド王。

 その姿に、ミハエルは内心舌打ちした。


「お気持ちはわかりますぅ。リキミ団長は我が国にとってぇ、かけがえのない存在ですからぁ。ですがぁ、こうも考えられますよぉ。我が国の損失はリキミ団長ただ一人ぃ、それに対してウェルカ帝国の損失は皇帝に宰相ぅ、そして天道と言った幾人もの言わば国の屋台骨たちですぅ」


「むむぅ……確かにそれはそうだが……。あの小僧もおるではないか。話が本当なら、やつの力はリキミを軽く凌駕するのだぞ?」


「本当ならぁ、ですよねぇ。我が国が長年熱望しても未だなしえていない天道獲得という悲願はぁ、それほど軽いものですかぁ?」


「……ありえんな。一般人とは隔絶した天上の道を歩む傑物だからこそ、天道なのだ。あれはそれほど軽い称号ではない! だからこそ、我が国は長年煮湯を飲まされ続けておるのだ!!!」


 怒りに満ちた表情で、忌々しげに再び地団駄を踏んだロド王。


 その脳内では、まだ若かりし頃のロド王に国を出ると伝え、目の前から立ち去っていく前国王時代からネーブに仕えていた天道の後ろ姿がありありと鮮明に蘇っていた。


 この頃から徐々にネーブの勢いは衰退していき、現在に至るまで大国としての体裁は保ててはいるものの、長い月日の間に元はネーブとは肩を並べることすら叶わなかった小国が今や同列にまで発展。


 それもこれも、すべては天道がいるかいないか。

 ただそれだけの理由からである。

 各分野において飛び抜けた力を有する天道という存在は、それほどまでに国にとって大きなものであった。


 その事実を身にしみて理解しているからこそ余計に、ロド王は再び天道を召し抱えることができさえすれば、大陸の覇者となるのも夢ではないと本気で思っている。


 長年そんな野望を抱き続けていたところにシズクが誕生したことで、シズクの新たな情報がもたらされる度に夢想し、歓喜し、そして有頂天になった。


 これでようやく大願が成就されると勝手に信じ込み、日毎に膨れ上がる過度な期待を寄せ続け、シズクが国に栄華をもたらす日々を今かいまかと待ちわびた。


 結果、その全てが粉々に打ち砕かれたことで、大きすぎる期待はそのまま憎悪に変わった訳だが。


「私も同意見ですぅ。あんな20にも満たない小僧がぁ、天道と肩を並べるなどありえないぃ!」


 目を細めて断言したミハエル。


 つい先日までは軽視していた存在だったが、議会場で触れた並々ならぬ魔力に一瞬とはいえ気圧された。


 その事実がミハエルのプライドに傷をつけ、同時に不安にも似た焦燥感を抱かせたのだ。


 もし万が一シズクがネーブに召抱えられるようなことがあれば、その上結果を残すようなことがあれば。

 あらゆる手を尽くし、ようやく上り詰めた副団長――次期団長に最も近いポジションを、ぽっと出の若造に奪われるのではないか。

 

 ただでさえただ多大な魔力を持って生まれたというだけでチヤホヤされ気に食わなかったというのに、ようやく転落する様を見て溜飲を下げられたところだったというのに、再び自分の前に立ちはだかるなどあってはならない。


 そんな一方的な理由から逆恨みし、ここに来て徹底的に取り除くべき障害なのだと強く認識していた。


「リキミの損失は手痛いが……替えが効かぬほどではない。だが、あちらは国が揺らぐには十分過ぎるほどの損失だろう。クク……英断だと思っているだろうが、自身の決断をあの世で悔いるが良い、クソジジイが……!!」


「さすが陛下ぁ、先を見据えた見事な判断にぃ、このミハエル感服致しますぅ」


 ニタァと醜悪な笑みを浮かべ、一刻も早く行動に移すべく帰国を早めることにしたロド王とミハエル。

 互いの思惑がうまく交差してしまい、歯止めが効かなくなった二人。


 この場に冷静な観点から現状を判断し、私情に囚われずに意見を言える者がいれば、まだ最悪の展開にはならなかったのかもしれない。

 

 だが、二人が今まで歩んできた道が、そうはさせなかった――。


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