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【15】焦燥

今回は紫里視点の一人称です。

これからしばしば、話数によって挿入されます。

 私は嘘をついた。

 相川哲に嘘をついて、カノジョ宣言をしてしまった。

 かけがえなのない親友の為に、一世一代の大芝居をした。

 彼は、いわゆるイケメンとかスポーツメンとかそんな男子とはかけ離れた存在で、これといった特長がない。

 でも傍にいると、とても落ち着く……。

 初めてでも昔から知っていたような快哉が沸き起こる。

 ――あたしがいきなり無邪気になれる相手は、今は彼だけかもしれない。

 もっと一緒にいたい。

 二人の時間を紡ぎたい……でもそれは、許されない事だと知っている。




「紫里、あたし好きな人できた」

 ある日兎瞳が唐突に、そして無邪気に言った。

 彼女の告白を聞いたのは去年の夏だった。

 目が二重で少し茶髪で中肉中背……彼女の説明で彼を見つけるのは至難の技だった。

 それでも密かに中学の知り合いを伝に、白鳳工業高校の情報を集めて回った。

 判明したのは相川哲。

 美術部なのに夏休みも午前中だけ部活をやっているらしく、平日の朝九時に何時も裏門に現れるというので、私は兎瞳の部屋の窓から一緒に観察した。

 確かに……これと言って特徴はない。

 何処にでもいる、高校生らしい高校生。

 ちょっと茶色の髪は洗いざらしで、遠慮気味に制服ズボンをズリ下げて、革靴のローファーの踵を潰している。

 私は彼がどの駅から電車に乗ってくるのか調べた。

 何の事はない、ひとつ隣の私が通っている高校の最寄駅だった。

 彼はそこから電車でひと駅のこの学校へ通っているらしい。

 定期が切れているのか、夏休中は自転車で来ていたけれど。


 兎瞳の精神が見るからに不安定になったのは一昨年の十二月だった。

 彼女の両親とも親しい私は、クリスマスのパーティーにお呼ばれした。

 その夜、兎瞳はサンタクロースについて、急に熱弁しだした。

 私はギャグだと思って笑った。

 今までも話しの辻褄が合わない事はよくあって、絡まる糸を優しく解くように上手く受け答えした。

 しかし彼女は急に怒り出して、サンタクロースについて尚も語り続ける。

 私が彼女の矛盾に冗談交じりで反論すると、兎瞳はついに泣き出してしまった。

 まるで幼い子供のように……。

 かみ合わない会話はもう慣れていたが、彼女が怒る事は今まで無かった。

 私は焦燥感と恐怖に駆られた。

 彼女の命はもう長くはないと、その時私は実感したのかもしれない。



 私が相川哲をターゲットとして、行動を探り出したのは年が明けて直ぐだった。

 幸い去年のうちに彼女と別れている事も調べがついた。

 誕生日、好きな食べ物、女性の好みや趣味や部活動。

 私は彼の全てを探り出した。

 実行に移そうと決めたのは三学期の期末試験が始める前だったけれど、何しろ私自身男子と付き合った経験が無かった。

 何度もチャンスを逃しているうちに、期末考査が終わって春休みに入ってしまった。

 兎瞳は正常な思考が覚束おぼつかなくなっていた。

 どうして陽の光あたらないと精神が崩壊するのか未だに私には判らない。

 紫外線を避ける行為とは関係なく、紫外線に当たったときの免疫効果の欠損と関係が在るのかもしれない。

 とにかく兎瞳の精神はどんどん危うくなって、会話が縦横無尽に動き回る。

 そして、ごくたまに幼児解離してしまう事に驚愕した。

 私は焦っていた。

 兎瞳が二十歳まで生きられないと、彼女の母親に聞かされたのは中学二年の時だった。

 落胆すると同時に何となく、その時はまだ時間はあると思っていた。

 でも今は時間が無い。

 数少ない同じ症例の患者の中で、多くの子供は高校生まで生きられないのだ。

 いわば、兎瞳は長寿の部類に入る。

 十七歳にして長寿……その歪んだ統計指数は私を果てしなく焦らせるのだ。






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