死者を蘇らせられる様になった
【ここまでのあらすじ】
死んだ人を蘇らせられる能力を持ったやつの話とか面白くね!? と思いついたものの、俺が今更思いつく様な話、過去に誰かが思いついてるんじゃ無いか。似た設定の小説がなろうなり他のアレなりにあるんじゃ無いかと恐れた俺はGoogle先生で調べてみる。
結果、蘇生ものは俺の想像以上にめちゃくちゃ沢山あり、逆に安心したのであった。こんだけあれば今更一つ二つ似た物語があっても誰も気にしないわ。
死者を蘇らせられる様になった。
この能力を俺に与えたらしい銀色の人によると、これはモニター試験的なもので、独自には単純蘇生技術の開発にはもう少し時間がかかる文明(地球人)が実際の所その能力を手に入れたらどう振る舞うのか、とりあえず一個人に能力を与えて様子を見てみたいという事であった。
基本的にはこのチート能力を使う上で制限とか禁止事項は無いものの、地球の人口を大幅に減らす、又は減らす可能性が高い行為は避けて欲しい。これに抵触した場合は蘇生能力は俺から回収した上で、他の誰かに回すからそのつもりで、との事だった。
正直あんまり頭が働かないので、人を生き返らせる力でどうして地球人口が減る事になるのかさっぱり解らないが、なんか政治やら宗教やら人間の原罪やら、人間の深淵に関わるとロクな事が無いであろう事は何となく解った。
俺の名前は蔵王陸。30歳フリーター。田舎のセルフのガソリンスタンドで週に三、四回夜勤に入っている。月30日のだいたい半分ぐらいは仕事をしていて、もう半分はSNSやら掲示板やらでお前らと遊んでいる。オンボロだが祖父から母、母から俺へと受け継がれてきた別に由緒正しくも無い実家があるので、こんなんでもどうにか生活出来てしまっている。カツカツだけどな。
だから、この蘇生能力が手に入って最初に考えた事は、
「これで一生それなりに楽して生きていけるな」
という事だった。新世界の神とか大金とかハーレムとかには興味が無い。そんな器で無い事は自分で解っているし、漫画知識的にはアイツもコイツも、身分不相応な望みを抱いたからこそ破滅しているじゃあ無いか。
あくせく働く事なく、今よりちょっとだけ美味いくいものが食えれば良いじゃないか。そう思ったのだ。俺にとって要するに死者蘇生能力とは、ちょっと頑張って取得した危険物取扱資格と同じく、出来るだけ楽して生きていく為の手段なのだ。
リファレンスガイドを開いてみる。
銀色の人(と言うか宇宙人)の代表である阿部さんが俺の為に作ってくれた、蘇生能力の取扱説明書である。
『陸さんに提供した能力はざっくり言うと死者蘇生ですが、蘇生という主目的を達成する為に付加された幾つかの能力に細分化されています。それらの細かい能力について、以下に簡単に記載します』
①魂との会話
なんかいきなりスピリチュアルな能力ですいません。陸さんは肉体から離れた魂、いわゆる幽霊と呼ばれるもの達とのコミュニケーションが可能です。彼ら彼女らと会話をして、自分が蘇生能力者である事、無条件または条件付き(後述しますね)であなた達を蘇らせられる事を口頭または直接脳内にお伝えしてあげて下さい。
対象の魂の同意が得られていない場合、蘇生をする事は出来ません。
ちなみに人間の魂ってずっと現世にある訳じゃ無いんです。まあ天国とか地獄とか異世界とか行き先は色々ありますけれども、とにかく現世での滞在期間はその人が属する民族の宗教や死生観に依存していまして、日本人はここ数100年程は平均二ヶ月弱程度でしたが最近は数日でどこかへ移動しちゃったり、逆に何年も死んだ場所に居着く事も多くなりました(昔から例外は沢山ありましたけれども)。とにかく成仏なり転生なりしちゃった対象はそもそもコミュニケーションをとる事が出来ない訳で、蘇生も不可能です。気をつけて下さいね。
②肉体の修復
魂の同意が得られ、じゃあ生き返らせっか! って所で問題になるのが、魂を戻す肉体がそもそも失われてる場合がほとんどじゃん! ってトコですね。日本は基本火葬ですけど、この際水葬土葬鳥葬宇宙葬、どれであっても死後丸一日も経ったら肉なんてだいぶ傷んじゃって、基本再利用なんか出来ないんですよ。
それに末期癌とか、重度の疾病で亡くなられた人をすぐ生き返らせても、またすぐ癌で死んじゃうでしょ? 罰ゲームか何かじゃ無いんですから、その辺りのフォローも必要ですよね。
魂さんとの調整の上、肉体は自由に修復・改変が可能です。火葬されて灰になってる状態からの復元、悪性腫瘍等をキレイに取り除いた状態に復元、老衰で亡くなった人には十年か二十年ぐらい肉体を若返らせた状態にしてあげても良いですかね。
若返りの場合、あんまり極端な改変は推奨しないです。90歳のお爺さんを乳幼児にしたりすると、きっと意識と現実の剥離でえらいストレスになると思うんですよね。
③レッツ蘇生
やっとメインの能力ですね。エイヤっと気合を入れて蘇生させて下さい。だいたい蘇生一回でスクワット一回分のエネルギーが消費されます。気をつけて下さいね。
生き返る場所ですが、特に設定しなかった場合は魂さんが居た場所にそのまま、設定した場合はその場所で死者蘇生が実行されます。
ちょっと大事な事を言いますと、これも蘇生対象の同意が必要という条件付きで、蘇生時に魂に対して強制力を与える事が可能です。簡単に言うと生き返った後もずっと有効な命令を与える事が出来るんですね。「100円くれ」から「性奴隷になれ」まで何でも可能です。
繰り返しになりますが事前に魂の同意が必要です。……が、まあ、文字通り大抵の事は命には代えられないでしょうし、断られる事は無いと思いますよ。
この付加能力が無いと、陸さんの日常はおそらく崩壊すると思いますので老婆心ながらオプションとして追加させて頂きました。ご利用下さい。
『その他、解らない事がありましたら下記の電話番号まで連絡下さい。平日の9時から17時であれば誰かしらが対応すると思います』
なんだかちょっと不安になってきた。
本当に死者蘇生能力を与えられているのだろうか。壮大なドッキリか何かではあるまいか。
それに、③の後半に記述している事が気になるな。
要するに、生き返らせる代償に、相手に何でも言う事をきかせられるって事なんだろうが。
この力を営利目的に使おうと思っている以上、便利なオプション能力ではあるとは思うが若干大げさ過ぎないか。金額にもよるだろうが正直個々人からはそれほど大金を要求するつもりも無い。
強制力など無くとも、大抵の日本人なら自分を生き返らせてくれた人間には気持ちよく代価を支払ってくれる筈だろうに。
「……いや、これは口止め用って事か」
この付加能力が無いと俺の生活が破綻する、という続きの文面を見て合点がいった。
これから何人の人間を生き返らせていく事になるか解らないが、中には感激の余り俺の名前を第三者に漏らしてしまう人間も居るだろうし、一人でもそんな奴が居たら俺の日常は確かに終わる。どこぞの権力者なり研究機関なりに拉致されて、実験動物の様な一生を送る事になりかねない。
どんなに善良な人間であってもうっかりはあり得る。それを魂への強制と言う形で防げ、とつまり阿部さんは言っている訳だ。
『自分を蘇生した人物の名前を、口頭筆記その他あらゆる表現で他人に伝える事を禁止する』
内容はこんなもので十分だろうか。
繰り返しになるが自分の器量を大きく超える大金やハーレム展開に興味は無い。自己保身以外の理由でこのオプション機能を利用する事は無い様にしようと心に決めた。
蘇生の金額だが、関連業者などがいないのでどう値段を設定すれば良いのか解らない。とりあえず大人2万円、未成年1万円ぐらいにしておこうか。問題があったら増減して行こう。
最低限の事が決まった所で、ふと隣の市で先月起きた大きな交通事故を思い出した。こんな事で久しぶりに地元が全国ニュースになってしまったと残念に思っていたので記憶に残っていたのだ。
交差点の横断歩道を渡っていた女子高生の姉と幼稚園児の妹が、冗談の様な速度で左折してきたトラックに跳ねられて、姉の方は即死。とっさに姉が庇った妹の方は意識不明の重体だと言う事だった。
「姉の方はともかく、妹の方は大丈夫かな。続報は知らないけど、ちゃんと死んでいれば生き返らせてやれるけど、意識不明のままだったらどうにも出来ないし可哀想だな。まさか一度俺が止めを刺す訳にも行かないし……」
そんな事を呟きながらオンボロ家を出て、原付で隣の市へと向かった。
これは俺こと蔵王陸が、蘇生能力を駆使する事で生活や精神への悪影響を極力回避しながら、今よりちょっとだけ良い生活を目指す物語だ。