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だから、私は夢をみない!  作者: 砂洲螺樹
第一章 日常と出会い
6/21

煇のおさぼり日記

今日は天気がいいのでサボることにした。私服を着て、お気に入りの喫茶店に向かう。


以前は気が向いたらサボっていたのだが、去年の文化祭以降、サボる日がある程度パターン化している。


火、水、金は同好会があるのでサボれないし、雨の日にサボっても遊びに行けないので意味がない。なので必然的に月、木の晴れて気持ちのいい日にサボるということになる。


喫茶店に着くと、真ん中に仕切りがあるカウンター席に通された。コーヒーとクラブハウスサンドを注文する。


スマホをいじりながら待っていると、仕切りの向こうの客と目が合う。げっ!と出かけた言葉をなんとか飲み込んだ自分を褒めてやりたい。


「おはよう、駒城さん」


目が合ったのに、挨拶もしないのも変なので声をかけた。


「…誰?」


いやいや、一週間前に会ったばかりだぞ。しかも、酔っ払いに絡まれるなんて忘れたくても忘れられないようなエピソード記憶付きの。


「いや、一週間前におっさんに一緒に絡まれたじゃん」


「…そんなことはわかってる。名前も知らない奴に声をかけられる謂れがないだけだ」


ああ、そういえば名乗ってなかったな。でも、もう少し言い方あるだろ。


「そういえば名乗ってなかったね。私、普通科で2年の如月煇って言うんだ。よろしくね」


「はぁ…別によろしくするつもりはない。あたしのことは気にしなくていいから、放っておいてくれないか?」


「ああ、ごめんね。知っている人を見ると声をかけてしまう性分でね。気にしないで」


そこで、頼んだクラブハウスサンドとコーヒーが届く、食べながら駒城の前を見ると、生クリームがたっぷりかかったパンケーキとキャラメルマキアートが置いてある。


「駒城さん、甘党なんだね」


「…別に」


うーん、会話が続かん。でも、甘党なのは間違いなさそうだ。


「ところで、次はコンクールとかいつ出るの」


「…コンクールは意味がないからもう出ない」


「そうなんだ…でも、先生とかに出るように勧められたりするんじゃない。実績があるから、なおさら…


バン!


駒城がカウンターを思いっきり叩いた。周りの視線がこちらに集まる。


「うるさいんだよ。おまえ…」


そう言ってこちらを睨み付けると、食べかけのパンケーキを残したまま会計を済ませて出て行ってしまった。


…今、怒る要素あった?フレンドリーに話しかけただけじゃん。なんなの仲良くしたら死ぬ呪いでもかかってるの?せっかく天気がいいのに最悪の気分だ。


それでもなんとか気を取り直し、もう買い物をして忘れようとお気に入りのセレクトショップに向かう。あーむしゃくしゃする自棄(やけ)買いだ…とりあえず気に入ったものを手にとっていく。


ちょうど、お気に入りのブランドの新商品が入っており、先ほどの件は忘れて、買い物に没頭していく。


ある商品をハンガーごと手に取ろうとしたとき、誰かが同じように手を伸ばしていることに気付いた。重なり合う手と手…その手の持ち主を見ると…駒城がいた。


「…これ、あたしが先にとったんだ」


「いや、よく見てみろよ。私の手の方が下にあるぞ」


普段であれば、どうぞと譲っていただろう。ただ、先程の件もあり簡単に譲りたくなかった。


「…」


「…」


しばらく睨み合いが続く。すげぇ眼つきで睨んでくるんだけど、私は親の仇か何かなのか?


業を煮やしたのか、力づくで商品を奪おうと力を入れてくる駒城。こっちも負けじと引っ張ってやる。背格好は同じくらいで、見た目が女の子みたいと言われても、こちらは男だ負けるはずがない。


予想の通り、こちらは少し余裕があるが、向こうは全力で引いてくるという状況が出来てしまった。…女の子相手に大人気ないことこの上ない。急に冷静になってしまったので、譲るつもりで手を離した。


ステン!ドタン!


しまった…よく考えれば当たり前だ。体重をかけて全力で引っ張っていた駒城は漫画みたいに後ろにすっ転んだ。今は、後転を途中で失敗したみたいな格好で転がっている。


少し心配したが、上手く転がったようで怪我はなさそうだ。しばらくして自分のパンツが丸見えということに気づいたのだろう。慌ててスカートを抑えるように上体を起こすと、こちらを睨み付けてきた。


「ぷ…良い格好だね。良いもの見せてもらったから、それはお譲りするよ。」


JKのマ○グリ返しでパンチラという貴重なものが見れて、少し溜飲を下げたので、そんな捨て台詞を残して、勝ち誇って去ることにする。


ーーー電車に乗り、最寄り駅に着くと河川敷に向かう。今日はあったかくて気持ちがいい。


河川敷に着くと菜の花が満開だった。まさに春の陽気という風景を楽しみながら手頃なベンチに腰をかけて新宿駅で買った弁当を開く。


あなごの蒲焼きが3枚乗った贅沢な作りだ。割り箸を割り、一口目を頬張ろうとした瞬間に、背中を蹴られたような強い衝撃とともに前のめりになり、弁当を地面に落とした。


後ろを見ると、蹴り終わって着地する瞬間の駒城がいた。


「ふん、いい表情だな…如月」


「へぇ…名前覚えてくれたんだ」


「ああ…あんなことしてくれて、こんなところで呑気に飯食ってるなんてな。おまえの顔と名前…完全に覚えたからな」


美人に名前を覚えられるのは嬉しいが、これまでにないくらい嫌な覚えられ方だな。できれば忘れてほしい。


「あんなことって?駒城さんが勝手に転んだだけじゃん。まぁ、これでもかってくらい情けない格好だったけどね」


背中を蹴られた痛みと弁当分ぐらいは言い返してやらねばならない。


ブォン!


うぉ、あぶね!こいついきなり顔面に回し蹴りしてきやがった。当たったらどうするつもりだ。くそ、見誤った見た目から知的でクールなイメージだったんだが、こいつは性格の悪い詩織だ。


「避けるな!」


避けるわ!アホか!立て続けに蹴りを放ってくる駒城…ムキになって足元が疎かになったのだろう。バランスを崩して川に落ちそうになる。


「危ない」


咄嗟に腰に手を回し、支えてやりこちらへ引き上げてやる。


「え…?」


落下しようとする駒城を引き上げたので、思ったより勢いがついてしまったようだ。その拍子に、駒城の身体が私に密着するような体勢になる。駒城も私に抱きしめられていることに気づいたのか、顔を真っ赤にした。そして…


「さ…触るなぁ」


バチン!


思いっきり、私の頬をビンタして怒り心頭で帰っていった。マジなんなの…私、助けたのにビンタされたんだけど、え?なんで?いや意味わからん。


でも、一つだけわかったことがある。私が駒城奏音を無視できないのは、彼女が姉に似ているからだ。あのわがままさ…あの理不尽さ本当にそっくりだ。

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