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六章『六億二千万年前の遺産』12

「それと、あとひとつ」


 セーラー服の少女は、タマモが挑発的な言動を取らず、静かに聞き入っているのを確かめてから話を続けた。


「たぶん、まだ、わたしになる前のわたしと、出会うことになると思うんだけれど……入間ナナミを助けることにつながるから……彼女に力を貸してあげて。今のあなたにはあって、彼女もわたしも無くしてしまった力が必要だから」

「約束はしないわ。でも、ナナミちゃんを助けることにつながるというのが本当らしいのなら、その時は考えてあげてもいいわよ」

「ありがとう、それで充分よ……可能性ができただけでもこの夢に意味はあったのね」「これが夢だというのニセ大久保ハヤト?」

「ええ、そうよ。ずっと眠っていて、夢を見ていなくてはならないの。大切な人たちが苦しんで傷付いて……おぞましい運命に取り込まれてしまうその前に……ほんの少しだけでも支えになれるように……まだ世界が終わっていない夢を……見続けているの」

「まるで伝承院様みたい……」


 玖堂タマモは目の前の相手が自分の成り行く可能性のひとつだと認識こそしてはいないが、それでもセーラー服の大久保ハヤトの言葉に伝承院こと一文字キクカのそれに近い達観した雰囲気を感じていた。


「ありがとうKGM……あとはこの子とサロメに委せるから」


 玖堂タマモの眼前の光景は、その言葉が発せられた直後、マーズ・フォリナーのコクピット内部に回帰する。

 そこには先客がいた。


「ハヤトしっかりしなさい! どうなっているのよ?」


 主観的な感覚では、わずか数分前の自分自身と同じように混乱し、黒い学生服の少年に呼びかけているセーラー服の少女がいた。


「さっきのニセ大久保ハヤトが言っていた……あの人になる前のあの人?」


 一文字キクカと近しい雰囲気は未だその少女にはない。

 背丈も、全体的な体格も小柄でほっそりとしていて、華奢だ。

 大人びた高校生の少女の、中学生に成り立ての頃の姿といった感じではある。 


「ナナミちゃんを……入間ナナミちゃんを助けるために、わたしの力が必要なのね……どんな力が欲しいの?」

「……えっ?」


 セーラー服の少女は、タマモの呼びかけに振り返ると目を見張った。


「……玖堂タマモ! その服……シュトレゴイカバールに行く前に着ていた! どうしてここに?」


 この中学生の大久保ハヤトは、彼女自身の過去で見ているはずの夢の記憶を回復してはいない。


「質問しているのは、わたしが先よ。ナナミちゃんを助けるためには何をどうすればいいのか教えなさい。あなたになんか委せないわ。わたしが自分で助けるんだから」

「KGM! これはなんなの? 本当にこれがナナミちゃんを助ける唯一無二の手立てなの? 説明してちょうだい!」

「どっちもうるさい! ハヤトのじゃまするなら、もう、ここからでてってー!」


 玖堂タマモと大久保ハヤト。

 同一人物の異なる時代におけるそれぞれの存在は、激怒したサロメの大声に気圧されて大人しくなってしまった。

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