表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/138

五章『ソードマスター・シルエット』1


「タマちゃんは? タマちゃんはどうしたのKGMさん?」


 弾痕でズタズタにされ、血まみれとなった制服のナナミは、ようやく起き上がる。


「まぐな・きゃりばーを暴走させるようなことがあれば、私がこの身体をもらい受けてその行動を阻む。大久保ハヤトの名と私を受け継いだ時の彼女との契約通りだ」


 KGMは面倒そうに答えてから、ハヤトがそうしていたように白銀のハードケースの革ベルトを左肩に掛けた。


「意味わかんないよ!」


 バカにされていると感じ取ったナナミはKGMをにらみつけた。


「平たく言えば、その魂と肉体を切り離した。私という存在が身体を預かり、大久保ハヤトとしての資格を失った玖堂タマモの意志は遠ざかった。死亡したのと同義だな」


 KGMが告げた残酷な事実にナナミは身体を硬直させてしまう。


「不甲斐のない、かりそめの主ではあったが、これも縁。入間ナナミ、おまえの身柄は無事に神州まで送り届けてやろう」


 KGMは右腕を軽く上げ、それから虫でも払うかのように動かした。


「ぐげええええッ?」


 KGMに銃口を向けていた鈴木の右腕が鋭利な断面を示して地面に転がり落ちた。

 派手に血しぶきが飛んだのは数秒遅れてからだった。

 KGMが、目には見えない不可視の刃物を遠隔操作して、それで鈴木の腕を切断したかのように見えていた。


「おい鈴木とか言ったな。死にたくなければ飼い主から預かった転移門の力で入間ナナミを旅行先の宿に戻せ」

「こ、この程度の負傷で俺の心を折ったつもりか。我がアメリカ戦略機甲軍が誇る細胞増殖治療を施せば後遺症も残さず再生できる」


 鈴木は苦痛をこらえながら慎重に後退し、ハヤトから距離を取る。

 シルエットキャリバーの操縦者たちに介入するように、頭上を見上げて目配せした。すると全長20メートルはある4機の巨体が海面を蹴破りながら前進し、手の甲に装備した対人制圧用の機関砲を作動させ――


「なッ?」


 鈴木が率いていた強化装甲服の兵士たちと同じく、シルエットキャリバーという巨大人型兵器もまた、その全身を野菜か何かのように輪切りにされて分解し、派手な水音を立て海中に落下していく。


「な、生身でシルエットキャリバーを切断っ……いや解体だとッ?」


 あり得ない光景に鈴木は絶句していた。

 それは確かに前世紀の後半から、まことしやかに裏社会で語られていた大久保ハヤトという傭兵の伝説に符号する現象だった。


「ほんの少し刀気を放っただけで大げさに騒がれては困る。私の正当な使い手であれば児戯にも等しい所作を再現しただけなのだからな」


 KGMが右手の人差し指を伸ばし、5メートルは離れている鈴木を指す。


「ひッ?」


 鈴木の首筋に薄く赤い線が走った。

 だらりと血が垂れている感触自体よりも、生殺与奪を完全に握られているという恐怖が日系アメリカ人の男を狼狽させた。


「まあいい……少々面倒ではあるが、その借り受けている、きゃりばーすきる、とやらを奪い取るか。確かタマモの使っていない力に、そういう能力があったはず。この私が存分に使いこなしてやろう」


 KGMが言った直後、左手首の大きな腕時計から声が響いた。


『ハヤトさん! 聞こえていたら応答を! ふねが艦が沈んでます! なんでもいいから早く戻って! それくらいできちゃいますよね? そういうキャリバースキルとかありますよね?』


 それはVA艦マリー・アントワネット管制員の声だった。

 カミーユ・デシャルム提督が、最低限の機能維持のためと称して随行させた、本来のマリー・アントワネット乗員のひとり。

 彼女はナナミにも鈴木にも聞こえるほどの音量で怒鳴っている。


「ふぉるたん少尉、内親王殿下の禁裏は無事なのか?」


 コレット・フォルタン少尉は任官して間もない若手で、デシャルム提督が唯一、随行者として指名したアヴェロワーニュ海軍の士官である。


『アルケミックチャージが解けちゃいます! まだつながってられる間に早く――』


 だが声は雑音混じりとなってしまい、最終的には聞こえなくなった。

 このとき初めてKGMの表情に緊張と焦りが浮かんだ。


「ハハハハハっ! 我々、合衆国戦略機甲軍の勝利だなッ!」


 鈴木は大声で笑いながら、その身体の周囲を空間ごと歪曲させ、そして消失した。


「消えた……」


 おそらくはあの異能を乗用車全体に作用させることで自分はハワイからサンフランシスコまで連れ出されてしまったのだとナナミは納得した。


「なんという無様な。内親王殿下の御佩刀(みはかし)たる私が……あの程度の小物に逃げられるとは……」


 KGMは忌々しそうに右手を払った。

 青白い霊気を帯びた突風が吹き抜けていくが、それは、洋上のある一点で不可視の何かに接触し、消散してしまう。

 旧アメリカ合衆国の大陸本土と外界を隔てる時空(ステイシス・)停止帯(ゾーン)の作用だった。


「入間ナナミ。すまないが先刻の申し出は撤回させてもらう。この状態の私がこの巨大な鳥カゴから抜け出る手段は皆無だ」


 KGMはもう一度、右腕を払って霊気をまとう疾風の刃を放ったが、それはやはり、雲散霧消するだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ