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だから、私は夢をみない!  作者: 砂洲螺樹
第一章 日常と出会い
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奏音の憂鬱

学校からの帰り…最近聞くようになった懐かしい邦楽をイヤホンで聴きながら、駒城(こましろ)奏音(かさね)はイライラを隠そうとすることもなく、電車を待っていた。


普通であれば、ちょっと勝気に見える切れ長な目もシャープな輪郭も、170センチ弱の身長と相まってモデルと言われても信じてしまえそうな容姿だ。


だが、周囲を威圧するように細められた目つきと貧乏ゆすり、そして滲み出る怒りによって、周囲に与える印象は凶悪なものに変わっていた。


うざい!うざい!鬱陶しい!--自分がイライラしている理由はハッキリわかっていた。学校をサボっているとよく会う…如月(きさらぎ)(ひかり)のせいだ。


せっかく天気の良い日に、学校をサボって、お気に入りの服屋や喫茶店に行くと必ずと言ってもよいくらいに会うのだ。なんなら着ているブランドも少し被ってるくらいだ。気に入らない。


実は、あまり意識していなかっただけで、何度か喫茶店や洋服店で見かけたことがある。私服だったから付属(うち)の生徒だとは思わず、ただ綺麗な子がいるなとしか思わなかったし、よく会うなとは思っていたが気にもしていなかった。


だけど、新宿で酔っ払い男に絡まれているところを助けられたときに、付属生だと知ってしまい無視できなくなった。


というか無視しても向こうから絡んで来るようになった。


(くそ…変な絡み方しやがって、なんなんだアイツは)


普通であれば、冷たく接してやれば、萎縮して、あまり接して来なくなる。接してきても、そのタイミングでさらに興味がないことを伝えてやれば、それっきり二度と話しかけてこなくなる。


だが、如月は違うみたいだ。突き放しても怯まず、時には何も気にしていないように柔らかく、時には鋭い言葉を返してくる。


服屋では恥ずかしい姿を見られてしまった。思い出しても腹立たしい。あまりの恥ずかしさに子供のように暴力に訴えたのだが…通用しないばかりか足を滑らせ、かなりの勢いでひっくり返りそうになった。


あの時、あいつが身を呈して引き上げていなければ川に落ちていたかもしれない。


助けられたことは分かっていた。ただ、抱きしめられたような姿勢となり、気恥ずかしさからか頬を思い切り叩いてしまった。


「はぁ…うざい。誰も助けてくれなんて頼んで…ない」


(でも、少し悪かったかな)


うざいとも鬱陶しいとも、余計なことしやがってとも本気で思っていた。でも、助けてもらったのに頬を叩いてしまった罪悪感も本物で、その事実があたしをさらにイラつかせていた。


「あら…駒城さん、こんばんは」


電車に乗った直後に、後ろから声がかかる。今まで、学校に行った日に会ったことなんて一度もなかったのに、なぜ今日に限って会うのだろう。


イヤホンを取り、振り向いて目を見張った。休日に会った時も綺麗だとは思っていた。でも…色素の薄い肌に軽く施されたメイクは、明るい鳶色の瞳を際立たせ、清潔感のある唇をより艶やかに彩っていた。


肩に届かないくらいに揃えられた黒髪は、ふんわり柔らかそうに揺れて、別人と思うほどに、女のあたしが見惚れてしまうほどに…綺麗だった。


もちろん、制服もあたしなんかよりずっと似合っていて、足先から指先までじっと見て…


「チッ」


思い出したように舌打ちをした。


「はぁ…こんなに遅くまで学校に残ることもあるんですね」


あたしの舌打ちに呆れたようなため息をつき、間を開けてからそんなことを言う。


「うるさい…如月には関係ないだろ」


「まぁ…そうですね」


悪態をついても、表情も変えず、淡々と返してくる。


「…お前なんなんだよ?」


「ん…?何がですか?」


睨んで凄んで見せても、怯えず自然体で返してくる。


「昨日の今日で、なんでそんなに親しげに話してこれるんだ?それに、なんで敬語なんだ…気持ち悪い」


「いえ、駒城さんの嫌がる顔が見たくて…話しかければ見れると思ったので、あと女子の制服着ているときは敬語で話すようにしてるんです。訳ありでして」


「チッ…もういい」


真面目に答える気がないのは分かった。


「その表情もいいですね」


何を言っても、同じ調子で返事や皮肉が返ってくる。こちらの悪態や不愉快そうな態度は全てスルーで、完全に手玉にとられた気分だ。


「…」


腹が立ったので、無視してやろうとしてあることに気づく。


「…おまえ…そんなに髪長かったか?」


昨日会った時は、ショートだった。今はミディアムくらいはありそうだ。


「ああ…今気づいたんですか?ウィッグですよ。同じ活動をしている子と髪型が似てて、一目で見分けがつくように…変えてるんです」


「…ふーん、まぁ、どうでもいい」


「聞いたの…駒城さんですよね」


「それより…こんなに席が空いてるのに何で隣に座るんだ」


「それも今さらですね。それにどこに座ろうが、私の勝手じゃないですか」


「チッ」


まぁ、いい…もう少しで最寄駅に着く、立ち上がり入口に向かう。


「…この駅で降りるんですね」


その言葉に答えず、開いたドアから足早にホームへ出る。


「本当にうざったいな…おまえ」


ドアが締まり切る前に、如月に聞こえるようにそう口に出した。

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