31:未来へ
私たちに希望はあるのか…?
冴えないワタルは死んだ。その恐ろしい事実にアエナ達は戦況を乱された。特にアエナは剣を持てなくなってしまい、体も制御できなくなっていた。ハズキやアッシュが必死で彼女を守りつつ彼女の折れた心をサポートしようとしていた。ミアもこの状況に驚き、舟を降りようとするがザギャが止めようとしていた。
「放しなさい。 ワタルの元へ私は行きます!」
「ムチャだ。敵が強すぎる!!」
ノアはワタルの顔に近づけて何かささやいていた。何かは分からないが、彼らが見えたのはノアの勝利を確信しきった憎たらしい笑顔だった。
「父さん、残りもやっつけて。 巫女も一人残らずだよ。僕が器になるんだから」
ゼブの一人がノアに近寄り話し始めた。
「オラクルと神官で儀式を始めるのですか? それでは新世界には我々も...」
「何言っているんだい... 新世界にはワタルと僕だけ。一から作り上げるのさ。秩序があり、誰もが許され、永遠を生き、平和に過ごす理想の楽園の神として、僕は君臨し続けるんだよ。君たち旧い思想や種族はいらない。」
ノアはゼブを蹴り飛ばして笑い飛ばしていると急に地面から銃弾が飛んできた。よけきれず、額スレスレに当たっていた。少し血を流しながらあたりを捜したが誰もいなかった。まさかと思い、彼らの方を見るとアッシュ達の顔はノアの嫌いな希望に満ちた顔になっていた。 そして、地面から声が聞こえてきた。
「痛たたたた…。 水筒に穴開いちゃったよ。銃撃が強すぎて意識を失ってたけどリングのおかげか、特に傷もないや。」
「ワタル...キミという奴は僕をとことん楽しませてくれるみたいだね。だが、キミの未来は潰す!」
「お前に潰されるものか! リングよ、僕に希望を...」
ミアがくれた10個のリングは宙を舞い、そしてワタルの指にはめられた。たちまち、白いグローブのようなものがワタルの両手を包んだ。ワタルは拳をきゅっと握りしめ、ノアに鉄拳をお見舞いした。
突如としてノアは吹き飛ばされていった。だが、彼は地面に指をめり込ませギリギリで耐え、ワタルに向けて光線を放った。放たれた光線はワタルをとらえていたが、ワタルがすっと手を伸ばし、左にゆっくりと動かすと光線はその方向へと急転した。誰にも当たらず、光線は空中に四散した。ノアはますます怒りがこみあげてきて体の色も赤黒く変化していき、胸部には大きな瞳がぎょろっと開いていた。頭部の両目は白くなり、光を失っているようだった。
「世界はどこまで僕を拒絶するんだ。許さない…僕は、ワタシは神だぞ!」
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御堂葉月はアエナと共に失意にありつつも妄信的に新世界を望み、阻み続けるゼブやデスクローチをなぎ倒していっていた。だが、彼はワタルに思うところがあった。
「ねえ、ハズキ。もしかしてワタルと一緒に戦いたいの?」
「あ? そんなわけがねえ。 あんな...芋野郎と」
「意地張ってないで、行ってきなさい。私の、、いいえ、みんなの勇者と肩を並べて戦えるのは今のあなたよ。彼の居場所はここでも、ましてや私のところじゃない。あなたがいる地球よ。」
「こっちなら大丈夫だ。お前なしでも十分な戦力だよ。あいつのところに行ってこい」
すると戦場を抜けて美月が葉月の元に現れた。
「お、お兄ちゃん、、」
「なんだよ、改まって」
「勝手にいなくなって、ごめんね」
「…」
「お別れできなくて、ごめんね」
「…んとだよ、、」
葉月はうつむきながら話す。美月は兄妹の間に割って入られないようにバリアを張って話し続けた。
「死んだときにね。巫女に選ばれた...というか地球の生命ともいえるリングと同調したの。だから今の私がいる。初めは分からなかったけど、やっと気づいた。私の最後の使命は、あなたに、御堂葉月に力を、生きる希望を、未来を届けることだって。だから、あなたに私自身を託すわ。」
そういうと美月は光となって消えていき、リングとなって顕現した。ハズキは涙拭い去り、宙に浮くメビウスリングを取った。そして強く握りしめてから指輪をはめた。
「最後まで、わがままな妹だな...お前は。 わぁったよ。俺がこの手で、佐江内と最後まで一緒に戦えばいいんだろうが!!」
目の前には見るも無残な姿になってしまったバラッカスが立っていた。言葉は発さず、見る影もなく、幻影として立たされていた。すると、アッシュがハズキの肩に手を置き先に行くように指示した。
「こいつは俺の獲物だ。お前は早く行け、海賊の見習いさんよ」
そう言われてむず痒かったハズキだったが、アッシュの手を振り払いワタルの元へ向かっていった。アッシュとアエナそしてザギャは二人を見送った。ミアも葉月を見かねて飛び出そうとするがアエナに止められた。
「あなたは最後よ。エデムのメビウスリングさん。 ワタルがリングをつけたときにあなた自身の体の中からリングの光が見えたわよ。 つまり、そういう事よね?」
「私はただ、恩返しがしたいのです!」
「女の修羅場って戦場より寒気がするぜ。お嬢さん方、ここはキャプテンに命じて停戦ってことでいいかな?ていうか、口げんかしてるより手伝ってほしいんだが!?」
ザギャとアッシュの二人がデスクローチの軍勢とバラッカスに追いやられているとミアとアエナは目の色を変えてこちらを向いてきた。
「うるさいですよ、器でも何でもないくせに指図しないでください」
「私たちはちょっと取り込み中なのよだから…」
「「邪魔すんじゃねえええええええええええええええええええええ」」
デスクローチに対して防戦一方だったアッシュとザギャをめがけてスレスレにアエナはうじゃうじゃいた雑兵を薙ぎ払い、ミアはバラッカスを一瞬で凍らせた。
「アッシュ、あなたは父親との清算とやらをしたいんでしょ。さっさとやってください。後ザギャさんは素人とはいえ戦術がなってません! ワタルを見習ってほしいです。」
「ほんとよ。あんたたちデスクローチより役立たずなんじゃないの? なに?そんな目してるなら戦いなさい。未来は自分でつかみ取るものじゃないの?」
アッシュとザギャは苦虫を噛んだような顔で引きつりつつもアッシュとアエナは背中合わせになった。
「少し休憩しただけさ。それに俺は華奢なお嬢さんと不格好なダンスを踊りたかったんだよ。あいつは俺がケリをつける。後ろは任せた。」
「祝杯のダンスは後よ。もちろんあなたがリードしてね?」
それぞれが思いを胸に戦いに向かった。アッシュは氷漬けになったバラッカスをあえて割って溶かした。動けるようになったバラッカスはゾンビのようにこちらに襲い掛かる。アッシュは銃で何発も顔に当てた。だが、彼は止まることはなかった。
「もういいんだ。歩かなくても」
アッシュは彼の生への執着に恐れを感じつつ、胸に横一文字に切りつけた。だが、何も変わらず、歩みをやめない。
「義理の息子に生かされて、息子の俺に切りつけれ、撃たれて、、あんたはこんなにしてまで何を手に入れたかったんだ。俺にはわからねえ。俺は俺だからな。だからこそ俺は俺自身の未来ってのを歩み続ける。だからあんたは…旅立つ俺の腕の中で...」
アッシュの剣はバラッカスもどきの胸を突き刺していた。そして彼は冷酷に、しかし痛みが一瞬に終わるように素早く天まで抜き切った。剣を素早く収め、倒れ行く彼を抱き寄せた。
「…俺の記憶の中で生きてくれ。それがせめてもの親への俺からの手向けだ。」
バラッカスもどきはアッシュの頬に手を置きかけたもののすぐに力尽きた。アッシュはそっと、地面に置き彼を弔った。
未来に向かって彼らは奔走する。
次回「サエナイワタルは勇者である」




