第01話:蛇足①
来た。冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。第三章が先行してやってきたゾ!
個性が強い奴はもうちょいかかりそうなのでこちらで我慢してください。
僕の平和はそう長くは続かなかった。
あれから、二か月。僕は自分を変えたくて空気をやめた。
あそこでの体験はなにか僕に勇気をくれた。だからこそ、学校生活を色のあるものにしたかった。
だが、そこにあったのは温かい物語ではなく、冷たいものだった。
挨拶さえ、気味悪がって返事をしてくれない。無視、そして、世界線が変わっても僕は暴漢に襲われる。
「なあ、空気、お前友達欲しいんだろ? じゃあ、俺らいい友達になれるぜ。昼飯買ってこいよ。もちろん、おごってくれるよな? 友達だもんな?」
彼らの笑顔は刃物と同じだ。僕の心をグサグサとしかも土足で踏み入れて刺して、そして何も言わずに去っていく。彼らはきっと沈黙のサイコパスだろう。だから、僕の地雷を平気で踏み込んでいく。でもここで折れちゃダメなんだ。友達がいないからこんな奴からでも...
わかったよと教室を後にして廊下を寂しく歩き、購買へと向かって行った。
ふと、窓の外を見た。 そこには自分のいた頃とは違う違和感があった。
いつからだろうか、どこからともなく壁の様なものが出来たのは。そして、壁の向こうには日本とは思えないうっそうとした密林地帯。そこには地球では発見できないような植物や生物がゴロゴロいるというニュースをやっていた。人々はそこを“樹海島”と名付けたらしい。僕の知らない間に世界は少しばかり変化したことを感じ、購買でパンを買って行く。今月もピンチだな。
僕が戻ると決まってパンをすべて持っていかれる。もちろん、僕の分も。僕はなにもありつけず机に戻り、後悔する。嘘寝する向こうではしゃぎ声が聞こえてくる。
「はははっ! あいつホント、カモだよな。そう思うだろ? ハヅキ。」
「あいつに関わるのやめようぜ。 陰気な感じが感染りそうだし。」
「いや、だって急に友達を作りたいとか言って陰キャのくせに片っ端から話しかけて、でも結局みんなあいつのこと空気だと思って無視! うける。」
「やめとけよ、あいつあれでも俺らのこと聞いてるかもだぜ。それに、うざい。」
御堂葉月、僕をからかってくるグループの一人。いつも彼の視線からやさしい言葉からはかけ離れた嫌悪感を感じる。嫌いなら、庇わなければいいのに…。
最悪だ。やっぱり、ここには居場所なんてない。こんなことならアエナの世界に残るべきだったか?あの時の選択をやり直したい。いっそ、自殺すれば、、
なんてことを考えていると学校の構内放送が流れてきたと共に携帯の緊急アラームが全員分けたたましく鳴っていた。
僕たちの担任が、急いで教室に戻ってきて仰々しくテレビを持ってきた。
「こんな事言う日が来るとは思わなかったがどうやら、樹海島から宇宙人が侵略しに来たらしい。とりあえず、その宇宙人が宣戦布告をしてるようなので緊急ではあるがテレビを付ける。」
えっっ?? 待って、そんなことある?もしかして全滅転生系来た!? いやいやタイミングよすぎるでしょ。 担任が持ってきたテレビが付くと澁谷のスクランブル交差点が業火と人身トラブルでめちゃくちゃになっているようだった。その真ん中には僕達が想像するようなUFOではなく、こちらでいう巨大戦艦が停泊していた。
そこから現れたのは巨人で、4mほどはありそうな大きな種族、肌は青く、着ているものもまるで違う。
その大男は戦艦からふわふわと浮かんで動く椅子に座っていて、ボタン一つで世界中の電波をジャックしていたようだった。
『人間という種族の諸君、我は遠い銀河系の彼方“ジェノス”の帝王「バラッカス」である。そして目的はただ一つ。宇宙を統合し、我が手中に収めること。まず手始めとしてα系列銀河の太陽系の有人星、地球にある【リング】はすでにもらい受け、他の惑星との統合が始まっている。崩壊を見届けるか、服従するか、選ぶのは君たちだ。通信以上。』
宇宙人の一方的な通信はプツリと消えた。クラスの人たちは呆然とし、狂喜乱舞でざわついた。担任は落ち着くよう促したが誰も聞く耳を持たない。その中の一人が急に飛び出した。
「おい、御堂くん! どこ行くんだね?」
「・・・先公は黙ってろ。 今、テレビに美月が映ってた気がすんだ。俺は渋谷に行く。」
野獣のような鋭い眼差しは突風のように過ぎ去っていった。意味が分からないし、考えずに行動するなんて馬鹿だ。しかも、誰も止めに行こうとしない。
いやだ、僕はもう巻き込まれたくない。
「と、とにかく、みんなは講堂に移り、避難指示を校長から聞いてください。先生は御堂くんを追いかけます。」
僕はみんなと一緒に講堂へと迅速に向かった。みんな緊急事態なのに緊張感がない。嘘のような話が外で起きているのだから無理もないだろう。僕はここでは非力な人間の一人だ。何ができるわけもない。さっき飛び出して行った御堂とやらも懲りて先生と一緒に帰ってくるだろう。
だが、一向に帰ってくる気配がない。
クラスの中では「御堂、ホントに渋谷に向かったのかよ・・・。」、「ハヅキ、大丈夫かな。」という声があるが誰も確かめにはいかない。僕はいたたまれなくなって得意の空気を活かして講堂から出た。
こんなことしても何の意味は無い。と思いつつ無人の学校内を探す。するとどこかから
<タスケテ>
<タスケテ>
という声がする。誰だ。もしかして御堂か? いってみるしかない。
僕も救いようのない馬鹿なのかもしれない。でも、悲痛な叫びは僕の中のなにかを突き動かした。
声を頼りに、僕は上へ上へと登っていき、屋上へとたどり着いた。
そこには御堂の姿はなく、見知った女性が立っていた。
凛とした姿勢、なびく金髪、洗練された顔つき、、そのすべてを僕は覚えている。彼女もまた僕を知っている。
「見ないうちに随分やつれたわね。 ワタル。 」
アエナ・マクスウェル、彼女がまた僕の前に現れた瞬間だった。
次回「蛇足②」
不定期なので次回投稿はいつになるかわかりません。




