いつものメンバー、いつもの夜
あ〜まったく散々な目にあった。駒城との一悶着の後、まっすぐ家に帰る気もせず、意味もなくぶらぶらして時間を潰した。
おかげで、家に着く頃にはすっかり暗くなっていた。近所のスーパーで少し多めに夕食の材料を買って帰る。
家に帰ると、それぞれの楽器を練習している詩織と悠香がいた。まぁ、合鍵を渡したのだからいるかもしれないと思っていたけどね。
悠香が、こちらに気づいて電子楽器のイヤホンを外す。後ろを向いていた詩織もそれを見て気づいたようで、イヤホンを取りこちらを見た。
「こんばんは、お邪魔してるよ」
「煇…また学校をサボっただろ。しょうがない奴だな」
「…夕飯作るけど食べるか?」
「「食べる」」
今日のメニューは『海鮮あんかけ焼きそば』と『豚バラと小松菜の卵炒め』、『春雨スープ』だ。
出来上がったものから、テーブルに並べていく。悠香は調理も、詩織は配膳だけは手伝ってくれた。
食事をしながら詩織と悠香に、今日の出来事を話す。
「うわぁ…噂に違わぬ冷徹ぶりだね」
「どこが冷徹だよ。普通科の拳王様もびっくりの暴の者だったよ」
「なんで私を引き合いに出すんだよ。私は、ちゃんと煇が避けると信じて殴ってるんだぞ。一緒にするな」
「信じて殴るってなんだよ。お前もあいつも私からしたら変わんないね。というか、駒城と詩織の差はおっぱいだけだと思えてきた。ん?そうすると駒城は詩織の上位互換…」
「煇…お前とは一度真剣に話す必要があるようだな」
食事中だから、流石に手を出さないようだ。
「んーでもさ!駒城さんとのことは簡単なんじゃない?」
詩織をからかっていると、悠香がいつものように会話をぶった切ってきた。
「何が簡単なんだ?」
「だって駒城さんから接してくることはないんでしょ?なら、煇くんが関わらなければいいだけだよね?」
「うーん…それは負けたみたいで嫌だな。むしろ、積極的に話しかけて、駒城の嫌がる顔を楽しむぐらいの甲斐性があってもいいんじゃないか」
「それを甲斐性というかは別として、どうせ煇は駒城が綺麗だからお近づきになりたいだけだろ?このヤリチン野郎」
「…おいちょっと待て、私はまだ清い身体のままだ。ヤリチン野郎は取り消せ!」
「分かった。童貞野郎」
「ぐっ、逆に屈辱的になった」
「じゃあ、童貞くんは駒城さんとどうなりたいの?」
「おい、悠香まで童貞呼ばわりするな…まぁ、出来れば仲良くしたいかな?せっかく同じ学校なんだから」
「ん〜? はっきりしないなぁ…仲がよくない人は他にもたくさんいるよね。なんで駒城さんだけわざわざ仲良くなろうと思ったのかってこと」
なんか圧がすごいんだけど…
「たまたま、顔見知りになったから?」
「…もしかしてワザとごまかしてる?じゃなきゃ、よっぽどの鈍感野郎だね。あ、だから童貞なのか」
「おい、これ以上言うならお前で卒業させてもらうことになるぞ」
「別にいいけど、責任とってもらうよ」
「…さて、夜も遅いしそろそろ解散するか」
「「ヘタレだ」」
「うるさい!声を揃えて言うな…責任なんて言われたら、誠実な男子高校生は尻込みするもんだ。高校生の分際で『安心して責任取るから』とか実現不可能なこと言う奴の方が信用ならない」
「まぁ、どんな屁理屈捏ねようが、煇がヘタレである事実は変わらないな」
「ぐっ…まぁいい、そんなことより選曲は終わったのか?」
これ以上、この話を続けても墓穴を掘るだけなので話題を変える。先週の活動日に、ギャル東條の声に合いそうな曲のリストを渡していた。
「ああ…煇が選んだ中だと、この3曲がいいかな?持ち時間は去年と一緒なら20分くらいだから、ちょうどいいと思うけど」
「…ラブソングばかり選んだな」
「ん〜なんでだろうな?麗華の意見を聞きながら、メンバーが一つずつ選んだらこうなった」
「まぁ…いいけどね。それじゃ、もう弾き始めてるのか?」
「うん、一応…週末ぶっ通しで練習したから、ソロじゃ通して弾けるようにはなったよ。」
「ギターも問題ない」
「なんだ…去年の苦労が噓みたいに順調だな」
「まぁ、二人は経験者だし、私達も2回目だしね。この半年コツコツ練習したのも大きいな」
「そうそう、私達も成長してるってことだね」
「これなら悠香の言う通り、音合わせだけで大した労力はかからないな。ヴァイオリンに集中できそうだ」
「…そんなに練習してるんだから、コンクールにでも出ればいいのに」
「趣味でやってるだけだからな…コンクールに出るとかは考えちゃいないよ。それに…一日数時間の練習だけじゃお話にもならないさ」
「そう?煇のヴァイオリン…私は好きだよ」
「よく言うよ。いつも途中で寝ちゃうくせに」
部活終わりの詩織はほぼ100%寝てるし、悠香も二回に一回は寝てる。最近は気を遣っているのか、レッスン室でヴァイオリンを練習するときは、二人とも席を外してくれることが多い。
「それは…寝ちゃうくらい心地いいってことで」
「はいはい…ありがとよ」
明日の同好会は、悠香のベースの仕上がりを確認して、いる奴らだけでも音合わせするか。
そんな事を考えながら、自由気ままに楽器を弾いて、適当な話しをして夜は更けていった。