O20:ウンディーネの海に差す茜①
時の巫女たちの手によって全く見知らぬ土地へと飛ばされたビーコン海賊団、ジェノサイドそして銀河連邦のイレーナ。彼らは一体どこでなにをし、何を見るのだろうか。
ぬかるみが顔を包み、あまりの気持ちの悪さで目覚めてしまった。広がる景色には水たまりがぽつぽつとある荒れた湿地のようだった。
「どこだ…ここは」
ふと、水たまりを覗いてみる。そこには泥だらけになった御堂の姿が映っていた。御堂は袖でぬぐいながら先へと進んだ。誰にも会わなかった。ただ確かなのはここは地球ではないことは肌で分かった。ここはいつもよりも空気が薄い。どこへ行けばいいかもわからず、ふらふらと当てもなくさまよっていると倒れているヒトがいた。それは彼にとって不運だったが、佐江内渉だった。御堂は舌打ちをしながらも知らない人間がいないよりもましだと思い、乱雑に起こした。
「おい! てめえ、起きろ! てめえのせいでこうなったんだろうが!!」
「…ナンダ、、ワレの邪魔をスルのカ?」
「あ? とうとう、頭沸いたか? 起きろ佐江内!!」
「ン? わ、オレ、我をその名で呼ぶな。」
「意味が分からん。」
ワタルはスッと起きだし、いきなり御堂の首を絞め、腕の力で持ち上げた。
御堂は突然のことでなおかつ今までにない以上の力強さで抜け出せないでいた。
御堂の言葉は詰まり詰まりでワタルには聞き取れなかった。ワタルは急に予想外の発言をした。
「我が名はマ・ゾール。決してあの勇者、サエナイ・ワタルではない! 今は、体を預かっている。」
御堂は手元の盾でワタルの腕を叩いた。痛がって力が弱まるとすぐさま、ワタルの銃を取り
「誰だ? 説明しねえとぶっ飛ばすぞ!」
「落ち着け、お前は確か、御堂ハズキだな。知っているぞ、勇者ワタルのクラスメイトとやらだな。そしてミズキという妹をバラッカスに取られて躍起になっている。」
「俺の事じゃなくてお前のことを話せ、その、佐江内との関係も含めてな。」
「知らないなら教えてやろう。我が名はマ・ゾール、一度はルナ王国を牛耳った大魔王である! だが、勇者アエナ、それにこの体、ワタルによって葬られた…。だが、我は賢い! 保険をかけておいた。この体を魔族にする際、我の魔力と種を植え付けていた。種は我が分身となり、分身は最後の戦いの際、我ごと飲み込んだ。」
「要は、魔王の親玉がこすい手で生き延びて、今人格自体を飲み込んで話してんのか?」
「呑み込みが早くてよろしい。 ってこすいとはなんだ! 褒めるなよ~。」
マ・ゾールに人格を奪われたワタルの身体は御堂を置いてどこかへ去ろうとした。
御堂は必死になって追いかけて足止めした。
「どうした? 話は済んだろ。我にはやることがある。」
「知らねえところでウロチョロしてどうする?」
「この勇者含め、お前たちの動向は分かっている。お前も妹を助けたければ黙って我についてこい。」
御堂はほかにどうすることもできず、黙ってワタル(マ・ゾール)の方へとついていった。行けども行けどもあたりは自然も、水も無く、ただジメジメとした大地があるだけだった。ワタルは立ち止まると地面の下に穴があった。躊躇わずに彼はそこに入っていった。御堂もついて行った。ワタルは終始無言だったが、穴から通じていた地下水道の大きな通りを歩いていくと淡々と話し始めた。
「こいつが憎いのだろう? なぜおとなしく付いてくる。」
御堂はワタルとは全く声色も態度も違う彼に対して、いろんなことが起きすぎたのか特に彼自身への変化は気にせず、同じように淡々と答えた。
「借りができた。返すためにもお前について行かないと…で、どこへ向かおうってんだ。」
そういうとワタルは、手でその先を示した。そこには呆然と立ち尽くす少女が唯一光刺す場所にいた。
御堂はすかさず、その少女の元へ向かい必死な表情で彼女に語り掛けた。
「美月! 大丈夫か? 俺がわかるか!? お兄ちゃんだぞ!」
彼女は呆然と立ち尽くし、首を傾げた後、御堂に話し始めた。
「お、ニイちゃん? うん、おにいちゃん!」
「違う…。美月なら素直に“おにいちゃん”なんて言わない…。お前はミアだな。」
「ふーん、そっか。ミズキはそうなんだね。そう、私はミア。」
ワタルが割って入って話し始めた。
「時の巫女か…。指輪の伝承は本当にあるんだな? お前はすべてを思い出したのか?」
「おい、ちょっと待て。こいつは天の魔女だってアエナが言っていたぞ?一体何がどうなってやがる?」
御堂が困惑している中、ミアがゆっくりと口を開き始めた。
「すべてを語ります…。指輪の伝承、私たちの神話を。」
……昔、大水晶“アイリスタル”を発見した男、ジー……ド・ゴ…ルドゥは大天災を防ぎ、宇宙全体のバランスを均衡にするためヨント…から取り出し、あらゆる銀河と天体が重なる天体列になった時、12の次元宇宙に投げ入れられました。……間、それぞれの宇宙には一つずつ文明の栄えた惑星が成り立ったのです。それが地球やミュートです。
メビウスリングは周期的に一つになり、銀河の破壊と再生を繰り返しているのです。が、記憶には残っていない。これは、時の巫女や天の魔女のような特異点が宇宙全体の記憶をつないでいるのです。そして特異点にはつがいが存在します。それがあなたと…渉なのです。
「俺が…その特異点とやらなのか...?」
「あ…た達が、…と…の儀式のカギ…で、」
突然ミアの姿が実像出なく、映像のように乱れ始め、スッと消えてしまった。
御堂は洞窟の地面にできた鍾乳洞に怒りを込めて蹴り上げると吐き捨てるように
「なんだよ! くそ、好き勝手なこと言って急に消えやがって。おまけにお前は魔王だと言い出すし、佐江内渉の方がまだマシだ。おい、どうやったらおまえの意思は引っ込む?」
渉でありながら声も表情もまるで違う彼に頭を抱える御堂だったがワタル(マ・ゾール)は静かな口調で話し始めた。
「我が目覚めたのは時の巫女とメビウスリングの共鳴現象が原因だろうな。それ相応の衝撃がない限り、難しいだろうな! 気長に過ごそうではないか友よ、ハハハハ!」
御堂は肩をポンポンと叩かれていながらも肩を震わせてうつむいていた。
「お前も、笑っているのか? そうだ、笑え、笑え! お前の嫌いな佐江内渉がいないのだ。大いに笑うがいい!」
御堂は急にワタルの方に向き直り盾を突き立てた。そして表情は笑っているようにも見えていたが血管が浮き出るほど怒りは頂点のようだった。
「お前の顔で言われるとむかつくんだよ! 馴れ馴れしいんだよ! こっちゃあイライラしてんだ。一発や二発ぶっ叩けば元に戻るし、ちょいとはスカッとするよなぁ!!」
盾を振り回すが、一向にワタルには当たらなかった。
「何をするんだ! こいつと、お前は、友達じゃ、ないのか?」
「はっきり言うぞ、魔王とやら、俺はこいつと友達なんかじゃねえ。鬱陶しく付きまとわれてるだけだ!」
御堂の蹴りはワタルの腹にダイレクトに当たった。その勢いで洞窟を抜けると御堂はワタルめがけて一気にジャンプし、盾を使って殴りつけた。御堂も勢いをつけすぎたのか唇を切ったが舌なめずりと腕でぬぐってさらに馬乗りになって殴り続けた。
「どうだ! ちょいとは正気に戻ったか!!」
「お”ま”え”が”しょ”う”き”じゃ”な”い”!!」
殴っていると彼の腕を一人の手が遮った。
「やめないか。彼は十分傷ついている!」
「あ!? 誰だ?」
「私はノア。 とにかく、ここは一旦落ち着きなさい。」
急に現れたノアという男が御堂をなだめたが御堂は一向に冷静を取り戻せなかった。落ち着かない彼を見かねてノアは注射針のようなものを取り出し、彼の頸動脈に寸分たがわずに刺した。
「少し、眠ってもらうよ。おこりんぼうさん。さてと、、」
ノアは意識を失っているワタルを仰向けに寝かせ、両手をかざした。
「うーん、盾の彼に随分と殴られているね。内出血や打撲まで…よくこれで死ななかったものだ。…??
なるほど、君はとても面白い。恩を売っておいて損はしないだろう。しかし、巫女の共鳴現象でウンディーネまで飛ばされてしまうなんてね。」
独り言をつぶやきながら手をかざし続けた。彼の手はぼんやりと光を放って、光の当たった部分はどんどんと治癒していき、意識を取り戻し始めた。
僕が起きるとそこには見知らぬ空と大地と、そして介抱してくれた人の存在がいた。
「誰か知りませんが、あ、ありがとうございます。お名前は?」
小声なりとも感謝の言葉を振り絞ると相手は朗らかに笑い
「いえ、とんでもない。私はノア。 あなたは?」
ノアはワタルに聞くと彼は
「佐江内渉です。ノアさん、ここは?」
「そうですか、ワタル。 水の惑星、ウンディーネへようこそ。」
ノアが朗らかながらもどこか不敵な笑みを浮かべると少し安心したのかワタルはまた眠りについたのだった。
水の惑星ウンディーネ。そこは以前のようなキレイな水は枯れ、棲むものも見当たらない荒れた惑星となり果てていたのだった。これもメビウスリングの影響だろうか。ワタルは大地の声を感じ取りながらただ回復を待っていた。
渉たちはノアに引き連れられてウンディーネを行脚していく。そして懐かしい彼との再会が待っていたのだった。




