O26:ズァークの決戦 シン篇
アッシュの過去がわかる!
そして彼はもっと前へすすむ!
ナーレが目を開けるとそこは荒れ果てた大地に地獄のような帝国がそびえたっていた。ジェノサイド帝国。そこは誰もが近寄らない、深遠の暗黒凶星。住民は全員魂を抜かれたような表情で歩いていた。
『ここが、バラッカスのいたジェノス…。おっと!』
住民がナーレを透過して通り過ぎていった。これはナーレの魔法によって見ているアッシュの深層記憶というものであろう。ナーレはアッシュの心に集中して彼を探した。すると彼は赤ん坊の姿で帝国の宮殿に美しい女性の元で育てられていた。ナーレが微笑みながら小さきアッシュに手を振っているとバラッカスが現れた。
「へレイア! 我が子、カイルはどんな様子だ?」
「…ええ、ぐっすり寝ているわ 」
「どうした? 顔色が悪いぞ?」
「いえ、私は大丈夫ですわ…それよりあの子が心配ですわ。」
「子? ああ、ノアか。あやつは孤児だったから慈悲で養子にしてやったのに面倒ばかりだ。だからガイードに押し込んでやったわ。」
「まだ子供なのにですか!?」
「言うて10くらいだ。檻の中の方が安心だろう。これから戦争を起こすというのだ お前にも避暑地に行ってもらう」
「…当てはありますので、ご心配なく」
時は流れ始め、見ている光景が早送りのうようになっているとその場面ではカイルとへレイアと呼ばれていた女性は全く雰囲気の違う惑星にいるようだった。そこはナーレも見覚えのある光景だった。
『ここってヨントゥムじゃねーか!? そういえばあいつと初めて会ったのもうちの国だったな。』
へレイアが不安そうに幼いカイルもといアッシュが走り回っている様子を見ているとひとりの青年がへレイアに近づいた。
「ジーク、どうすればいいの? あの人がすべてを知ってここにやってきたらひとたまりもないわ。あなただって国を追われるかもしれないわ!?」
「大丈夫、僕にはアイリスタルがある。 これを人が扱えるようになれば今以上に文化は発展する。この鎧も、そのための試作品さ。君だって守れる。」
「あなたが思っている以上にバラッカスは嫉妬深く、異常よ。それでも…」
「それでも君を愛してる… 風来坊だった僕を助けてくれたんだ。 今度は僕が君を助ける番だ。君はあのバラッカスって男が嫌いなんだろ? 子供に嫉妬して暴力をあげるそんな男だったからこっちまでやってきた、違うかい?」
女性は深くうなずいた、少し涙を交えながら顔をあげてジークと呼ばれた男に笑みを浮かべた。ナーレはジークという名前に聞き覚えがあったがはっきりとまでは思い出せなかった。
『ジーク...アイリスタル... あ! ジークフロイド・ゴールド―か! アイリスタル研究の第一人者でメビウスリングを作った張本人! あれがアッシュの育ての親…?』
ジークフロイド・ゴールド―、ヨントゥムで最も自由な研究者だった男。一番の災厄アイリスタルを指輪上にして世界に均衡と共に新たな秩序をもたらした男と呼ばれていた。そして彼の元にその新たな秩序がもたらされる。
「アッシュ、お前はお前の道を行け! きっと運命というものがお前の周りに障壁として現れる。だが、自由を求めろ!…ん?」
ジークがアッシュをあやしていると、お守り代わりに首に巻いていた彼が初めて開発したメビウスリングが光だし、へレイアの体内に入り込んでいった。
「大丈夫か、へレイア?」
「え、ええ。平気。何ともないみたい。」
異変はそれに終わらなかった。突如地鳴りが鳴り響いたのだった。空を見るとジェノサイドの艦隊だった。群を抜いて大きい艦から単身飛び降りてきたのはバラッカスだった。
「へレイアァァァァァァアアアアアア!!」
「っ! あの人の声!? その子と一緒に逃げて! どこか遠くに見つからないように」
「君を置いておけない!」
へレイアはジークに口づけを交わすと彼と幼いアッシュを連れて森の奥の方へと連れて行った。
幼いアッシュはジークにへレイアのことを聞いた
「母ちゃんは大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、お前を逃がしたらすぐに母ちゃんの元へいく」
「ぼくを一人にするの?」
「そうだ! 一人にする!」
「なんで!」
「俺の息子だからだ! お前は誰よりも自由なこのジークフロイド・ゴールド―の息子、アッシュ・K・ゴールド―だ。誰にも負けるな、屈するな。お前は強い、俺がいなくてもお留守番できるな?」
アッシュは黙ってうなずいた。ジークが頭を手荒に撫でて小さな洞窟に彼を隠すと愛する者へと戻っていった。それ以降は分からないが、次にアッシュが出た頃には洞窟の前に倒れているジークとへレイアの姿があった。ジークはバラッカスに抱えられていた。小さなアッシュは彼をにらみつけていた。
「目つきの悪いガキだな、どことなく俺に似ているが、この辺で小さなガキを知らないか? お前より小さくて弱々しいやつを」
「そんなもん、知るか! と、父ちゃんをどこへもっていくつもりだ!」
「口ぶりも悪いな、ガキが知らなくていいことだが、こいつは使えるからな、メビウスリングのすべてを知っている男だ。活かす価値はある」
バラッカスがアッシュを後にするとアッシュは大声で叫んだ。
「ぼくの名はアッシュ・ゴ―…いや、アッシュ・ゴ・ルドー! 必ずお前を、お前を殺す! そして父ちゃんを取り戻す!」
「いうねえ。その言葉、忘れるなよ。」
バラッカスの睨んだ姿はアッシュに静かなる重み(プレッシャー)を与えた。その圧はナーレにもびりびりと響いてきた。ナーレは幼い彼に手を伸ばして問いかけた。
『そうだよ! あんたはアッシュ・ゴ・ルドーだよ! だれにも負けない自由な奴だろ! それを取り乱して私たちをどうにかしようと思ってんじゃねーよ! 帰ってこい! キャプテン!』
アッシュはナーレの存在に気づいたかのようにこちらを向いた。それと共に容姿が大人の姿へと変わっていった。自分を見つめなおしてアッシュは彼女に手を伸ばした。ふと見ると光があふれかえるところに目を向けると女の子が光が放ち、佇んでいた。光が増すと、現実に戻ってきた。するとナーレはすぐに地面に倒れようとしていた。だが、アッシュの腕が彼女を支えていた。
「無茶するなぁ、うちの看護師さんは…」
「へへへ、仲間…だから、だろ?」
「とりあえず、戻ってこっちに参加してくれないかしら? キャプテン?」
アエナがジークを跳ね返し少し余裕のありそうに話しかけた。アッシュはナーレを横に寝かしつけアッシュは自分の武器を手に取りジークに向かっていった。
「了解、勇者さん!」
銃から放った弾丸はジークの持っていた剣をはじき、遠くの地面に置き去った。そしてアッシュは頭に一発蹴りをお見舞いした。
「これで懲りたか!バカ親父め! 今助けてやる。」
「お、お父さん!? それに助けるってどうやって?」
「操られている原因はあの鎧だ。俺もスパイのつもりで配下になろうとしたが失敗だった。すまねえ。…とにかく、あれを脱がせばいいんだよ! 強引にでもな」
「なるほど、いたって合理的な作業ね。」
アエナとアッシュは剣を取りに行こうとするジークを取り押さえ、無理やり鎧を脱がそうとした。だがジーク自体もじたばたしていて脱がせられなかった。ジークは二人をどかし剣を取り戻した後態勢を立て直した。
「そう安々と外されるものか! アッシュ、父さんを殺すのか…?」
「今のお前は父親でも何でもない。ただのバケモンだ! なら、あんたが作ったものであんたを取り戻す!」
アッシュが懐から取り出したのはアイリスタルの模造品だった。それをジークの額に押し付けるとアッシュはジークを押し倒して体にまたがって額に押し当て続けた。
「たとえ粗悪品だったとしても、あんたなら聞こえるはずだ。浄化の声が…。女神アイリスの声ってやつが!」
そういうとアッシュの持っているアイリスタルの粗悪品が光だし、アッシュの横に女性のような姿の光が彼に手を添えた。その女性はどこか、ミアのような清楚さ、へレイアのような美しさが見えた。目を凝らしてみると鎧は急激に錆びていき、ボロボロに崩れていった。その鉄仮面からは眉目秀麗な青年が現れ始めていた。どんどんと光が弱まっていくと、アイリスタルもひびが入り、ジークの鎧がすべてなくなるとともに砂となってヨントゥムの風に散っていった。
バラッカスは誰にも止められないのか!?
次回「ズァークの決戦 後編」
 




