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だから、私は夢をみない!  作者: 砂洲螺樹
第一章 日常と出会い
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軽音同好会

付属(うち)は、音楽科があるだけあって設備は整っている。真ん中にある円形の専科棟には、音楽科専用の大音楽室と音楽室に加えて、音楽ホール、ピアノ室が各2室あり、音楽科以外も使用する小音楽室と大小のレッスン室が15室ある。


レッスン室は共用となっているが、12室は音楽科用、3室が普通科、国際科の共用というのが暗黙の了解になっている。自主活動には理解があるので同好会を作れば、週三回まで空いているレッスン室を借りることもできる。


音楽科以外の連中がレッスン室を放課後に使ってるところなんて見たことがないので、練習場所に困ることはまずないと言っていい。


「去年から思ってたんだが…悠香と詩織は部活もあるんだろ。大丈夫なのか?」


実際、詩織は空手部の練習に参加することが多く、今日も来ていない。まぁ、文化祭後もコツコツと練習してたみたいだし問題ないだろうが、心配にはなる。


「うん、水泳部は月、木、土の週三回が練習日だから問題ないよ。空手部の休みが水曜だけだから、詩織ちゃんが同好会に参加できるのは週1回だけど、土日に自主練するから大丈夫だってさ。」


「空手部は土日も練習があるだろうにご苦労なことで、楽器は詩織がギター、悠香がベースだよね。そういえば、ボーカルとドラムが来てないけど、去年と変わらずか?」


そう聞くと、悠香が目を逸らした。そういえば、ボーカルもドラムも下手くそのくせに、文化祭が終わったら練習に全く来なくなっていた。なんか嫌な予感がする。


「うーん、初歩的なことだよ。ワトソンくん」


「まさか…」


「そう、そのまさかです。二人ともお辞めになられてしまいました」


「…おまえ、キーボードどころの話じゃないじゃないか…どうすんだよ。今から初心者連れてきて、誰が教えると思ってんだ」


「まぁ、教えれるのは煇しかいないね。よろしく」


「去年、君達にどれほどの時間を費やしたか…覚えてて言ってるのかな?」


ほとんどの時間付きっ切りで教えた覚えがある。しかも、最後の最後でドラムが体調を崩して、女装して参加するオマケ付きで。


「うん、まぁ…でも、楽器はドラムだけだし、ボーカルは最悪詩織でもいいわけだし…」


「詩織がギターやりながら、ボーカルなんて器用なマネできるはずないだろ。だいたい、私めは音合わせだけで、労力は大したことないっておっしゃっていたのはどの口ですかね?」


「ぐっ…だいたい、あの二人が辞めたの煇のせいじゃない」


「な?なんで私のせいなんだよ?」


「煇が付きっ切りで練習見たり、普段の練習じゃ厳しいくせに急に褒めたりして、二人を籠絡して骨抜きにしといて、最後の打ち上げで、好みのタイプを聞かれて『私、自分より顔が整ってないと無理』とか言っちゃうからじゃん」


たしかに、好き好きオーラを出してくる二人を牽制するつもりで言った気がする。ただ、それで辞めるか?


「…たしかに言ったが、それが辞めた理由か?」


「うん、ていうかそれ以外の理由が見つからない。」


「…まぁ、それが理由だとしても私は悪くない。それに、あのくらいで好きになるか?」


「いや、そろそろ自覚して…煇のルックスであんなことしたら、思春期女子はコロッと落ちちゃうよ。この無自覚サークルクラッシャーめ」


「変なあだ名つけるな…じゃあ、悠香と詩織はなぜ落ちない?君達は思春期女子じゃないのか。二人が落ちてくれれば、喜んでハーレムを築くのに…」


「それ聞くかな普通…私達は、中学からの付き合いだから、そういうデリカシーのないところも、誰にでも優しく世話を焼く無自覚男にも慣れてるのだよ」


「つまり、性格がタイプじゃないので気にしないってことですね。分かります」


「まぁ、でも『自分より整ってないと』のくだりは傷ついたかな」


「ん?あんなの口から出まかせだぞ。それに、悠香は十分すぎるくらい整ってるじゃないか」


「自分の顔が整っているのは自覚してるよ。でも、詩織や煇と比べられると自信なくなるかなぁ」


その辺りはもう好みの問題くらいの差しかないと思うが…まぁ、自信をなくしている友人を励ますのも友人の務めか。


「馬鹿だな…悠香は十分魅力的だよ。私は悠香といるといつも優しい気持ちになれるよ」


「…ありがとね。でも、そういうことは胸じゃなくて顔を見ながら言ってね。ゴミクズ野郎」


おっと、気づいたら胸を見ていた。しかし、普段がおっとりした口調なだけに罵倒されるとくるものがあるな。これがギャップ萌えってやつか。


「で?どうするんだ。私は活動が終わった後にヴァイオリンが練習できればいいんだけど…練習日数を考えると早めにメンバーを揃えないとさ」


「んーまぁ、頼めばやってくれそうな友だちは二人いるんだけど…」


「ん?なんだ心当たりあるんじゃないか。なら、さっさと連れてこいよ」


「いや、ボーカルの子も…ドラムの子も少し特殊でね」


「どうした?なんか問題あるのか?」


「問題っていうか…ボーカルの子は少し男の子が苦手なんだよね。それで、ドラムの子は男関係のトラブルに合いやすい子だからさ…」


「なるほど、一人は男嫌いで、一人は男好きでトラブルになりやすいってことか」


悠香のぼかした表現を、直接的な言葉に言い換える。


「まぁ、少し違うけどとりあえずその認識でいいや…で、その問題を解決する方法がひとつだけあるの」


「ん?そんな都合のいい方法があるのか」


「えーと、だからね…去年の失敗も踏まえて練習中も女装しようか」


悠香は少し言いづらそうに、なのにすごくいい笑顔でそう言った。

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