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断章「見えざる剣」3

今回の断章は2、3回で終わると言ったな。あれはウソだ

もうちょっとだけ続くんじゃ

「……これがイサミの戦闘機動(コンバットマニューバ)だというのは理解しました」


円周状の管制室内で再現されたシミュレーション映像を確認したタマモは疲れた表情をしていた。

それは苦笑いのようなものにも解釈できる。


「体調でも悪くしているのか玖堂?」

「世界中を探し回っても見つからなかった青い鳥が、家に帰ったら庭先でくつろいでいるのを見つけてしまった……わたしの心境はそんなところです」

「過程はどうあれ、見つかったのなら喜ばしいことじゃないか」

「大尉の初恋は実りませんでしたよね?」

「いいや、妻が僕の……初恋だった」


亡き妻を語ったキド大尉の面差しには少年の日の情熱が宿ったような気がした――玖堂タマモはそんな風に想像した。


「失礼。知人からは初恋は実らないと聞いていたので、たとえに引用してみようと思っただけです。とにかく、わたしの場合は世間一般のたとえにできる代物になってしまったという次第です」

「話が見えないな。まさか、きみから恋だ愛だといった色恋沙汰の話を振ってくるのも予想外だったが」

「わたし一応、中学生なんですよ。むしろ色恋沙汰の話をしない方が少ないはずです」


タマモは自分の席に置かれていた紙コップを手に取ると、露骨にまずそうな顔でそれをすすった。

コーヒーサーバーから注がれて十数分以上経過したそれは生ぬるくなっていた。


「きみのそうした一面は初めて見せてもらったような気がするがね」

「ただの生意気な小娘が……大人びた言動でそれらしく振る舞おうと背伸びして気を張っていた……あははは……初恋の人が5歳児だったわたしにそんなことを言っていたのを思い出しました。たとえハーメルン症候群の影響があっても、その人格の本質は固有のものだとも」


タマモは力なくうなだれると静かに涙を流し、キド大尉に借りたハンカチで頬をぬぐった。


「……赤い髪で黒い学生服の大久保ハヤトはもういないけれど、これから……イサミが彼になって……わたしを助けてくれたんですね」

「私の場合は南極で命を拾ってもらった。未来に属するはずの人間が過去に存在した理屈は知らない。タマゴが先かニワトリが先かと論争するのと同じようにな。研究は学者に任せるとして、彼に関わった者にとっては経験したことだけが事実となる」

「彼は当時の大尉にはどんなお別れを?」

「これから、いちばん大切な守りたい人のところに行く……また会おう、そんなところだった」

「……なによ。やっぱりハヤトあなたは……わたしのことが大好きだったじゃないの……そんなのはもうお見通しなんだから観念しなさいって……何度も言ったはずよ。でも約束した通り無事に帰ってきてくれて……わたしに会いに来てくれていたのね……ありがとう」


独り言をつぶやくタマモは、沈黙を続けるキド大尉の厚意に甘えてうなだれたままだった。

共通の恩人を持つキド大尉は東洋の神秘的な少女が涙するその姿に、戦争で死んだ友人たちの妻や恋人が葬儀で静かに慟哭する姿を連想してしまっていた。


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