断章『夏の日の夢』10
きっとこれは運命の出会いで、三門カレンと自分は同じクラスになり、席も隣で親しくなる――という想像をするケイだったが、そんなことはなかった
「てっきり、あたしたち同じクラスになると思ってたよ」
1年A組所属となったケイは、体育で合同授業となったB組のカレンにそう言った。
母親の遺言だという理由で古風なセーラー服を着用し続けているカレンにしても、体操服ばかりは規定のものを着用している。腰まで伸びる髪も仕方なくリボンで結わえてポニーテール状にしていた。
「寮ではケイと相部屋なんだもの、そこまで行動する場所が重なると気味が悪いわ」
「それもそうかもね。ところでお昼は、どの学食に行く?」
「大学院の復元技術研究棟近くに、おいしい中華料理を出す屋台が立つそうよ、戦前はサンフランシスコにいたインドの人がやってるんですって」
そういえば初めて会ったその時に、この子は休業中だと張り紙がある古ぼけたラーメン屋みたいなとこで落ち込んでいたっけ、と、ケイは思い出す。
「カレンはグルメマンガみたいに一子相伝の調理技術とか流派とか継承してたりするの?」
「金竜軒のことでそう言っているのなら説明するわ。わたしはあの場所を夢で見たのよ。そして、そこで懐かしい誰かと――思い出せないけれど大切な人と再会するの。夢の中でね」
ハーメルン症候群、という言葉をケイは自動的に連想させられてしまった。
まだ公式発表こそされていないが、先天的に霊能やら特殊能力といった力を備えた少年少女たちの発症率は四割を超えていると事情通の知人から聞いているからだ。
「きっとあれは前世の記憶だと思うの。だって、わたしあの夢を見るまでは脂っこいから中華料理は嫌いだったんだもの」
「来世の夢っていう可能性もあるかも。この前レポート用に読んだタイムマシンの製造法って本で、時間には前も後も無くて、因果応報もあれば、応報因果ってことも理屈の上では成り立つって書かれてたし」
「……それは嫌な話ね。だってもしもそうなら、人を殺す前に罪悪感に苦しめられることにならないかしら?」
「その本でも、人間が認識できる限界として、時間の後や先、因果応報って形で時と場を認識しているから、人が人である上では、その心配はないらしいよ」
「だとすると、人間とは異なる認知機能を持つ知的存在にとっては、時と場というものは、また別の意味合いを持つということなのかしら?」
「カレン、大学部は哲学科とか目指してるの?」
「いいえ、霊機考古学部よ」
「古代トゥーレの遺跡調査! 戦前のハリウッド映画みたいな大冒険したいんだ?」
「ずっと探してる人がいるわ。その人とは夢でしか会ったことがなくて、そして、その場所は古代トゥーレの遺跡だってことしか思い出せないの」
「少女マンガの主人公みたいだよね、カレンは。あ、バカにしてるんじゃなくて、うらやましいから言ってるの」
「そういう意味であれば、もっとお話の主人公みたいな秘密があるわよケイ」
「よし、中華料理屋のランチおごってあげる」
「味を未確認の中華より、放課後に、新宿駅西口近くの立ち食いそば屋さんの月見コロッケきつねそばを所望するわ」
「あんた見かけによらず大食らいだもんね。はいはい、かしこまりましてよお嬢様。で、主人公みたいな秘密ってのは?」
「……わたし、去年の年末に、行き倒れしてて、それを三門タカアキさんという軍人さんに助けてもらったのよ」
「ほうほう、それをきっかけに恋に落ちて、その人こそ夢で見た、古代トゥーレの遺跡の中で巡り合う運命の王子様――」
「その人とは別よ。わたしは南極ヴォストーク湖付近で発見されて……目を覚ますまでの記憶がほぼゼロなのよ。この名前は三門さんの亡くなった妹さんのものを借りているの」
「そ、それはなかなか……というより、壮絶な過去だと思うだけど、追加でちくわ天とか要る?」
ケイはカレンが自分との交流に日常を求めているのだと察していたからこそ、そこまでの口調と雰囲気を保ったまま返事することができた。
「いただくわ。それと麺は大盛りで」
カレンが夢の中でのみ会える運命の人にこだわる理由はその時点でもケイに理解できた。
だが、その執着が避け得ぬ悲劇を招くことまでは予想できるはずもなかった。




