Turn My Road Ⅰ
カイ・ドレクス。彼もまた、英雄と語られていた男であった。
だが、いつの間にか彼は物語の脇へと追いやられる。
俺の旅の始まりを全て思い出した。
何度も何度も繰り返されている日常から抜け出せたのも、ワタルっていうおかしな奴がこの世界を救ってくれたからだろう。
聖戦時代のころの記憶はとぎれとぎれだけど覚えてる。
アエーナ、あいつはいつも弱虫だった。
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陛下から俺に勅命が下った。
「カイ・ドレクスよ、お前はルナの英雄として、いずれこの国にやってくる勇者と共にケモイを討ちたおし、 侵略を開始せよ。」
勇者の誕生により我々ルナ王国とケモイ王国の戦争は聖戦と銘打たれた。
そして彼女はやってきた。成人を迎えるのは16歳というが、まだガキじゃないか。といっても、彼女はとても子供とは思えない落ち着きっぷりで陛下の前で淡々と話している。さすがは勇者だ。...と思ったのも束の間だった。勇者が伝宝である龍神の剣、俺が賢者の聖剣をそれぞれ腰に携え旅立つという時に彼女は武者震いをしていた。
「私、本当に魔王を倒す勇者なの? こんなの無理よ。」
「村の恨みを忘れたのか。ケモイの奴らに村を襲われたんだろ?」
彼女はうつむきながら首を縦に小さく振る。先程の威厳ある雰囲気とは違う、普通の女の子だった。かわいらしいとも思ったが、勇者たるもの毅然とした態度でいなければならない。
「いいかい、お嬢ちゃん。お前は龍神に選ばれし勇者なんだ。四の五の言ってないで俺達を先導してケモイの奴らを倒しに行くぞ。あいつらは悪魔の子だ。」
ケモイの国に着くと彼らもまた大軍を引き連れて悪魔を見るような顔でこちらに牙をむけている。
ただ事ではない。俺達もかよわい少女に先導されていった。
軍勢対軍勢は熾烈を極めていった。
争い
いがみ合い
占領し
蹂躙する。
聖戦は泥沼へともつれ込む。
汗臭く
泥くさく
大した大義名分もなく
ヒトとケモノが争い合う。
お互いに消耗が激しく一時、戦いは止んだ。
少女は俺に質問をした。
「この戦いに何が得られるの?」
俺は静かに答えた。
「領土、そして地位だろうな。」
「そんなものなのね・・・。ねえ、この戦い、変だと思わないの? 相手はこっちをもとから憎んでるようだし、こっちも根絶しろだの、領土を奪えだの、、私、この戦いはどちらかからって事じゃなくてどこかの誰かが仕組んだものじゃないのかって。よく見てよ、戦ってるのはケモイの人たちじゃない、魔物なんだよ。」
「意味がわからん。 魔物はあいつらの魔力で動いてる。それに仕組んできたのはケモイの方だろ! 」
「本当にそうなの?」
彼女の眼差しが俺の言葉の芯を揺るがせた。この女はガキだが、なにかとんでもない大物かもしれん。俺は上の命令に従っておけばいいという考えのもとで動いてる駒にすぎないが、こいつはどうやら考える駒らしい。
ふと後ろを振り返る。自軍の騎士たちが見える。いや、よく見るとこっちの軍勢にも魔物がいるじゃないか。彼女はこの事を言っていたのか・・・。こいつの弱くも意志のある言葉に賭けてやるか。
「おい、お嬢ちゃん。どうすればこの戦いを終わらせられるんだ。」
「分からない。ただ一つ、言えるとしたら元をたどり、根絶すること。黒幕は絶対にいるはずよ。ケモイの国に行けば真相が分かるはずよ。」
そういう彼女の言葉にはやはりすごみがある。そこが勇者たる所以かもしれない。
俺は彼女の言葉を信じ、二人でケモイへと潜入した。
さえゆうのカイ視点のオリジナル戦記編です。
これで大体の物語の真実が分かるように補足します。
後付けではないです。どちらかというと後出しです。




