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断章『夏の日の夢』11

間が開いてしまいましたが続きます。


学園生活に馴染んでからほどなく、徳川ケイは自主的に三門学園とその周辺を散策し、狩りを始めていた。


第三次世界大戦の負の遺産ともいうべき生物兵器群は、未だ駆除しきれずに自己再生と自己複製を継続しており、これを阻害する抑制装置の増産と設置は追いついていないからだ。


都市とその近郊には優先的に抑制装置が設置されているはずだが、どういうわけか、特に三門学園とその周辺では忌まわしい害獣どもが数多く出現し、警察や軍の出動も珍しくなかった。


それらの大半は動植物の姿に擬態し、人間にのみ反応して襲いかかり、捕食するという性質を備えていて、公式名称としては〈年代記(クロニクル・)収穫者(ハーヴェスターズ)〉、通称、〈収穫者〉とされているが、世間一般は怪物だ魔物だと勝手に呼んでいた。


時代劇でおなじみの徳川将軍家の傍流のそのまた傍流にあたる家に生まれ、しかも見えないはずのものが見える霊能を備えてしまったケイは、茨城県の山奥で、そういった力を用いるための訓練を積んでいる。


かつて御庭番と呼ばれた忍びの者の末裔が、連綿とそうした技法の制御方法を継承しており、その影響で彼女は身体的にも人並み外れた力を発揮できるようになっていた。


「さて……と」


抑制装置が重点的に設置された中野区側の青梅街道沿いは人通りが少ない。

〈収穫者〉の出現頻度が高いことで、重装甲化した電動車や武装トラックによるコンテナ輸送が主体となっている道路ということもある。


「今日はこの辺……かな?」


廃墟の残骸とその上に建設された新たな市街地を夕暮れの中、歩き続けるケイ。

有機物無機物とを問わず、融合同化して暴れる怪物〈収穫者〉の気配を探りながら、西へ進む。


「ていッ!」


突如としてケイは大きく跳躍し、直前まで自分が立っていた足元に何かを投げつけた。

ヘドロ状のかたまりは大型犬を戯画化したような姿に変異しつつ路面から浮かび上がろうとしていたが、黒い手裏剣……クナイと分類されるそれが突き刺さり、身悶えしていた。


「成敗っ!」


離れた位置で着地したケイがそう叫ぶと、クナイと彼女の右手とをつなぐ透明な糸を霊気が走り、怪異に決定的なダメージを与えて消滅させる。


「よいしょ……と」


茨城県の山奥で育てられる特別な()から得た絹糸を錬金術的(アルケミック・)霊力増強付与(チャージ)して生成した霊糸(れいし)が結ばれているクナイを、自分の手元に手繰り寄せて戻すケイ。


「これで少しは、学園の警備を請け負ってるなんとか警備保障の人たちも楽ができるんじゃないかな。これぞ高貴なる者の務め、ノブレス・オブリージュであーる、なんてねー♪」


それこそ徳川将軍家の直系の末裔であるならともかく、そうではないケイとしては、あくまで身体がなまらないようにするため自主的にやっている活動でしかない。だから別に誰かの賞賛や自己承認欲求が狩りをする動機というわけではなかった。


「あれ?」


ケイの視界の端に、古風なセーラー服の少女が映った。

寮で相部屋となった三門カレンだった。


「カレンー!」


大声で呼びかけてもカレンは振り返らず、どこかふらふらとした頼りない足取りで前へ進んでいる。


「こらー無視するなー!」


ふざけて怒鳴りながら、ケイはカレンを追いかけて走る。

その背中に手を触れ、強引に振り返らせたところで、明らかな異変に気付いた。


「……呼んでいるの。わたしのことを……あの人……おの御方が……だから……行かなくては」

「行くってどこに?」

天上(そら)(なぎさ)……きっとそこから見渡したなら、あの人がどこにいるのかも」


夢見るようなカレンのカレンの言葉に戸惑うケイだったが、霊力のゆらぎを感じた直後、周囲の光景が一変していることに驚く。


「何よここ……カレン、あなたの力なの?」


この世界に色彩はなかった。

いや、正確には白と黒で構成された都市と灰色の空がある。

そしてカレンとケイの身体や衣服はこの異空間に突入する以前の色を保ったままだ。


「え……ケイ? それに、ここはどこ?」

「何か憑かれたって感じはなかったけど……カレン、あなたが案内してくれたのよ」


眠りから覚めたように、きょとんとしているカレンにケイは苦笑を浮かべた。


現実の世界と同じ光景でありながら色彩を失った異界には、異形の怪異どもが跋扈(ばっこ)していたが、とりあえず生き延びるためにケイは、カレンの腕を引いて走り始めた。



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