第O16話:ギガノトの三すくみ ~意地と意思~
宇宙の旅は続く、これからも。
ワタルは何を思って戦うのか。
アエナは今頃、どうしているだろうか。
僕は今、彼女の役に立てているのだろうか。
いや、足を引っ張ってばかりだな。
「…!! おい! 誰が休憩していいって言った?」
「ファッ!? ふぁい!!」
御堂は呆れた表情でドゥージャの方を見て
「おい。いつまでやらせんだ、こんなこと。」
「妹を救いたきゃ、自分でその術を学ぶんだな。勇者くんも誰かの役に立ちたいっていうが、これまでの実績はどうした? お前の銃さばきは危なっかしくて見てられん。」
「前は剣だったから。剣もそうだったけど、銃の扱いなんて急にはできないよ。」
御堂は言葉もなく、ワタルに手に持っていた盾で殴りつけた。
「グチグチうるせえな! 勇者とか言われてたくせに力も出せねえ、おまけに意味もなく戦ってる。お前が戦う意味なんてあんのか?」
倒れたワタルに葉月は馬乗りになるようにまたがり、幾度も殴りつけた。唇が切れるも必死にワタルが叫び、
「僕は! ウガルさんのような犠牲を出さないために、できることをやってるだけだ! 君だってそうだろう!」
みぞおちに当たっている盾を振り払い、右手が持つ銃を彼の胸にあてつけ
「御堂くんが妹を助けたい気持ちはよくわかる。でも、喧嘩を売る相手は僕じゃないはずだ。」
ドゥージャは嫌味の含んだような拍手をして
「ま、合格かな。実戦としては使えるくらいにはなったろう。後はなんとかなるだろ。ほらよ。」
そういうと葉月には新たに盾を、僕には今までよりも小ぶりな銃と小刀が手渡された。
「ハズキ、お前はアイリシウムの盾だ。あれだ、アイリスタルの元素で、盾から出されるアイリシウム粒子構造を意思によって自在に変えることができ、お前次第では武器にも防御にも使えるようになる。」
「は?」
「強くなったってことだよ。脳筋くん。続いてはワタルだが、お前の使ってた銃はだいぶ古い型なんだ。込めるエネルギー弾の弾薬が大きくて重く重心がぶれやすいんだ。威力が高いから俺は使っていたが、お前には最新の弾丸も小さく軽いくらいがちょうどいいだろと思ってな。後、あの悪魔に来ちゃ困るから保険に剣を。 ま、こんくらいか。」
ガサガサと草を分け入る音がすると、三人の雰囲気はピリッと変わり、ドゥージャは拳をあげてワタルたちに停止の合図をした。物音を立てず、立ち止まっているとジェノスの旗印が見えた。
「おや、海賊のみなさんですか。バラッカス様は嘆かわしくもあなたたちを好敵手としてみているようですが、それよりも! 私はあの方と平和にあなた方を見下ろしたいのです。なので消えてください。」
「デスモフか、それはいやだね。みんな、お前と禿げ頭の享楽にはうんざりなんだよ。」
ドゥージャは銃口をデスモフに向け、連射するも当たらず、間合いは詰められる一方だった。デスモフが持っていた手のひらサイズの棒はみるみる大きくなり、三又に割れたトライデントとなってドゥージャを連続突きで翻弄した。ワタルとハズキはあまりの速さに呆然と立ち尽くしていたが、戦わなければなにも守れない。
ハズキは盾でトライデントを捌き切り、間合いに入り、顔にたたきつけた。だが、彼は微動だにしなかった。
「残念ながら、私はウンディーネの希少種族 ポリ・ピアンキ。鋼鉄の鎧のような胸部核と粘液体の身体に弱点はない。痛点も痛覚もない。これを有する種はもういない! 悲しいが、それでいい!! 悲哀こそ力なのです!。 さぁ、私の強さに嘆き、悲しみなさい!」
ワタルはハズキが間合いに入りすぎて射程を絞り切れずに走って近づくしかなかった。
ハズキの盾から短剣状に出た粒子がデスモフの首を切り裂いたが、首だったものは意思のあるような液体となり、デスモフの体に吸い寄せられて、また顔が再生された。
「無駄だとお伝えしたでしょう。馬鹿なのですか? というか、あなたはあの巫女にどことなく似ている気がするのですが…」
「当たり前だ。美月は妹で、唯一の家族だからな。」
「家族…。血のつながったものなのですね。ではあなたが戦う理由は家族を救う。そうですか?」
「そうだが、何が言いたいんだ?」
「私と共に来れば身の安全は保障する。それならば、君の戦う理由はない。いいお話でしょう?」
「話に乗っちゃだめだ。 そんなの嘘に決まってる!!」
ワタルの叫びは届かず御堂は口を開いた。
「そうだな。嫌いなやつらと一緒にいるのはもう飽きた。ところで、俺と妹の安全は保障するといったが、俺たちの帰る場所、地球はどうなる?」
「それは、もう諦めるべきでしょう。すべての銀河のバランスは乱れ、混沌と破壊の上に我々の居場所ができますから。古いものは捨てるんです。」
「そうか… だったら、お前らとは組めねえ。美月と帰りたいのは“あの”地球なんだ!! “あそこでの日常”なんだ! 俺はそれを取り戻すためにお前たちをぶっ潰す!! 」
「御堂くん、、離れて!!」
銃声が二発なる。二発とも胸部に当たるが、やはり強靭で割ることさえできない。
「何やってんだ!」
「あそこを強く守ってるってことは、あそこさえ壊せばデスモフは倒せる。それしか、方法は無い!」
乱戦のさなか、ふらふらと少女が現れる。 ヨントゥムの奴隷少女だ。デスモフは二人が少女に気を取られた隙に彼女の方へとヌメヌメとすり寄っていく。水の流れと勢いは人智を超えた速さであるが、彼の動きはまさにそれだった。二人は急ぐも間に合わない予感しかなかった。
「御堂くん、いざとなったら僕を殺していいから!」
ワタルがそう言い放つと魔法陣が現れ始めた。
ハズキはなぜ彼がそこまでするのかという疑問、美月に似た女性を助けれそうにない自身への怒りがぐちゃぐちゃになり言葉にもなっていない声を発したが、意図を察したのかワタルは加えて
「御堂くんのこと信じたから! 大丈夫!」
といい、尋常でな速さでデスモフを追跡した。
ゲイザーはワタルに力の一部を分け与えていた。それが服従を意味するのか、まだわからない。
(まァ、今は好きにオレの力を使わせてやるか。お前の身体はやはり住み心地がいい。それがなくなると困る。いずれのためにもな…)
「追い、ついた!!」
「策を弄さない者の考えなど、浅はかで嘆かわしい。」
追いついたと思った瞬間にデスモフはワタルの背後をついていた。背中を蹴られ、前のめりに倒れるとデスモフは踏みつけて前に進んだ。
「そんなにこの女が大事か? きっと天の魔女、、時の巫女の感脳波を受信できる媒体。こいつを殺せば希望は潰える。我々の勝ちだ!!」
トライデントの矛先は少女ではなく、彼女を庇ったワタルの右胸あたりを突き刺した。矛先をぐりぐりと傷口に押し付けて
「もろとも串刺しにもできるんですが、あなたが生きるのをやめて、手を放しさえしていただければ…」
「僕は生きるのをやめるわけにはいかない。そして、誰も見殺しにはもうしない!! みんな生きて、家に帰る。それが今の僕の戦う理由だ!!」
そのまま、小刀を胸部核のひび割れ部分に差し込んで刀の柄の先端を正確に蹴り飛ばして割れ目を大きくした。
「どんなに硬いものだって、いつかは壊れるんだ。あなたの鎧もこれまでの戦闘ダメージでだいぶ痛んでいた。気づいていなかったのか?」
「悟られぬよう、配慮していたようですが。侮った。今まで触れたことのない感情が襲う。これが、怒り…。」
小刀を引き抜き、冷静に銃で割れ目に3発閃光が走った。
人のような形をとどめていた液体は二度と再生することもなく、だらだらと流れ出ていた。
次回でギガノト編終了!! さて、これからどうなる?
次回「ギガノトの3すくみ ~強襲艦 ノヴァ現る~」
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