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34:最期の旅路 ~決断~

彼の決断は未来の選択。

選択に犠牲はつきものなのだろうか…

 僕たちがゲートの中に入るとそこにはアエナ達はいなくなり、大きな大樹があった。それは以前に見た世界樹の輝きと似たような温かみを感じた。そう思っているとミアは心の中を見透かしたように話し始めた。


「そうです。これは世界樹。 すべての宇宙の時を司っています。ここで我々が一つになることで宇宙を元に戻せます。彼らの記憶はなくなりますし、あなたはその世界に行くことはできません。」


僕はやはりそうかとため息をついた。大勢の人に嘘をついた。必ず帰ってくると、約束したのにもかかわらず僕は僕でなくなる。彼らは覚えてなくても僕は覚えている。その足かせを背負っていくのかと気が重くなっているとミアは悲しそうな目で、だが朗らかな笑顔で語った。


「ですが、内心心苦しいです。多くの人に好かれたあなたを、それこそ好意のない私が独占していいものかと…。使命とは別に悩んでしまっています。外の世界を見て、ください。」


そういうと、ミアが空間に手をかざすとそこにはアエナ達が見えた。彼女たちはワタルがいなくなったのを嘆き悲しみ、自分自身の非力さに怒っていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「アエナっ! どうしたんだ!?」

アッシュが泣き崩れるアエナに寄り添うとアエナは嗚咽交じりに話し始めた。


「ワタルがどこかへ行っちゃうみたいで...さっきも全然、笑顔だったし! やっぱりおかしいよ!彼、帰らないつもりよ。私たちのために犠牲になるつもりなのよ。」


ハズキは少し怒り気味にアエナに問いただした。

「は? あいつ帰るんじゃなかったのか?」


アッシュは焦りだし、虚空の空をきょろきょろしながらワタルに訴えかけ始めた。

「まじかよ。じゃあ、結局今までとなんも変わりねえじゃねえか! おい、ワタル! 帰ってこい! もう一回俺たちと考えよう。 世界を救うのはそれからでも遅くないはずだ!」


ハズキはエデムの地にまだ残るゲートに近づくが、当たり前のように彼は入れなかった。彼はゲートを叩き始めてワタルに呼びかけていった。


「俺は、一人で帰る気はねえぞ! てめえ一人の満足で勝手に救われても恩が返せないだろうが! 美月のことで当たったことは謝るし、いじめたことも前に謝っただろ! 帰ってこい! はやく! 一緒に帰るぞ!! ワタル!!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


僕は胸が張り裂けそうになった。今まで現実に目もくれずに、誰かにとっての最善であればいいと思ってたけど、ここに僕の居場所があったんだ。なんで今まで気づかなかったんだろう。気づかなかったふりをしていたのかもしれないけど、僕はこれまで以上に帰りたくなった。


「私だって見てられません。だって、私はミズキの意志ともつながっていますから。彼女は本当に不思議な縁で巫女に選ばれたと思います。だから私も私の最善を尽くしたい」



「君はどうするの?」


「私は、元より生きた者ではありません。メビウスリングの意志、そのものですからお気遣いなどいりません。ですから...」


彼女が言葉を紡ごうとした時、後ろから嫌な気配がした。それはかつてのノアだった。


「君が欲しい。ワタル。君の器が...そして、世界の神になる...」


「まだいたのですか? というか、どうやって入ってきたのですか!」


「僕は一度リングとつながった。その時、意志だけを潜ませておいた。だけど、この魂は続かないようだね。」


その瞬間、世界樹の方からツルがノアの方に伸びていき、彼自身を縛り続けた。彼はこの上ない満足感を得た顔をしていた。


「君だけを救いたかった。ワタル、君は私がいた時代には悪い選択をして消えてしまった。不憫でなかった。君を救いたかった。だが、その役目は僕じゃなかったみたいだ。今の君ならよい未来を選ぶことが…」


一言いいそびれて彼はツルによって排除されてしまった。彼の死がトリガーとなり、ミアは願いを込めて両手を握りしめた。


「もう、これ以上だれも死ぬことはありません。たった今、彼がいけにえとなり多くの儀式が無効となり、新たな世界へと変化しました。私は、ここでメビウスリングの最期を見届けます。最後にワタル、あなたはそして他のみなさんも運命の呪縛から解き放たれました。 さようなら、サエナイ・ワタル。」


そういうとミアはワタルを突き放した。ゲートがワタルを吸い込み、逆にリングを吸い込み破壊しながらミアのいる世界へと吸い込んでいった。ワタルは少し高い位置から突き落とされることとなったが皆が受け止めてくれてケガはしなかった。彼の予想外の帰還に皆喜びを分かち合った。エデムは先ほどまで戦をしていたのが嘘だったかのように美しい大地が広がっていた。その景色は本当に楽園や、極楽といった形容しがたい美しさがあった。すべてが終わったのだと確信したワタルはみんなの顔を見て涙をこぼしながら精一杯の気持ちをこめた。


「ただいま」


ビーコン海賊団、そしてアエナとハズキがワタルを抱えた後胴上げをしながら彼に答えた。

「「「「おかえり!!」」」」


ワタル以外はミアという人物を忘れているような話口調で盛り上がっていた。今日はここで宴をするようだ。ワタルはみんなと一緒に夜空を見上げながら食事やダンスを繰り広げた。それは、喜びもあり、弔いの意味もあった。

彼女のことはきっと誰もが忘れるだろう。が、ワタルの中では生きている。

ワタルはアエナとアッシュのぎこちないダンスを見ながら彼女を思い出す。

葉月は美月を心の中にしまい込み、ワタルを少し見た。


次回、最終回「佐江内渉は高校生である」

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