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20話 オークキング


 駆け付けたメレッタさんの指示により、ティアとネイアの二人に暴行を働こうとした男たちはすぐさまお縄となった。


 話を聞きたいというメレッタさんに連れられ小屋へと移動した僕たちは、二人から事情を聴いていく。


 結果から言うと特に二人に落ち度はなく、ただ露店を見ていただけだった。

 すぐに露店の店主たちからも裏がとれ、二人は一方的に言い寄られた被害者ということで報告されるそうだ。


「この度は怖い思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。……あいつらはここら一帯で一番名の知れた冒険者たちで、悪い噂はあったんだけど証拠不十分で検挙することができなかったんだ。だから、本当に助かったよ」


「というと?」


「1つは、あいつらの実力が確かなもので、逆らうことのできる者がいなかったことかな。被害を訴える人がいても、周囲で見ていたはずの連中が報復を恐れて真実を口にしないんだ。俺たちを貶めるために嘘をついてる、って言われちゃうとどうしようもなくてさ。あとは、あいつらの裏にお貴族様のお坊ちゃんがついてて、だいたいのことは握りつぶされちゃうんだよ」


「……なるほど。もしかして、僕たちってそのお貴族様から目をつけられたりします?」


 僕の懸念に、なんとも言えない顔をしたメレッタさん。


「申し訳ないんだけど、なんとも言えない……かな。今回はあいつらがあっさりとシズク君に倒されたのを見て、分が悪いと踏んだ店主たちがこっち側についてくれたけど。本来彼らは、利益最優先だからね。お貴族様に聞かれれば、あっさりシズク君たちのことを話してしまうと思う」


「そうですか……。ちなみに、そのお貴族様というのはどういう人なんですか?」


「ゲースイ子爵の三男坊であるメッサ・ゲースイが、あいつらのスポンサーだよ。ゲースイ子爵も黒い噂が絶えないんだけど、メッサは大の女好きで有名でさ。親子揃ってろくでもないのは確かかな」


「……気を付けた方が良さそうですね。色々教えてくださりありがとうございます」


「問題を片づけてくれた恩人なのに、力になれなくてごめんね……。一応、プーテルのギルドへはシズク君たちにまったく非がないって念押ししとくから。マスターも悪い人じゃないから、きっと味方になってくれると思うよ。何かあれば、相談しに行ってみてね」


 再度メレッタさんにお礼を告げて、小屋をあとにした僕たち。


 二人はまだ立ち直れていないのか、僕の服の裾を掴んだまま俯いている。

 僕の視線に気づいた二人がしゅんとした顔でちらりと僕の顔を見ると、突然泣きそうな顔をした。


「……すまんのじゃ、シズク……。妾たちのせいで、お主の顔に傷がっ……!!」


「本当に申し訳ありませんっ! 私たちがもっと気を付けていれば……!!」


「ああ、忘れてたね。いざとなれば正当防衛って言い張るために傷をつけたんだった」


 頬についた傷をヒールで直すと、ぽかんと口を開けて固まる二人。


「あ、あの連中からわざと一撃もらうだけの余裕があったということかのっ!?」


「あの状況でそんなことまで考えていたんですかっ?!」


「え、うん。そんなに強そうな人たちには見えなかったし、攻撃の軌道も見え見えだったからね。後から下手ないちゃもんつけられるくらいなら、一撃もらうくらいなんてことないでしょ?」


 僕が首を傾げながらそう言うと、ふぅーと大きなため息をつく二人。


「……妾たち、こんな人外を殺そうとしていたんじゃな……」


「お嬢様、言ってはいけません。シズク様の優しさに感謝して、今後気を付ければいいんです」


 二人がしみじみとした様子で話しながら、僕へとなんとも言えない視線を向けてくる。

 この二人はほんとに、僕をなんだと思ってるんだ……。

 

 気を取り直した僕は、話題を変えるためにもせっかくだからと二人を誘いダンジョンへとやって来た。

 プーテル第一ダンジョンは地下へと潜っていくタイプの構造をしていて、全部で五層あるという。


 難易度はDとそれほど高くなく、難易度と冒険者等級は比例するので、現在Eランクの僕たちからすればワンランク上の場所ということになるが、依頼を受ける際もワンランク上まで受けられるので問題ないだろう。


「ダンジョンなんて初めてじゃ! 楽しみじゃのう!」


「お嬢様、あまりはしゃぎすぎちゃダメですよ? 何があるかわからないんですから」


 ティアとネイアもすっかり調子を取り戻してくれたようで何よりだ。


 そんなこんなでダンジョン攻略を始めた僕たちは、予想よりも遥かにスムーズなペースで進んでいた。

 二人が自分たちが攻略したいと言うので、僕は後ろで見物してるだけだけど。


 地下一層は体長50cmほどのネズミ型の魔物、イービルラットが物量で攻めてくる層のようだったが、特に飛び上がったりすることもなくひたすら床を走って襲い掛かってくるため、ティアとネイアが『闇刃』や『風刃』でまとめて一掃していたらあっという間に突破できた。


 二層はイービルラットのほかに少数のゴブリンを見かけたが、こちらも一層同様相手にならなかった。

 三層はゴブリンの比率が増え、逆にイービルラットをあまり見かけないという二層とは反対の構成だったが、数が増えたところで碌な遠距離攻撃の方法を持たないゴブリンは近づくことすらできずに一方的に狩られ続ける。

 四層はゴブリンのみになっただけで何も変わらず、特筆すべき点もないまま突破してしまった。


 そうして五層に到着した僕たちは、ゴブリンに交じってちらほらと現れるオークを蹴散らしつつ、あっさりとボス部屋の前までたどり着いた。


 途中、ティアとネイアの二人から「「あれが本当のオークじゃ!(です!)」」と声を揃えて言われたのは言うまでもない。


 ボス部屋へと入ると、そこにはトゲトゲした大きなこん棒を担ぐ巨大なオークが待っていた。

 ざっと体長3m以上はありそうで、じっとこちらを睨んでいる。


「な……なぜオークキングがおるんじゃ?!」


「ダンジョンってこんなに意地悪なんですか?! 突然難易度が跳ね上がりすぎです!」


 思わぬ魔物の登場に驚いた二人だが、なぜか急に静かになるとじっと僕を見つめて来た。


「……のう、シズクや。まさかとは思うが、お主……アレも倒せるのかの?」


「まさか……。お嬢様、いくらシズク様とてオークキングを一人では……」


「あれ、あいつは僕が倒しちゃってもいいの? じゃあいってくるね」


 二人の許可を得たと判断した僕は、戦闘態勢に入ると勢いよく床を蹴って駆け出し、オークキングへと『ウォーターボール』を放ちけん制しながら近づいていく。

 床すれすれで横なぎに振るわれたこん棒を大きく飛び上がって避けると、オークキングは狙いすましたかのようにすぐさま頭上からの振り下ろしへと攻撃を切り替えた。


 狙い通りの行動ではあったのだけど、後ろで見ていた二人からはピンチに見えたらしい。

 「「シズク(様)っ!」」と悲痛な叫び声が耳に届く。


 大丈夫だよという意味を込めて顔だけ振り返り笑顔を向けた後、風魔法で作りだした足場を蹴ってオークキングの懐へと潜り込む。

 まさか空中で移動するとは思っていなかったのか、オークキングが慌てて振り下ろしているこん棒を止めようとしているけど、遅いよ。


 僕はいつもより大きめの『氷剣』を作り出し、勢いそのままに心臓部へと突き刺す。

 それが致命傷となったオークキングは、大きな音を立てながら床へと崩れ落ちた。


 ティアとネイアが例のごとく絶句したまま僕を変なものを見るような目で見て来るけど、今回はその中にどこか嬉しそうというか、不思議な感情が含まれている気がした―――。


 

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