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断章『見えざる剣』23

次はミシェル・シャノワーヌ側の視点となります

ミシェル・シャノワーヌの機体は25メートルほどで標準型シルエットキャリバーと同サイズ。

だが、その瑠璃色の装甲をまとうアヴァタールは、見る者を畏怖させるおごそかさがあった。


「……自分が何に乗っているのかも正しく認識できないのねミシェル・シャノワーヌ。哀れなミシュリーヌ・バーネットの成れの果てのあなたは……あのときのわたしは」


フェザー・シュバリエの内部でキーボードを激しく叩きながらミシェル・バーネットがつぶやく。

彼女にとっては目の前に映る機体は不倶戴天の敵といっていい。


彼女が産まれた世界を終末の炎で焼き尽くした青い炎をまとうマグナキャリバーと同じ姿だからだ。

古代トゥーレの王アッシュールのために用意されたそれには『蒼き狂王(タイラント)』という名称が与えられていた。


一文字キクカを裏切って出し抜き、藤原ヒロミと結ばれたミシュリーヌ・バーネットだったミシェルにとっては、世界と愛する人とを奪ったもっとも憎むべき敵の象徴だった。


超越者(オーバーロード)は端末として具現化していると、極端な認識の操作をされてしまう……〈絶対中枢意識体(インテグラリア)〉あるいは〈唯一至上なる霊の主(オーバーマインド)〉の名で定義された複合意識体からの造反を防ぐための紐付(ひもづ)け……か」


独り言のBGMとなってキーボードの打鍵音が続く。

フェザー・シュバリエは腰に装着していたライフルを取り外して両手に構えながら蒼き狂王(タイラント)へ接近を試みる。


「紐付けを切断……解除する方法はあっても、あの技を扱える人間は限られているから、この場では事実上ゼロということになるわ。どうするのミシェル・バーネット?」


自問自答しながら彼女はコクピットの正面パネルに映る蒼き狂王(タイラント)をにらみつけている。彼女にはかつて、あちら側から今の自分を視認していた過去の記憶がある。

だから、今、自分が何をどうすればいいのかはわかっていた。

蒼き狂王(タイラント)を駆るミシェル・シャノワーヌの戸惑いや不安も手に取るようにわかった。


「ギリギリのところまで時間稼ぎをするつもり……だったのね、あのときのわたしは」


フェザー・シュバリエが攻撃に使った電磁加速ライフルは、すべて正確に蒼き狂王(タイラント)の各部位に命中している。

だが一発として有効なダメージには至っていない。


すべて命中部位に接触する寸前に吸収されているのだ。

かつて彼女がミシュリーヌ・バーネットとして戦ったときと同じだった。

蒼き狂王(タイラント)に曲がりなりにも物理的なダメージを与えて干渉することができたのは、藤原ヒロミだけだった。


「180秒では……足りないわ。だったらそれはタマモさんのために取っておかないと。わたしは……なんとしてでも……この場を切り抜けないと」


フェザー・シュバリエは神業的な戦闘機動で蒼き狂王(タイラント)が無造作に放つ重力波を回避し続けていたが、そこでついに限界を迎えて電磁ライフルが爆散した。


肩の部分ごと右腕はパージされてダメージは軽減されたが、その動作によって生じた隙が命取りとなる。左腕が、次いで右足、左足と、異様な重力変動によって醜く圧壊してしまう。

展開翼だけは残されたが、半壊状態といったところで戦闘機動など不可能だ。


「……そうよね。わたしは憎たらしい偽物を握り潰して殺したかった。でも〈唯一至上なる霊の主(オーバーマインド)〉は一度は手にして逃げられたこのわたしというVA源動基を回収したかったから――」


蒼き狂王(タイラント)の右手が抜き手となってフェザー・シュバリエの胴体を貫通し串刺しにしていた。その破壊の余波はコクピットの狭隘なスペースに直立していたミシェル・バーネットのわずか数センチのところまで届いていたが、どういうわけか彼女の身体も着衣にもダメージは生じていない。


「聞こえるかしらミシェル・シャノワーヌ、いえミシュリーヌ・バーネット」


ミシェル・バーネットはようやくそこに至ると、けたたましいキーボード乱打を止めるのだった。


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