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ブランド和牛さんレクイエム

「もしもしUFO内部です」

「蔵王です。お世話になってます」

銀色の人達に連絡をとった。

確認したい事が幾つか出てきたのである。蘇生能力に関わる事ならば彼らの誰でも気前よく教えてくれるはずだが、今日は運良く例のリファレンスガイドを作成した阿部さんと連絡がついた。

「それでお聞きしたい事とは何でしょうか?」

「二点ほどあるんですけれども、蘇生させた子との会話中に気になったんですけど、この能力、人間以外にも使えるのかな、と気になりまして」

ああ、そうですね、うっかりしていましたと電話口から申し訳無さそうに返答があった。

「……はい、生命体であれば基本的に蘇生させる事は出来ます。マニュアルに記載しておくべきでしたね」

「その場合、蘇生させる際に相手の承諾が必要になるって条件はどうなるんでしょうかね?」

「そのままです。人であっても動物であっても、それに植物でも、相手が希望しない蘇生は実行する事は出来ません」

「相手が人間じゃ無い時は、どうやって先方の承諾を得るのですか」

「ニュアンスでお願いします」

「ニュアンス」

「異種生命体とのコミュニケーションって、生きている状態でも基本ニュアンスだと思うんですけどどうでしょう」

それはそうかもしれないが。

犬猫なら何とかなるかもしれないが、もっと縁遠い奴ら……例えば魚とか昆虫の意思をニュアンスで汲むのって不可能に近い様な気がする。

「生命体は基本全て生きていたいに違いないでしょうから、その辺りは難しく考えなくてもやってみれば案外簡単にいくと思いますよ」

思い悩むこちらには構わず、何やら楽天的な物言いをする異種生命体。

「――じゃあそれが上手く行ったとして。こんな事も可能なんですかね」

会話の中でたった今思いついた蘇生能力の運用方法を口にする。


①スーパーで精肉や刺身を買ってくる。

②食べる(おいしい)。

③食べた動物や魚を蘇生させる。

④捌く。

⑤食べる(以下ループ)。


「どうしてそんな酷い事を思いつくんですか」

「食費が驚異的に改善されるので家計には優しいんですがね」

「ええと、とりあえず魂が残っていないと蘇生は不可能だと説明しましたよね。スーパーに陳列されている魚や畜肉に魂が残っている事はまずあり得ないです」

阿部さんが説明をする。

生命は単純な程、その魂が現世に留まる時間は少ない。さっさと『次の段階』へ移動してしまうのだ。脊椎動物ではあるが最も単純な種である魚類の魂がその場に留まるのはせいぜい数時間位だろう。

牛や豚はもう少し現世に留まる。人間とより深く関わり合いになった個体は人間並みに残り続ける事もある。だがいずれにしてもスーパーに並ぶ精肉に魂、霊体が憑いている例はおそらくほとんど無いだろう。時代・文明を問わず、畜肉に関わる者たちは屠殺する動物達を慰霊する場所なり機会なりを必ず設けるものだし、動物達の魂はそこで宿るなり『次の段階』へ行く準備を整えるなりするのである。

「蔵王陸さんには霊視、いわゆる霊感と呼ばれる力をあげましたけれども、そんな力がある前から何となく感じていませんでしたか? スーパーの生鮮コーナーや精肉コーナーにはそういう『霊的なもの』は何も無いって。そういう圧は無いと、誰でも本能的に感じ取っている所があると思うのですけど」

「どうだろう」

ある意味霊能力者になった今、そうでなかった時の感情を思い出す事は難しい様に思えた。

「ともあれ、スーパーで買った食品からの蘇生はまず出来ないと言う事ですね」

「その場で釣ったり狩ったりした動物なら可能なのかな?」

「おそらく可能でしょうけど、二つの理由でおすすめ出来ませんね」

「ほう」

「まず第一に、蘇生する際にその動物の肉体を、どんな状態からでも強制的に再生させる事になります。解体時に剥がされた毛皮、骨、調理された時に滴り落ちた獣脂、何より摂取されて今は蔵王陸さんの熱量、カロリーと化した肉部分。全てが巻き戻って元の『動物』として再生されるのです」

なるほど、言いたい事は解る。

「俺の血肉になったはずの分まで無かった事になる訳ですか。食べた分がきっちり体外に戻されてしまうと。食事をエネルギー摂取と捉えた場合、全く無駄な行為になると」

「何か食べた感は残るでしょうけど、仮に食事をそういう形だけでとっていた場合、蔵王陸さんはいずれ栄養失調で倒れると思います」

何日もカロリーゼロ食品ばかり食べ続けた様な状態になる訳か。

だが――。

「その何か食べた感ってのも、この際大事だと思うんすよ。例えば無理してブランド和牛を買うとするでしょ。丸々一頭、生きたまま」

「無理が過ぎる気がしますね」

「で、解体して食う。蘇生させて、また解体して食う。これを何度も繰り返す。高級食材を何度も楽しめるメリットはあると思うんですよ。カロリー的な意味では無意味な行為になるのかもしれないけど、逆に考えると何度食っても太らない訳だから、中年特有のメタボ対策とかにもなるでしょう」

俺は中年じゃ無いがな(30歳)。

「二つ目の理由ですが、ブランド和牛さんにも意思がある訳でしてね。生き返っては殺されて永遠に食べられ続けるって、そんなどこかのギャングのボスみたいな境遇になったら二、三巡目で心が折れると思うんです。おそらく、いや間違いなく蘇生される事を拒否されるでしょうね」

宇宙人のくせに漫画読んでいるのか。

「なるほど。じゃあ、一回殺して食った後、蘇生前の交渉で『あと三回食ったら解放してやるから我慢しろ』とか事前に伝えておくのはどうかな」

「ニュアンスでそんな細かい事を伝えられますかね……と言うか、食費を浮かせたいって理由で、思考が割と恐い領域に入っちゃってませんかね?」

「食費だけじゃないですよ。このやり方なら、動物を殺さずに(殺してるけど)好きなだけ肉を食う事だって可能な訳です。ヴィーガンとか、動物愛護的な人らが俺の能力とこの運用方法を聞いたら泣いて喜ぶんじゃないですかね」

「……それは、その人達に直接聞いてみないと解りませんね」

いずれにしても、阿部さんの言う通り、『規定の回数殺して食うけど最終的には生かして帰してやるから蘇生を拒否するな』というこちらの意思を動物にどう伝えるかがネックではあるか。

「まあ思い付いたんで聞いてみただけです。基本、人間相手に稼いだ方が効率的でしょうしね」

まだ一銭も稼げて無いのだが、そんな事を言ってこの話題は一度打ち切りとした。


「もう一点の方なんですけどね。町中で、おかしい幽霊を見たんですよ」

幽霊と言うのは大概おかしいのかもしれない(偏見)が、姿も受け答えも至極真っ当だった桜に比べると、彼女に会いに行く道すがらであった様々な有象無象たちは人外そのもので、あいつらと交渉する羽目になるのは嫌だなあ、としみじみ思ったものだった。

「霊体は生きている時に比べると、若干見た目が変わっていく者も多いですね」

若干?

「ふわふわ空気に流されて浮いてる色彩豊かなご婦人とかも居たんですが、ああいう人らともコミュニケーションはとれるんですかね」

「とれますよ」

こちらの不安に、あっさりと阿部さんが答える。

「と言いますか、蔵王陸さんは実際に対話が出来る相手しかそもそも『視る』事が出来ません。そういう設定にしてあります。蔵王陸さんの言葉がもう届かない、そういう、『危ないモノ』は視えないしお互い影響を与えない様にしていますよ」

「危ないモノって」

国道を原付でただ走っているだけで見かけた連中の事を、もう一度思い出しながら呟く。

「アレらよりヤバいのが居るんですか……」

「居ますね。そういう、日本では悪霊とか怨霊とか言われているモノ達は、蔵王陸さんの蘇生能力の対象外と考えて下さい。天国行き地獄行き、輪廻、転生等と同じく、『次の段階』へ行ってしまったモノ達です。まあ、感知する事は無いでしょうから、それ程気にする事では無いと思います」

『次の段階』とやらへ行ったモノが視える事は無い、と言うのは正直ありがたいと思った。人間形ではあるものの、ちょっと造形が怪しい奴らが蠢いているだけで正直いつもの町が何とかカレー空間化している思いがある。これで悪霊だの怨霊だの、完全にヒトを止めた連中まで視界に入るようでは、日常生活さえままならなくなる様な気がするのだ。

「じゃあ、俺が視えるヒトらは全員その気になれば生き返らせられるって認識で良いんですかね」

「そうですが、見た感じで、残っている人間性が少ないモノの蘇生は考えた方が良いかもしれませんね」

完全に人間性を失うとつまり今説明した悪霊・怨霊と言うくくりになります、と阿部さんが説明を続ける。

「……そういう、『なりかけ』のモノを生き返らせた場合、情緒や感情、記憶の一部に欠落が発生する場合があります。場合によっては、介護が必要な状態になる事もありますね」

誰も幸せにならないパターンか。

そもそも料金の徴収さえ難しいかもな。


「モニター試験の様なものなので、蘇生能力を使う事で発生するトラブルから蔵王陸さんを助ける事は出来ませんが、今回の様にリファレンスガイドではフォローしきれていない取扱いについては何でも説明しますので。またいつでも連絡してきて下さいね」

気にしていた事がひとまず納得出来た旨と礼を言うと、阿部さんはそんな事を言って通話を切った。

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