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O21:ウンディーネの海に差す茜②

正気に戻ったワタルはノアと協力し、ウンディーネ脱出へと邁進するのであった。

「というわけで、私たちは一種のテレポーテーションに遭ったんだ。ここからはイフェイオンへ戻るか、新たな場所へと旅立つか。だね。」


ノアが歩きながらワタルたちに彼らの身に何が起きていたのかを話した。そうするとワタルは今まで以上に凛々しい顔立ちで語った。


「次の場所へと向かいます。アエナとは連絡が取れないですが、きっと彼女もそうするはず。」


「どちらにせよ船がいるだろう。私の船で詳細な作戦を練ろう。そこには君たちの顔なじみもいるはずだ。」


ワタルたちはノアに言われるままについて行くとそこには巨大な戦艦が傾いて不時着していた。船の天面にはジェノスの帝国マークがはっきりと描かれていた。御堂はノアをにらみつけて


「てめえ、ジェノサイドか…! なんのために俺らを助ける?」


「わたし、、いや僕はバラッカスが、父が心底憎い。それに君たちはとても面白いから少し手伝ってもいいかなと思って。」


話していると戦艦から僕たちを知るザギャがすすだらけになって二人の前に現れた。ザギャはいつものようなとぎれとぎれの口調で


「二人とも……だ、大丈夫だったか?」


「ザギャ、君も無事だったんだね?」


ワタルがのんきにザギャの無事を祝っていると御堂の方は曇った表情で


「大丈夫なのはお前の方だろ。佐江内なんかより信用ならねえ奴と組んで。」


聞こえてるんだよなあと肩を下ろして呆れているとザギャは視線をそらして船を見つめながら


「お前や、ワタル、アエナ嬢、、救うには、他に方法 ない。」


「確かに今はこれしかない、よね。」


ワタルの承諾に御堂は舌打ちをしつつも従うことにした。ノアはハズキとワタルに改めて指示を出した。


「ワタルくん、そしてたしかハズキくん、だったね。君たちはウンディーネの地下にある王国“ヒドラ王国”に行くんだ。そこにレックガーという僕の昔馴染みがいる。奴に言えばこのメモのものも手に入るだろう。」


そういうとノアは一枚の板を渡してきた。そこには読み取れない言語が書かれていた。きっとこれがメモ代わり何だろうと思い、ワタルはわきに抱えてハズキに手招きして誘うが彼は一歩も動かず、むしろノアの方へ向かっていった。


「なんでこいつと一緒なんだ? こいつ一人で十分だろ。」


「こちらにいても邪魔だ。それに私は次の座標の特定、ザギャくんは船の修理と手一杯なんだ。君たちにできることは、おつかいくらいだろ?」


さっさと行けと言わんばかりにワタルたちを追い払った。仕方なく二人はヒドラ王国へと向かうことにした。ヒドラ王国への行き方もノアからもらい受けた板からマップと方位磁石が映し出されていた。多分ワタルたちがよく使っていたタブレット端末に似たものなんだろうがワタルには仕組みなど全くわからなかった。


ハズキとはあまり話もせずに王国へとたどり着くとそこには地下の鍾乳洞を利用した文明的な街なみが広がっていた。街にはザギャと同じようにぎょろっとした目つきと水かきの発達した手と背びれが特徴的なウンディーネ人が懸命に再興を図っていた。彼らはワタルたちのことを見るなり、ぎょっとしたような表情で体を震わせていた。


御堂はウンディーネ人に睨みを聞かせながら


「なんだ? こいつら。異星人は初めてか?」


「僕たちだって異星人を本当に見るなんて考えたことなかったでしょ?」


レックガーのアジトへの道筋を板を頼りに進んでいくとそこには先ほどまでの街並みとは雰囲気の変わった藁葺のような集落が広がっていった。そこにはデスモフと同じような見た目の種族が住んでいた。


「ポリプロピレンだっけか? こいつらだいぶ離されたところに住んでんだな。」


「ポリ・ピアンキだよ、御堂くん。とりあえずレックガーに話を聞こう。」


ウンディーネの少数種族、ポリ・ピアンキは大きな鉄と同じ成分の外殻を有した不定形種スライムの亜種といわれている。彼らはひっそりと暮らしていた。集落に入っていくワタルたちにはあまり目もくれず自分たちの街の復興という責務を果たしていた。そして、レックガーのアジトにたどり着いた。アジトには数人のピアンキ族がいた。突然の訪問に空気が冷え切ったがワタルは息を呑み、勇気をもって前へ出て彼らに話し始めた。


「すみません、こちらに、、レックガーという方は?」


右端の方にいたポリ・ピアンキが前へ出てゆっくりと


「俺だが、何の用だ? 誰から聞いた?」


「ノアの使いできた佐江内 渉といいます。壊れてしまった船の修理のためにパーツが必要だそうで、、それであなたの元へ行けば融通してくれるということだったので・・・。」


レックガーにタブレットもどきを渡すと顎に手を当てて悩ませていた。そして一人ぶつぶつと文句を垂れていた。


「こんな希少なパーツぶっ壊しやがったのか。よほどのバカやらかしたか、大きな電磁波ショックをうけたかだな。ま、何とかしてやるよ。少しくつろいでいろ。」


レックガーの言われるがままにワタルは縮こまって座り、ハズキは端の方の椅子に不機嫌そうに足と腕を組んで座った。そうしていると座って談笑していたピアンキ族の一人がワタルの方に話しかけてきた。


「お前、確かノアの使いって言ってたけど、ジェノサイドってことだよな? デスモフ、あいつどうしてる?」


ワタルは焦った。あまりに唐突な話に言葉が詰まっていた。


「え? ああ、えーと…。彼は、」


はぐらかそうとしているとハズキは嘲笑うように煽った。


「言ってやれよ、勇者さんよぉ。“俺が殺しました”って、堂々と。」



ワタルは言葉を失った。ピアンキ族の二人も絶句していたが初めにワタルに話していた方が真剣な面持ちで話した。


「本当なのか?」


ワタルは正直に話した。


「ジェノサイドは僕らの星をもボロボロにした。その一味で仕掛けられたからにはこっちもやらないと守るものも守れない。だから、そうするしかなかった。」


「わかった。ならお前のことは責めない。あいつを含んで俺たちは星の運命を放棄してあいつら(ジェノサイド)の親派となった身だからな。俺たちがお前らをとやかくは言わないし、恨もうとは思わない。」


奇妙な出会いと数奇な会話を終えるとレックガーが帰ってきた。レックガーにも仲間がデスモフの死を伝えた。レックガーも少し拳を握り締めるも割り切ってその拳を広げ、ワタルの肩に置くと


「少しでもあいつのことを思うなら、生きてくれ。あいつの分まで生きて生きてもがき苦しめ。それがあいつへの弔いだ…。」


重くのしかかる手を感じながらワタルはゆっくりと顔をあげて


「はい。」


とだけつぶやいた。



レックガーは気を取り直して明かるげな口調で話した。


「パーツもそろったことだし、帰るなら近くまで送ろう。」


お世話になりましたとバラバラにあいさつした後、ワタルとハズキはレックガーと共に王国の門でもある洞窟と地上をつなぐ穴の前まで向かった。するとレックガーは先ほどとは打って変わってまたも神妙になった。


「ノアに伝えてくれないか? もう関わらないでくれって。 というのも俺たちは星を裏切ったことを後悔しているんだ。今はウンディーネのポリ・ネイシン族とも友好的にヒドラ再興を掲げてる大事な時期なんだ。だからこそ、これが最期だ。」


「分かりました。 伝えておきます。」


ワタルはレックガーに伝えるとレックガーはありがとうと言い、二人を見送った。二人は来た道を戻るように再び水の枯れた大地を歩き続けていくのだった。歩き続けていると地響きが体を襲った。二人はその場で立ち止まり、辺りを見渡した。地響きの正体は二人を囲むように地面の下をくすぶり続けるなにかなのは間違いない。ただ正体を見せずに地面そしたギリギリをすすすんで地面を盛り上がらせては消えるのを繰り返している。


「おい、なんかやべーことでもしたのか?」


「何もしてないよ! ていうか、なんでいつも僕なんだ!」


「お前が勇者もどきだからだろうが!」


「僕は精一杯のことをしているのに君がすることって言ったら事態を面倒くさいことにするか、僕をたしなめることじゃないか!?」


「うっせえな、俺はお前が…」


喧嘩をしていると地面からザバッと大きな化け物が現れた。それはなにか鉄の鎧を被せたエビの形をしていた。


「で、でっけえエビ?」


御堂が不思議そうに見ているとエビのような何かはこちらに向かって鋏を振り下ろしてきた。二人はバラバラにはけていった。ワタルは銃を取り出しエビもどきの顔に数発弾丸ビームを当てるが傷一つつかなかった。ハズキの方もシールドバッシュをしていくが同様に傷はつかなかった。とうとうハズキはエビもどきの大きなはさみに捕まってしまった。苦しそうなハズキは振り絞った声で


「さっさと荷物をアイツんとこに持っていけ!」


「嫌だ! 君を置いていくわけにはいかない!」


「黙れ、助け読んで来いっつってんだろうがっ、っ!!」


声にならない声で締め上げられるハズキの声に従おうと決心しかけたワタルだが、やはり彼はハズキを置いておくことはできなかった。ワタルは考えるのをやめ、背中に背負っていた剣を抜き取り、助走をつけて大きく飛び上がった。


「目の前の人間を守れないで、何が守れるっていうんだぁああああ! 僕の中にいるのはマ・ゾールなんだろ!? そんなことはなんとなく分かってた! 負けた魔王なら僕の言うことを聞けえええ!!!!!」


剣から黒い閃光が走り出し大きな剣のようになるとエビもどきの鋏は腕から切り落とされた。鋏は力を失い、ハズキを解放させた。


「てめえ、なんで俺を助けた!!」


御堂が悪態をつくとワタルが胸倉を掴み、ハズキにキレた。


「お前がいなくなったら妹はどうすんだ!! 僕が助けても身寄りもいないんだろ!! お前が生きなきゃ誰が妹を抱きしめるんだ! 僕か? 違うだろ! …それに、ノアって人は僕より信用ならないんじゃなかったっけ?」


「…ふん、別に死にたくなったから言ったわけじゃない。二人だとお前がお荷物だと思った。それだけだ。」


片腕だけになったエビはよろめきもせずもう片方の腕を二人に横から薙ぎ払おうとした。だが、二人はさっきと打って変わり、ほぼ同じタイミングで飛び上がった。


「ずっとお前と旅して分かった。俺はお前がうらやましかった(・・・・・・・・)。だけど、俺はお前になれない。お前はお前のままで突き進め、俺が合わせてやる。」


欲は分からなかったが、ワタルはうなずき、エビもどきの正面から弾丸を放った。同じ個所を数十発も当てていると硬い装甲もはがれてきた。そこを切り口にしてハズキが腕を振り払ってシールドを投げた。シールドは顔を切り落とした。するとそこの中には水のような何かがウヨウヨと操作していた。


「くそっ、佐江内渉め! デスモフを殺したこと、やはりただ生かしては置けない!お前たちは殺人者だ!!」


「レックガーなのか? なら、言ってたこととやってることがめちゃくちゃだ!」


ワタルが愕然としていると顔を切られてもなお、残りの鋏で二人をはさみこそろうとしていた。レックガーの操るエビもどきはただむなしく、暴れまわっていた。


「おい、佐江内。 ここであいつを殺さねえと地の果てまで追ってくるぞ。」


「だめだ。それでも…それでも彼は犠牲にはしない。」


ワタルは体力を消耗しつつも剣にもう一度力を宿し、鋏を切り上げた。ふらふらになっているところをハズキに肩を抱えられた。ハズキはワタルをしっかりと抱えながら最後に足を刈り取った。


「これで動きは止められたはずだ。」


レックガーにワタルは近づいて行った。レックガーはニュルっと顔をだしてワタルに語り掛けた。


「殺せよ。 俺はあいつの言った通り、地の果てまでお前を追うかもしれないぞ。」


「いや、殺さない。 あなたが僕を殺そうとしたことは許すよ。許さなきゃ戦争なんていつまでたっても終わらない。そうでしょ?」


ワタルは唇を震わして言葉を失うレックガーに続けて話した。


「僕たちはバラッカスを止めるために戦ってるんだ。だから、レックガーも生きて戦ってほしい。」


レックガーは不定形種だが彼から流れる水は紛れもなく涙だった。


ワタルとハズキはレックガーを置いてノアの元へと戻った。もちろん、ノアには初めに言われた“頼れるのがこれで最後だ”ということだけは伝えた。パーツを渡すと冷静に“わかった”とだけ言ったが彼の背中はやはり寂しそうだった。ザギャとの改修工事は終わり、舟は大まかな修繕が完了した。ノアと共に船内に入ると、彼は次の目的地を話した。


「おそらく最後の目的地であろう場所は分かっている。エデムだ。そこで運命が決定する。」


そこにアエナも合流すると考えると、ワタルは彼女に会いたい思いで胸いっぱいになった。


アエナ・マクスウェルはその頃、遠く離れた竜人の住む惑星ほしで事件に巻き込まれる。彼女の選択とは? 宇宙を駆け抜け、すべてを取り戻せ!


次回「ザギの情報屋①」

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