断章『見えざる剣』14
なかなか1999年の大久保ハヤト編に戻れませんが、がんばります。
「どうやら私はこの舞台にはふさわしくない役者だったらしい」
聖堂騎士カイン・エピファネスはそう言うと、どこからか取り出した鎖に短剣代わりに使っていた十字架を付けてまた首に下げてからタマモに背を向けた。
「ご友人を助けに来たのでは?」
けげんそうにタマモが問う。
古風なセーラー服のスカートが風にひるがえった。
「バギルスタン王国の先の摂政シエラザード・テクフール大公妃に伝言をお願いしたい」
「……承りましょう」
簡素化されたとはいえVA源動基の中枢となる霊結晶を産出する数少ない国家となったそこは、ローマ教皇国との関係は正式には結ばれてはいない。
だが、この奇妙な聖堂騎士は独自のコネクションを有しているのだろうとタマモは類推した。
「ラネブ殿下の身に凶事が迫るとの警告を受けて、借りを返しに来たが果たせず玖堂タマモ嬢に委ねることになった次第、まことに申し訳ない。いずれ、あらためてごあいさつと返礼の機会を」
「確かに」
「そして、あなたには忠告だ玖堂タマモ。古代トゥーレの力に依存しすぎるのは危険だ。重要なのは、我々がその力に頼らざるをえないよう仕向ける黒幕を仕留めることのはず。私は本来の務めに戻らせてもらうよ」
タマモが反論しようとしたその時にはもう、カイン・エピファネスの姿も気配も完全に消失していた。
「……少し、お父さんに似ている感じの人だったわね」
誰に言うでもなくタマモは独りごちた。
上空には災害危険区域に指定されたであろうこの地をうかがうような早期警戒機やその護衛の戦闘機が周回しているのが見える。
ほどなく、この国の国防軍の対特異事象装備のシルエットキャリバーが降下してくるだろうし、場合によっては環太平洋合同軍所属のキド大尉たちにまで出番が回ってくる可能性さえもある。
「でもね……わたしにとってはイサミは宝物。天空の女王だった時のアッシュール様がそうであったのと同じで……あの人になるからとかそういうのと関係なしに……イサミが生まれてきてくれたから……お姉ちゃんって言ってくれて、やっと自分になれたんだもの」
タマモは走り出した。
もう新宿駅や四谷方面へと逃げ惑う人々の姿はなかった。
無人となった午後の街を駆け抜けていく少女の身体から何かが剥がれ落ちて風に待っていく。
それは無数の短冊状の呪符であり、彼女がその身にまとう古風なセーラー服そのものが分解することで出現していた。
「我が身に宿りし劫初の混沌よ……」
徐々にセーラー服が形を無くしてゆき、真っ白な下着姿があらわになりかけたその時になると、彼女の皮膚の表面には無数の呪術的文様が淡い霊気を帯びて発光する。
「力の精髄としての有り様をここに示したまえ」
タマモの胸元に野球ボール大のサイズの結晶体が出現した。
それと同時に体表部分の発光は停止する。
「星々の荒野をさすらう大いなる者を御する装いを与えよ――」
そして、胸元に輝く霊結晶は瞬時に移り変わる無限にして夢幻のきらめき――混沌の色を宿してゆき、そこから広がる光の輪が裸身も同然となった少女の全員を包み込んでゆく。
「高次元波動変換想衣……焦点確立!」
次の瞬間、玖堂タマモはかつて前世で九重タマモと名乗った時、そして黄玉鈴であった時、そして古代トゥーレにおいてはカレンと名乗っていたその時にもまとっていた、霊結晶の力そのものと一体化して行使する姿になった。
白と紫のドレスの胸元には万色に移ろい続ける混沌の霊結晶が飾られている。
ひざたけまであるロングブーツ。
背中にはケープ状のマント。
そしてその周囲には恒星の周囲を回り続ける惑星群のように8つの透明なままの霊結晶が浮遊しており、彼女を守るように陣を敷いていた。
「お父さんお母さんごめんなさいっ! イサミ、お姉ちゃんがすぐに行くからッ!」
吹き寄せてくる圧倒的に瘴気をものともせず、女児向けアニメの主人公のような魔法少女めいた姿のタマモは黒い怪異に向かって突進した。




