O23:ザギの情報屋②
アエナはほぼ単独で情報屋、イェンロンの元へ足を運んだ。
そして彼女の前に現れるのは金色の箱舟。
情報によって成り上がって、竜人の国を制覇し、城をも築き上げたイェンロンは金銀宝石をひけらかし、その根城でアエナは彼の下衆な扱いを受けていた。
「愛い格好だぞ。他星の娘をこんなまじかで見れるとはな。ほれ、もっと踊ってくれないとお前の欲しい船の情報は手に入らないぞ。」
アエナはいつもの胸当てのついた赤色の服に黒いコートではなく、色鮮やかで艶めかしいドレスをあしらわれて着させられていた。彼女は、さして豊かでもない谷間をちらつかせて険悪な表情で踊っている。イェンロンや一部の竜人は酒を飲みながら彼女を肴にしながら饗宴乱舞している。一方で彼女のダンスが途切れて反乱を起こさないように艶めかしい姿に笑みをこぼしながら刃物を突き立てる竜人もいた。竜人たちは初めての人の女性に上機嫌になりつつも不満やヤジを飛ばしていた。
「きれいだぞー! いいぞ、もっとやれ~! ハハハ!」
「もっと笑えよ! きれいな顔が台無しだぞ!! イェンロン様を満足させたいならもっと腰振れ~!」
アエナは屈辱を抱きつつ、耐え忍んでいた。
「げ、下衆が…。」
「あ? 今なんだって? 俺様のこと下衆って呼んだのか?」
イェンロンはアエナの罵倒に反応し、アエナに近づき、ダンスをやめさせ、顎を彼の手でくいっと上げしたり顔を向けた。
「別にいいんだぜ? 箱舟が欲しくなければいつだって切りかかっていいんだ。世界の危機だろうが何だろうが、俺たちは金でしか動かない。ものが欲しけりゃ相当の対価を払いな。」
そういうと控えていた竜人たちは、アエナを押さえつけて手錠をかけ、そのもう一方をポールに付けた。鎖も手錠も頑丈でアエナがいくら引っ張ってもポールもびくともしないし、手錠も壊れなかった。
そうすると、アエナはうなだれて気力をなくしたように床に座り込んだ。
「箱舟、アークラインは俺たちのものだ。それが欲しいんだろ? もっと遊んでくれよ。」
イェンロンが彼女に煽りを入れると、アエナはうつむいた後、彼を誘うような恰好をしていた。イェンロンはホイホイと連れられ、彼女の近くに寄っていくと、彼女はポールを使って両足を彼の首に持っていった。
「動くな! あんたたちの情報を渡しなさい!さもないとこいつの首を折るよ!」
「足の力強っ!! 俺様を殺ったらアークラインの情報は手に入らねえぞ!」
「私がバカだった、こんな仕打ちをされるなら自分の手で探すわ。」
アエナの殺意はイェンロンの部下たちにビリビリと伝わっていた。蒼白する部下を目にしたイェンロンは焦燥し、ついには諦めて手をあげた。
「わぁったよ。俺様も十分に楽しんだから教えてやるぜ。」
そういうとアエナの剣は押収し、手錠もつけたままでイェンロンと彼女を見張る部下数人で船のある格納庫へと向かった。格納庫の厳重なシャッターを持っていたボタンで開けるとそこには金色の潜水艦のような形の船があった。
「……これが、箱舟…!?」
「わかったら、おとなしく戻りな。俺は対価に見合ったことしかしねえ。お前には見せるだけだ。」
アエナの手錠の鎖を引っ張って連れ戻そうとする部下にアエナは痛がりながら引きづられていった。アエナはうなだれながらも最後のおねだりを部下に願った。
「ねえねえ、私のポケットの中、探っていいよ。いいもの、入ってるから。」
部下は下心丸出しでポケットをまさぐった。アエナは辛抱しながら尻を撫でられていたが、部下がポケットの中から取り出されたものは下心でさえも鎮火するほどの鋭利なダガーだった。
「これ、ダガーじゃねえか! こええもん持って”…!?」
ダガーを取り出された瞬間アエナは部下からダガーを蹴り上げて、腹部をそのままけりとばした。その後、後ろで縛られていた手錠のチェーンに引っ掛け、両手に持った後、近場で取り押さえようとした部下を蹴り飛ばし、大きく回転をかけてダガーをイェンロンに向けて投げた。ダガーは見事イェンロンの元へと一直線だったが彼もそれをよけた。だが、それを見越してアエナは大きく、飛び上がりイェンロンの頭をめがけてかかと落としを決めた。イェンロンは痛烈に決まって脳震盪を起こして倒れてしまった。
外側から物音がするとアエナは不器用にもイェンロンのポケットから鍵を探ろうとして何とか逃げようとしたが、外から二人ほどこちらに向かってきた。
「アエナ!! 無事だった…か?」
「ナーレ! それに、あなたは確か、バッカーノ将軍?」
「アエナ・マクスウェル、やはりお前は勇敢な武人だな。女だが腹立たしさを感じないぞ! むしろ、たぎってくる。」
ナーレは彼女の腕に巻きつけられた手錠を外し、バッカーノは部下から巻き上げたアエナの愛剣、竜神の剣を渡した。
「あ、ありがとう。 じゃ、、ここから脱出するわよ。」
「待て、アエナ・マクスウェル。 」
バッカーノが彼女を足止めして、アークラインの前で仁王立ちをしていた。
「この箱舟、バラッカス様の言うフォトンベルトを航行するための船と見た。ここからは、俺が相手だ! お前ひとりでこの俺、バッカーノ将軍を倒し、この船を奪って見せろ!」
「意味がない、それに私はできれば戦いたくはない。でも、それがあなたの“恩返し”というのなら…やるしかないわね。」
「何言ってんだよ、アエナ! 一人じゃ無理だ、私も、」
「一人でやるわ。ワタルばかりに頼ってちゃ、誰も守れないし、救えないから!」
バッカーノは四本のうちの左二本でアエナをつぶしにかかった。だが、ギリギリのところで後ろにジャンプしてよけた。すぐに体制を立て直し、剣を構えた。そして、バッカーノの懐まで低姿勢で駆け抜けていった。バッカーノの太い腕はアエナを薙ぎ払おうとしていたが、それを華麗によけきり、彼のはらわたから頭部に至るまでを大剣で切り上げた。力をつけた反動でアエナは後ろに吹き飛んでいった。バッカーノもとっさに後ろに下がったが、腹部の傷は致命傷だった。深手を負ったバッカーノはその場で倒れこみ、とぎれとぎれになりながらアエナに語った。
「お前の勝ちだ、アエナ・マクスウェル。久方ぶりに憂さの晴れた戦いをした。さ、、とどめを刺せ。」
「嫌よ。あなたはこのまま放っておいてもどうせ死ぬ。それくらいの手ごたえはあった。なら、とどめは刺さない。かといって治しもしない。痛みを知りなさい。」
「フ、腹立たしい…。」
言い終わった瞬間、バッカーノの意識は途絶えていた。アエナは動かなくなったバッカーノをナーレと共に近くの土の中に埋めた。ナーレからもゼントのいきさつを聞き、二人で船に乗り込んだ。
「ほんとに二人きりになっちゃったな。どうするよ、お嬢さん。」
「ワタルとは連絡は取れないけど、一度ズァークに戻った方がいいかしら?」
「あいつなら、ワタルならどうすると思う?」
ナーレにしては不思議なことを聞いてきた。さらにナーレは続けた話した。
「私、思うんよ。この戦いはなにか因縁めいたものがあんたとワタルの間で起きている気がするんだよ。戦い次第ではどちらかを失うことになるって予感がするよ。」
「そんなことにはならない。私もワタルもみんなももう死なせない。だから前に進む。この船に身をゆだねて前へ進むしかないわ。それが最善で、最短の道だから。」
舟が起動するとアエナが持たれていた机が光だし、次へと向かう座標地点と惑星の名前が書かれていた。そこにははっきりとズァークと書かれていた。
「結局戻る羽目になるみたいね。」
「それが、最善で、最短…だろ?」
二人は少し笑いあいながら船を座標にセットし舵を取った。
ミズキ、お前だけは俺が救ってやるからな、大丈夫兄ちゃんは強い。
ミア、お前は何者なんだ。お前のことをなぜか他人だとは思えない…この気持ちは何なんだ。
次回「ミアとミズキ①」




