29:そこに楽園はあるのか
ワタルたちがたどり着く最終地点【エデム】。そこは最果ての楽園であり、時を守る人々がにこやかに、穏やかに暮らしている。悠久の時を越え、勇者はすべてを取り戻せるのだろうか。
フォトンベルトは予想をはるかに超える難解な航行となっていた。ただ、光の道を通るだけだというのに、磁気嵐や、宇宙礁の多発している荒波。アークラインは果敢に進んでいく。
「大丈夫なんだよな! 外は大荒れ、こいつは意識不明で」
「大丈夫だ。 たぶん」
「アッシュの“たぶん”は当てにならないのよね。 ワタルの方は大丈夫、寝てるみたい。」
「ハズキ、ワタルの事、心配なのか?」
「いや...こいつが一番のカギなんだろ? 俺が家に帰れるかもこいつにかかってるって言うなら気にするだろ」
「でも、全部を背負わせない。彼の長所は最後の踏ん張りなんだから」
舟はガタつきながらも闇の航路を進んでいく。だが、ザギャでさえも経験したことのない荒波が四人を苦しませていた。道のりはまだ長いらしい。
「まだなのか?」
「ザギャ、どうなんだ?」
「あと、30時間...はかかる。」
「少しゆっくりできるんだから、気を揉まずにハズキも体力回復に専念したら?」
「はぁ…。なぜ、そこまで落ち着いてるんだ?」
「彼を、ワタルを信じてるし、ザギャの運転も、アッシュの機転も信じられると思ったからついてきたの。だから安心して前を向けるのよ。」
「こいつの中に魔物がいたとしてもか、そいつは魔王マ・ゾールとか言ってたぞ」
「…知ってる。彼の眼を見たとき、まさかとは思ったけど...だからって今更なにも思わない。だって彼は私にとって勇者なんだから」
そういっているとワタルは目を覚まし始めた。しかし、その目つきはいつもの彼ではなかった。急にアエナの首を絞め始めながらニヤッと笑った。
「アエナ・マクスウェル...この体に入ったとて我の魔力に気づいていたのか? すべてお前のせいだ。闇も光もありはしない! 今はただ混沌が支配をしている。めちゃくちゃだ。それもお前が生まれたから、お前がいたから」
「ワタル! 返事をしなさい! あんたは、そ、そんな奴に負けない強い意志を持ってる! 私よりも勇者らしかったあの頃のあなたを...」
ワタルの本心はアエナの思いを受けて戦おうとしていた。だが、ワタルの中にいる魔王は彼が弱っている隙をつけ狙ってくる。彼自身も対話を必要としてた。
『やめろ! マ・ゾール、見苦しいぞ!』
『黙れ! 我はこの女に、お前に復讐せねばならんのだ! 』
『状況を分かってるだろ! 関わらないでくれ!』
『だめだ、アイリスタル...法具がある限り、アエナ・マクスウェルの歴史は繰り返す。神話からは逃れられない。』
『僕が絶対終わらせる。アエナのために! だから、力を貸してくれ。マ・ゾール。』
『消えろではなく、力を貸せだと?』
『あなたは闇の安息があればいいはずだ。アエナにも話してみる。だから!』
『ふん、昔の勇者を見ている気分だ。いいだろう、我が安息の地を守るため、少し眠りにつこう』
「ありがとう、マ・ゾール」
首から手をすっと手を離すとワタルはアエナを気にかけた。
「大丈夫? アエナ」
「ええ、何とか。それより、大丈夫なのよね?」
「うん、何とか聞き入れてくれたよ。」
「よかった」
ワタルの中で横たわって安どするアエナだった。そしてアエナは腕を回して彼に抱き着いた。ワタルは少しびっくりした。けど、少しの間、彼女を抱きしめた。彼女の痛み、苦しみ、そして優しさが伝わってきたような気がした。
「ゴホ、ゴホ! おい!そこのお熱い二人、見えてきたぞ!」
アッシュの怒号に我に返った二人はすぐに離れて、アエナは立ち上がり窓の景色を眺め、ワタルは正座しながら赤らめていた。他三人はそれを見て呆れながらも惑星エデムを見つめていた。淡いパステルカラーに包まれた幻想的な星、そして銀河系唯一といわれる幻想郷は、戦いの最終地点には望ましくないほどの景観だった。大気圏を抜け、エデムの地上を見ると住宅は少ししかない。さらには、自然というものも見られない。だが、どこか安らぎのある空気が漂っていた。
しばらく、遊覧しているとさすらかな雰囲気とはかけ離れた十字架に二人の少女が見せしめになっていた。アッシュが驚いた様子でザギャに命令した。
「ザギャ! ここで下ろせ! 彼女らが捕まってるぜ」
着陸し、四人がエデムの大地に降り立つと数人の牧師のような恰好のヒトが現れた。彼らは手を合わせて、にこやかにワタルたちを迎えた。
「ようこそ、世界樹の神官様。そしてお連れの方々。儀式の準備は整っております」
ハズキはこの集団の言葉に対して無礼な口ぶりで話した。
「おい、どういうことか説明しろ! ミズキはなんで縛られてんだ」
「口を慎みなさい。若き器よ。すべては我ら、世界樹の守り人の経典が示す通りに行っております故、口出し無用。手出し無用です。さあ、神官様、前へ」
そういうと、ワタルを手厚く迎え入れて進んでいった。アッシュ達は互いに“どうなってるんだ”、“いや、さっぱりだ”だとジェスチャーで交わすが、埒が明かないのでついて行くことにした。
「お名前は?」
「佐江内 渉です」
「ワタル様。我々は、1500年の時を超え、ようやくあなた様を迎え入れることができました。あなたは円環の呪縛を解いた素晴らしき才の持ち主なのです。」
「オーガスの事件のことを言ってるなら、あれは僕だけの力じゃないよ」
「いえ、あなたの秘めた才能のおかげです。神官と巫女は時つなぎの儀式を遂行する器であり、我々の...いや銀河中の救世主なのです! ですが、、」
というと変にオーバーリアクションで磔にしていた彼女たちを指しながら嘆いた。
「あろうことか、時の巫女は二人いたのです! 初めは天の魔女と言って多くの者に流布しておりましたが、よく見ると、よおく調べると同じなのです! 彼女たちは全く同じ...。ですが、我々が欲するのはただ一人なのです。つまりはどちらかは偽物なのです。だから我々は見極めるために、楽園の正直なものは炎で浄化されず、悪のみが焼き尽くされるという教えを使い、彼女らに火を放ちたい所存です。その火付け役を神官様、つまりワタル様本人にやってもらおうかと思っております!!」
狂っている。とワタルは瞬時に思ったが彼らは純粋な目でこちらを見つめている。それが本当に怖い。自分たちの妄信的な言動に気づかず、押し付ける。周りの目線も希望の目を向けている。まるでそれを望んでいるかのように。アエナも引き留めるが、守り人たちは聞く耳を持たないのだった。
エデムの最終決戦。そこに最悪の状況で彼らは合流する。そして、ワタルは...
次回「失意」




