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謎短編の本棚

聖夜の奇跡

作者: 桜木はる

 その町は冷えていた。もう真冬である。

 その寒い中で、赤いずきんをかぶった少女が、マッチ箱が少し入ったカゴを腕にかけて、通り交う人々にマッチ箱を売ろうとしていた。


「あぁ、また今日も売れない。今日で三日目。ご飯も全然食べてない……あぁ、お母さんがいたら……もし家族がいたら……私は……」


 少女は、雪が少し積もった地面に座り込み、涙を流した。



 ▼ △ ▼



 少女は何週間か前に、母親を亡くした。父親が作った借金のせいで、生活が苦しくなり、また母親は仕事仕事の毎日で、病に倒れ、病を治すお金も無く、死んでしまった。

 母親が死の間際に少女に残した言葉は、


『皆に、幸せを届けるような子に……』


 ……少女は父親を恨んだ。だが、父親は既に逃げて、家は借金取りに壊され、跡形もなくなった。

 未だ、少女は借金取りから逃げている。逃げながら、自分の持っていたマッチで、何とか命を繋いできたのだ。だが、もうマッチは売れなくなってきた。

 違う町、違う町に行くと、通り掛かった優しい人がマッチ箱を少し高値で買い取ってくれたのであるが、そのお金は、節約をしてもすぐに消えてしまう。

 以前は物価が安かった。だが、他国と戦争をし、負け、支配地となり、増税され、また物価も高騰した。

 今の彼女には、灯の代わりになっていた、もう数少ないマッチ箱と、ボロボロになった服しか残っていない。

 ――少女はまた、『男』を恨んだ。



 ▲ ▽ ▲



 その時、少女は誰かにぶつかられ、倒れこんだ。

 少女はぶつかった人を睨んだ。


 ――男だ。


 少女はそう思い、また強く睨んだ。

 男は舌打ちをして、少女に平手打ちをくらわした。

 少女の体力はもうほとんど無く、地べたに頰を付けるように倒れてしまった。

そして男は立ち去った。

 また、少女は涙を流した。その涙も、もう枯れかけている。

 倒れている少女に目を向ける人はいない。皆、自分の生活に必死で、誰かを助ける余裕はない。

 それが子どもであろうと、赤ん坊であろうと、子犬であろうと、誰も助けはしない。

 少女は残る力を近い、座り込んだまま、マッチ箱に手を伸ばした。

 箱からマッチ棒を取り出し、寒さを少しでも凌ごうとして、火をつけようと何度も何度も箱の側面で擦った。

 だが、マッチ棒はもう、殆ど湿気っていて、火が付かない。


「もう……これも売れないわ……」


 少女はマッチ箱からマッチ棒を手当たり次第取り出し、何度も何度も擦った。


 ――お腹が空いた。


 何本か擦った後、一本だけ火がついた。


「あぁ、細くて小さな火の中に、昔、クリスマスの時にだけ食べたステーキが見えるわ。それに、しゅわしゅわの美味しい飲み物に、温かい濃厚なスープまで……」


 すぐに火は消えた。

 少女はまた、火がつけられるマッチ棒を探そうとして、何本も何本も擦った。

 しかし、殆どのマッチ棒が、擦っても火はつかなかった。


「後一本……」


 ――最期の灯火が消えた時、また、その命も消えてしまうだろう。

 それはただの寂しさではなく、純粋で素直な淋しさだ。


 最後の一本は火がついた。


「あぁ、火の中に、お母さんが見えるわ。お母さん、笑ってる。会えて、本当に嬉しい。きっと、楽になれたんだね……」


 最後の灯火は消えてしまった。

 その火が消えてしまった瞬間、少女は地面に完全に倒れこんでしまった。

 最後に薄めを開けると、目の前からおかしな格好をした人が、何かを引いてやってくるのがぼんやりと見えた。


「(あ、あれ……? 変な人がいる……)」


 少女はそう思い、最後の力を振り絞り……と、思いきや、割と簡単に立ち上がれた。

 体が凄く軽く感じた。


「ん……お前は……」


 その、変な格好をした人が話しかけてきた。少しだけ声が低いが、女性みたいらしい。


「あの……何されてるんですか? そんな格好で、ソリなんて引いて」


 少女は目を丸くしながらその女性に訊いた。


「お前、私たちが見え――いや、今日ってクリスマスだろう? だから、サンタおじさんと一緒に子どもたちにプレゼントを届けにきたんだよ」

「クリスマス……あ、まさかあなたはトナカイさんですか?」


 少女がそう言うと、女性は軽く頷いた。

 ソリの方から老人のような声が聞こえた。


「はいはーい、ワシワシ、ワシがサンタおじさんだぞーい」


 ソリの上に乗りながら、少女に笑顔で手を振っている。


「……あとこの街には三人の子どもに用があるんだ。もしよかったら、ついて来るか?」


 少女は目をこすり、その女性の顔をよく見た。

 よく見ると、トナカイの着ぐるみを着ているみたいで、フードの頭からは角が生えている。また、その女性は目が少し鋭かったものの、美麗であった。


「はい!」


 少女は何か嬉しそうにして、大きく頷いた。

 女性は、少女に自分の側に来いと言い、少女の手を握った。


「(冷たい……やはり……なら……を見せ……わけ……ないな……)」


 女性が小声で何かを言った。


「あの、何か仰いましたか?」


 少女は歩きながら、女性に訊いた。


「いや……何でもない。気にしないでくれ」


 少女首を傾げている。


「そういえば、私、起き上がることさえ辛かったのに、今は何ともないのですが、何でか分かりませんか?」

「……何でだろうな。私には分かりかねるよ」


 女性は前を向いたまま、片手でソリの紐を引いて、ソリを引っ張っている。


「凄い力ですね……」


 少女は女性の目を見ながら言った。その質問に答えるように、女性は少女の目を見返した。


「これくらい軽く片手で引っ張れないと、飛んで戻れないからな……普通だよ」


 女性は少し得意げに笑った。その笑顔は、少女には何かぎこちないように見えた。


「次はここかな……ん――っ? このメモ書きは……!」


 女性は真っ白な紙に書いてある文字をマジマジと見つめている。


「あの……どうかなされたのですか?」

「い、いや、何でもないんだ。ただあと、何処に、誰に届ければいいか確認をしているだけだから……」


 女性は何かを隠すようにして、メモを着ぐるみのポケットにしまい込んだ。

 少女はまた首を傾げて、女性を見つめた。

 そして、二人は歩いているうちに、ある家の前に着いた。

 その家はレンガ造りの建物であった。

 だが、灯は付いていない。もう遅い時間であったからだろう。

 他の家も殆ど灯は付いていない。


「サンタおじさん、ここだよ。あと少しだから、頑張ってくれ」


 ソリに乗っていた、白い髭を生やし、白いふわふわがついた赤い服、赤い帽子をかぶったおじいさんが、「はいはい」と、大儀そうにソリから立ち上がり、凄いジャンプ力で家の屋上に上がった。


「あの、トナカイさん……? 何でサンタさんは屋上から入ろうとするんですか?」

「あぁ、私のことは……【プランサー】と呼んでくれて構わない。呼び方はお前の好きにしてくれ。それで、質問の答えなんだが……」


 プランサーは屋上に上がったサンタのいる方向を見ながら話をし始めた。


「今はもう何代目か分からないが……そもそも、サンタの起源はな、キリスト教の聖人、ニコラウスの伝説が起源と言われているんだ。例えばニコラウスは、罪無き死刑囚たちを助けたり、貧しく、自分の子どもを手放さなければならなかった家族に、真夜中に金貨をあげて助けたりという伝説が残っている。要はプレゼントだな。ちなみに、靴下にプレゼントが入れられる理由は、金貨を窓から投げ入れた時に、偶然靴下の中にスポっと入ったからと言われているんだ。そんで、ニコラウスが死んだ後、シンタクラースというものが、誰かの口によってサンタクロースになり、子ども達の希望、すなわち夢に現れ、具現化したとされるものが、サンタクロース。そのサンタクロースが、屋上にある煙突から入るのは、ニクラウスの訪いから来てると言われている。だけど、今は煙突がある家自体少ないだろう? それに、それじゃあサンタクロースはいちいち煤まみれの暖炉に行かなければいけないから、正直洗濯するのが厄介だ。だから、今はあんな風に、窓から入ってこそこそプレゼントをあげるのが主流になっている」


(※諸説あります)


 プランサーがそう言うと、サンタは白い袋を持ったまま、窓を開けて部屋の中に入っていき、すぐに戻ってきた。

 そして、窓から飛び降り、ソリの上にドスンと乗った。

 プランサーはソリを引き、歩きながらまた話を始めた。


「サンタクロースは、今は天の使いとして子ども達の希望を叶えるために、世界中を回っている。が、それはさすがにキツイから、国ごとに分けられている。今年は、この国で本家であるこのサンタおじさんが勤めを果たしている。ちなみに他の国は、子サンタと呼ばれているサンタ子分達がそれぞれプレゼントを配っているんだ」


(※諸説ありすぎ)


 次の場所に着いたのか、ソリを止めてサンタクロースにアイコンタクトを送る。

 また、話を再開した。


「ちなみにトナカイは、ある話で八頭いると言われているが、実際は何十頭もいるぞ。私もその一頭だ。……まぁ、私は何故か人の形に似過ぎてしまって頭と言っていいのか分からないのだがな。それはそうと……」


(※諸説あります)


 すると、プランサーは少し頬を膨らませて、目を更に細めて、街を歩くカップルを見た。


「クリスマス。今はなんか完全にカップルがイチャイチャする日みたいになってるけど、クリスマスはキリストの降誕祭であって、男女同士がくっつく日じゃないんだ。なのに今はもうイチャイチャイチャイチャ……もー目障りだ! 私以外のトナカイも全員メスなんだが、みんなイケメンとイチャイチャイチャイチャ……もう嫌になってくる。だからこうして、サンタおじさんの手伝いを私一人で引き受けたんだ。クリスマスの本当の意味を履き違える奴らとは一緒にいたくないんでね。クリぼっちとかもうどーでもいいんだよ。別に悲しくなんてないし。一人でクリスマス過ごしたって寂しくないし……別に……」


(※個人的な意見です)


 少女は思わず苦笑いをした。

 プランサーは、そんな少女の顔を見て、顔を真っ赤に赤面させ、そっぽを向いた。


「い、いや、何でもないんだ。今のはなかったことに――いや、記憶から消してくれ。頼む」


 プランサーは少女の手を強く握った。

 少女も何かを察したのか、うんうんと頷いて、にこやかに笑った。

 そして、最後のクリスマスプレゼントを届けるために、ソリを引いて、街を出た。

 少女は不思議に思った。


「プランサー……さん? 何故この街を離れたのですか? 最後のプレゼントは違う街なのですか?」


 少女はプランサーの着ぐるみを強く揺すった。プランサーはそっぽを向いたまま、少女に答えた。


「いや……もうどこの街にも寄らない。あと一つのプレゼントを届けるために、ある場所に行く」


 少女はまた首を傾げた。

 一体どこに行くというのだろう。どこに連れて行かれるのだろう。そんなことを思っていた。

道のりは長かった。途中にあった街は全て通り過ぎて、とある街のはずれにある、小さな廃屋に着いた。

 少女は、そこにきて驚いた。

 そこは、少女の母親の最期の家……つまり、『実家』であった。


「あの、ここって……」

「そうだ。お前の元の家だよ」

「何で私の家を知って……」

「このくらい調べられないと、サンタを運ぶトナカイとしてやっていけないだろう。それに最後のプレゼントは、お前当てになんだ」


 少女はまた驚いたのか、プランサーの方を見て目をパチクリさせている。

 まるで、私は頼み事なんてしていないのに、とでも言いたげな顔である。


「そのプレゼントって……何ですか?」


 プランサーはしゃがんで、少女の目線と同じようにした。

 そして、少女の頭を撫でた。


「お前の母親に合わせて、一緒に過ごせるようにすることだ」


 少女は一瞬時が止まったかのように静止して、その後、涙をポロポロと流し始めた。プランサーは、よほど嬉しかったのだろうと思い、また強く頭を撫でて、また、泣いた。


「お前の名前を教えてみろ。そしたらすぐに、お前の母親の所に連れてってやるから」

「私の名前は……」


 少女は涙を何とか抑え、答えた。


「私の名前は、【シラスィ】です!」


 プランサーは少女を強く抱きしめた。


「あぁ、そうか。やっぱりシラスィであってたんだな……じゃあな、また、会えたらいいな……」


 少女は小さな光とともに少しずつ消えていった。

 涙は星の雫となり、体は温かく細やかな結晶に変わる。これは魂の定め、誰も止めることはできないのである。


『ありがとう、トナカイさん――またね』


 プランサーには、最後に少女がそんな風に言ったように聞こえた。

 そして、泣いているプランサーを励ますかのように、サンタクロースが話をかけてきた。


「本当に、これでよかったのか? 今年はお前の願いを叶えることのできる日じゃったろう? お前の願いは……」

「いいんだ、サンタおじさん。私の願いなんて、あの子の願いには匹敵しない」


 プランサーはサンタクロースの言いかけたことをすぐに否定した。


「およそ二十年前に、橋の下で、寒い中毛布一枚を着て、段ボールの中で泣いているまだ幼い人の子のお前を拾った時はどうしようかと思ったが、今はこうしてトナカイの役目を果たしてくれてるからの」


 何か得意げに自分の白髭をゆさゆさと触りながら言った。

 プランサーは、サンタクロースが言った言葉に驚いた。


「……えっ、そうだったの?」

「あれ、言ってなかったっけ。お前はトナカイじゃなくて人じゃぞ。それでワシが魔法を掛けて、トナカイとしての力を与えたんじゃ。もう死んでいたしな。それで、ワシが今まで育てていたわけじゃ」

「私、人間だったんだ……」

「ワシはクリスマス以外は仕事で忙しかったからの。お前を一人にさせることが多かったのは本当に悪かった。でも、お前がまさかあの時、『妹が欲しい』なんて言うとは思わんかったからな……それにその願いは、今も思っているのじゃろう?」


 プランサーは、サンタクロースを一度見て、一筋の涙を流した。

 プランサーは、小さな頃から一人だった。サンタクロースはクリスマス以外は仕事に行く。下の街の喫茶店の清掃員のアルバイトをやったり、特徴のある白髭から、各国でサンタの格好をしてプレゼントを子どもたちにあげたりと、様々なことをしていた。そのせいで毎日の帰りは遅く、プランサーは一人ぼっち。

 その間、プランサーは家で一人、お笑い番組を見たり、プリキュアを見たり、また年末は一人で特番を見ていた。話し相手もいなく、一人で暗い部屋の中で笑っているだけ。

 いつしか、プランサーは、妹が欲しいと思うようになった。

 他のトナカイには、兄妹がいる。

 皆、仲良くしている。

 年に一度の行事を、皆で楽しんでいる。

 ――いつしか、誰とも一緒に過ごさない彼女は、笑うことを忘れた。

 複雑な感情だけが、彼女を襲ってくる。

 だから今年は一人でソリを引いた。

 他のトナカイは、あまり良くは思わなかったし、心配していたが、一人で引いてきた。

 ……押し殺したかった。


「私の願いなんて必要ない。私は皆に願いを届ける役目しか持たない。これでいい。これが一番だ。それに――」


 プランサーは先ほどしまった白いメモ書きをポケットから取り出して、読み上げた。


「『また、お母さんに会いたい――シラスィ』……こんな事かかれたら、どうしようもないだろう。サンタおじさん」

「ふむ……」


 サンタクロースは、その紙をプランサーから受け取り、目を凝らしてよく見た。


「そういうもんかの……」


 サンタクロースはため息をつき、その紙をプランサーに渡した。


「帰ろう。サンタおじさん。プレゼントはもう、残っていないだろう?」

「残ってはおらんが……まだ、クリスマスは終わっとらんぞ」

「……分かってるよ。そんなこと」


 その後、サンタクロースはソリに乗り、プランサーはソリを引っ張った。魔法で天に続く道を作り、その道を歩いた。


「あの子……シラスィは……会えたかな」


 空を見上げながら、プランサーは誰かに訊いた。


「心配することはない」


 サンタクロースがそう答えると、プランサーは俯いて泣き出した。


「サンタおじさん……私は……」


 サンタクロースは「わかっとる」と言わんばかりに、何回も、何回も、ゆっくり頷いた。

 クリスマスは十二月二十四日日没から、二十五日の日没までの一日……そして今日は二十四日の深夜――まだ、クリスマスは終わっていない。

 プランサーには、そんなことは分かりきっていた。クリスマスである、二十五日の深夜にはプレゼントが貰えない、つまり、願いが叶わないことは、十分承知だった。

 一人で住んでいる家に帰った後、プランサーはすぐに風呂に入り、寝る準備をした。

 その間、プランサーは複雑な気持ちを無理やり押し殺して、自分の感情を消した。

 そして、眠りに入った。


 ――夢は夢のままであればいい。叶える必要なんてない。

 ――願いは想いとして叶えるべきだ。誰かが口出しすることは許されない。

 私は、夢を見ていたんだ、叶えるなんて、無駄な行為であり、愚行だ。


 ……そう思って、眠った。

 次の日、パジャマのまま、寝癖が立ったまま玄関の扉を開け、少し大きな郵便ポストを開けると、赤い包装紙に包まれた箱が手の平サイズの小さな箱が置いてあった。


「何だ……これは……」


 裏を見ると、黒いペンで何か文字か書かれていた。


『ほっほーい。ワシじゃよ。サンタじゃよ。お前にプレゼントを渡し損ねたからの』


「一体何を言ってるんだ……サンタおじさんは……てか、寒っ」


 身を震わせながら、包装紙を綺麗に取り、箱を開けると、中にはメモ書きが入っていた。


「これは……あの子のプレゼントのメモ書きじゃないか。何でこんなものを……?」


 メモ書きの裏に、小さな薄い文字で何かが書かれていた。


『娘に、一緒に笑うことができる家族を……これは、私の願いであり、娘の願いでもあります。我儘かもしれませんが、どうか……』


「これは……一体……」


 すると、家の前の道の、奥の方から誰かが走ってくるのが見えた。


「トナカイさーん! プランサーさーん!」


 霧の多い朝だから顔はよく見えなかったが、声だけは静かな空間だったため、響いた。

 プランサーは目をこすって、霧の多い中何とか目を凝らして見た。

 そして、やっと目で見える位置にその走ってきた人がやってきた。


「お前は――! 何でここに……」


 走ってやってきたのは、あの少女だった。

 母親の元に届けたはずの少女が、プランサーの住む家に来たのだ。


「はぁ、はぁ……やっと辿り着けました! 本当に大変でした……」

「お前、母親の所に行ったはずだろう。何でここに来たんだ」


 少女は呼吸を何回も何回も繰り返し、深呼吸して自分の呼吸を何とか落ち着かせた。

 また、プランサーは目を大きく開けて、口をぽかっと開けている。


「私、プランサーさんと一緒にいたくて……それに、お母さんに会えたのですが、お母さんが、行きなさいって……」


 プランサーはそのまま固まってしまった。

 この少女が何を言っているのかサッパリ分からなかった。


「い、一体何を言ってるのか、私にはサッパリ……」

「お母さんに、最後に言われたんです。『皆に幸せを届けられるような子に』って。だから私、街にいた時、サンタさんのお手伝いをして、幸せを届けられるようになりたいって思ったのです。それで、サンタさんのところに行ったら、プランサーさんのことを紹介されて、道を教えてもらって、すぐに来たんです。それに私……」


 すると、少女はプランサーに抱きついて、笑顔で涙を流した。


「家族が欲しかったのです。お母さんはもうすぐ側にいます。だから、私は、頼りになるようなお姉ちゃんが欲しくて……お父さんやお兄ちゃんや弟なんていりません。私はお姉ちゃんが欲しかったんです」


 そう言って、また一層強く抱きついて来た。いつの間にか、プランサーは少女を優しく包み込んでいた。

 そのうち、目から涙が溢れ出て来てしまった。

 自分の涙をパジャマの袖で拭き取り、少女を両手で自分の体から離した。


「……お前は母親と一緒に過ごすことが願いではなかったのか?」


 少女は首を横に振って、プランサーの手を両手で掴んだ。


「私はお母さんと一緒に過ごしたいなんて言ってません。お母さんにまた会いたいと願っただけです。それに私は、家族がいたら……と、願ってました」

「……お前……」

「私のお姉ちゃんになってください。私はもっとプランサーさんのことが知りたいです。だから、ここに一緒に住ませてください。手伝えることならなんでもやります」


 プランサーは少女の前で、一雫、また一雫、涙を零した。

 少女は天使のような微笑みで、プランサーの目をずっと見続けている。

 プランサーは、少女を強く抱きしめた。

 そして、何年も顔に咲かなかった一輪の向日葵が、大きく開いて、笑顔を作った。

 向日葵はずっと、太陽の方向を見続けている。自分に光をくれた、新たな太陽に……

 そして、プランサーは少女を抱いたまま小声でこう言った。


『ありがとう。サンタおじさん。ありがとう。シラスィのお母さん。ありがとう。シラスィ。ありがとう――私は、本当の笑顔を作れたよ。これからは、どんな時も協力しあって行くから……きっと来年のクリスマスには、皆で幸せを届けに行くから――』


 それは、プランサーにとって、聖夜が起こしてくれた奇跡であった。

(※若干本文の内容が入りますので、気になる方は後から見ていただけるといいと思います)












 では……ここで私なりのお話をしようと思います。

 皆が世間一般で言うサンタクロース、まぁ起源はキリスト教の聖ニコラオスの伝説からというのは本文の通り、事実らしいのですが……あ、金貨を窓から投げ入れたり、罪が無い死刑囚を助けたりしたのは本当みたいです。

 クリスマス自体は各国で違いがあるみたいで、イギリスやオーストラリアなどではクリスマスのことを『ファザークリスマス』と呼んでいるらしいです。それに、サンタクロースも違う色の服を着ているらしいですよ。なんと緑色! 今は赤が多くなっているみたいですが、緑色のサンタも見てみたいですね……七人の小人の緑のやつみたいになるのでしょうか……

 それに、オーストラリアでは、南半球なので、クリスマスが夏の時期に重なってしまい、サンタがサーフィンをしながらやってくると言われているそうです。ユニークで面白い考えですよね。想像もつきません。

 ちなみに、世間一般ではクリスマスが二十四日から二十五日までと言われていますが、キリスト教会の正式なものは、『二十四日の日没から、二十五日の日没まで』です。

 二十四日の日没から深夜まではクリスマス・イヴと言われ、その時にプレゼントをあげるみたいですね。でも、本文にも書いてある通り、二十五日にはプレゼントはもらえませんよ。

 私は昔はクリスマス・イヴとクリスマスの違いがよく分からなかったのですが、今になってやっと理解できました。

 だからですね……お兄ちゃんが昔私に、デュエルマスターズのデッキを二十五日の深夜に、私の部屋にこっそり入って、置いて行ったんです。本当は一緒にやりたかったのだと思うのですが、結局やりませんでした。まぁ仕方ないですよ。あの時私はポケモンの方が大好きだったので。

 と、余談はここまでにして、サンタクロースと、このお話についての話をしようと思います。

 サンタクロースは最初に言った通り、ニコラオスの伝説からなっています。そして、各国に様々なサンタクロースがいるのも、また事実です。

そこで、あまり人々には知られていない話……サンタクロースが乗った橇を引く、『トナカイ』についてのお話をしたいと思います。

 ある詩で、橇を引くトナカイは八頭いると言われています。

 名前はそれぞれ、【ダッシャー】、【ダンサー】、【ヴィクセン】、【ダンナー】、【プリッツェン】、【キューピッド】、【コメット】、そして最後に【プランサー】という風になっています。

 日本の歌には『赤鼻のトナカイ』という歌がありますね。その冒頭に出てくる八匹です。

 今作はプランサーのお名前をお借りしました。何か可愛かったので。

 ちなみに、トナカイはもう一匹いて、先ほど言った歌の、冒頭を歌ったあとに出てくるトナカイです。

 名前は【ルドルフ】。何だかかっこいい名前ですね。

 プランサーについての話はあまり知らないのですが、語源は【prance】から来ているのかも? 確か意味は、跳ねるとか何とかだったかな……よく覚えてないです。

 では、長らくお話をしてしまいましたが、この話――聖夜の奇跡――についての話をしたいと思います。

 タイトルはどっかで見たことがあるような……と思いましたが、そのまま使いました。覚えてないからセフセフです。

 この話に出てくるマッチ売りの少女――シラスィ――は、何となく頭から出てきた名前です。

 最近うまるちゃん見ていたのでそれに影響されたのかもしれません。(シルフィン)

 この子は、昔は両親と普通に過ごしていたんです。ですが、父親が仕事のトラブルにより、仕事を辞め、酒にのめりこみました。――楽に溺れてしまったと言った方が正しいのかもしれません。そして

、女にハマり、借金を作ってまで貢ぐようになり、妻子の生活を苦しめた。そして、元の家を売り、ボロボロ廃屋寸前の家に引っ越したんです。それでも父親の貢ぎ癖は直らず、借金は増えてばかり……母親は一日中働くが、全く借金は返せない。それに、何日か食べられない日が続くこともあった。

 ですが、実際は、シラスィ母親は、自分の食糧の大半をシラスィのあげていたんです。

 そのうち、体力もなくなってきて、家で倒れてしまった。

 本文の過去回想はここからですね。本文の通り、お金が無いので病を治すことなんてできるはずがありません。だから死んでしまった――

 私はこれを書いてて、本当の話でもないのに凄く辛い気持ちになりました。何ででしょうかね……

 若干うちに似てるんですよね……今の状況……お母さんが一人で一所懸命に働いてるのに、お兄ちゃんはニートで引きこもり、楽に溺れている……

 っと、話の路線がズレてしまいました。

 話の続きですが、シラスィの母親が最期に言った、『皆に、幸せを届けるような子に……』というのは、父親という悪い例が出てしまい、その愚かな姿を自分の子どもに見せてしまったという後悔からの言葉です。

 娘には、そういう大人にはなってほしくない。人を傷つけたり、不幸せにする、または迷惑になるような大人に成長してほしくない……そんな、母親の『願い』だったんです。だから、自分のことをメモ書きで『我儘』と評したんですね。

 ……メモの話はもう少し後にします。

 それで、男を嫌ってしまったシラスィは、女性にしかマッチは売らなくなってしまったんです。騙されたり、襲われたり、傷つけられるとおもったのでしょうか……だから売れなくもなってきました。仕方がない事です。

 女性にしか売らないなんてバカだという人がいるかもしれませんが、実際、こんな目にあってみれば、嫌でも嫌いになります。だって、母親を父親――つまり男――に殺されたようなものなのですから。

 その後やってきた、トナカイ(人間)のプランサーは、シラスィが死んでいるのが分かって、シラスィ自分のところまで来させ、自分の死体を見せないようにしたんです。まったくいい子だなぁ、プランサーちゃんは! って書いてた時に思ってました。それから一気に好感度あげまくろうとしましたから、なかなかブレブレになりましたが、彼女だって人間の女子なんです。もう何でもありなんですよ。

 途中で出てきた、真っ白なメモ書きには、シラスィの願いが書いてありました。後から出てきたように『お母さんに会う事』が、彼女の願いです。

 詳しくはもう少し後に話をします。

 (あと、個人的な意見は気にしないでください)

 ちなみに、プランサーの願いは、『妹、または家族が欲しい』ことです。

 トナカイたちには願いを叶えることができる年が人生に一度だけあります。今年は、プランサーの番だったのです。ですがこの願い、実際は叶えてあげるのはサンタクロースなんです。トナカイ自身が叶えるわけではありません。

 それから、シラスィを天に送った後、サンタクロースはメモ書きを受け取って見ました。

 ここで、メモ書きの裏に書いてある文字が、サンタクロースには見えたわけです。それが、シラスィの願いでもあり、シラスィの母親の願いでした。

 メモ書きの内容は、願った瞬間に書かれるのです。だから、最初にシラスィが願った、お母さんがいたら――『お母さんに会いたい』。家族がいたら――『家族が欲しい』。という二重の願いになったわけです。

 最初から、シラスィは『お母さんと一緒に過ごしたい』なんて言ってません。プランサーちゃんの勝手な解釈です。それはサンタクロースは分かりきっていたのでしょう。

 それで、サンタクロースは後のことを全て考えました。もしかしたら、自分の所にシラスィがやってくるかもしれない……そう考え、事前にプレゼント箱を帰ってから作っておいたんです。

 その予想は大当たりして、超早朝にシラスィがサンタクロースのもとにやってきました。

 サンタクロースの家までの道は、お母さんに聞いたそうです。よほど、人を幸せにする仕事を手伝わせたかったのでしょう……それから、サンタクロースは、プランサーの住んでいる家を教えたわけです。プランサーの願いを叶えるため……です。

 それから、プランサーの家に行って、本文のような話があったんです。

 この時のプランサーの笑顔と涙の理由ですが……

 実の妹でなくても、そのような存在ができたから嬉しかった――その涙と、『一人でなくなった』ことへの喜びからです。

 私は最後どのようにして終わらせるか迷いましたが、結果、こうして終わりました。

 笑顔を向日葵で表したのは、シラスィのような暖かい存在に出会えたから……そういう解釈で捉えていただけるといいです。

 それでは、まだ何か聞きたい事があれば、ツイッターやらで聞いていただければと思います!

 では今更ながら……



 《――メリークリスマス! 最後の日没まで、良き過ごしを!》

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