断章『夏の日の夢』8
徳川ケイ先生の本格的登場は次回です。
西暦2000年の終わり、第三次世界大戦がアデリーランド条約の発効によって終結した時点で、かつての国際連合は事実上の消滅を迎えた。
なぜなら国連――厳密には第二次大戦時点での連合国であり、国際連合などという日本語の訳語として不自然なそれは、旧アメリカ合衆国とその背後に潜伏する秘密結社が隠れみのとして利用するためにあつらえた国際機関であり、第三次世界大戦を誘導し実現させた勢力だからだ。、、
彼らは複数の世界的巨大宗教の頂点に座する唯一神の名の下、それぞれの聖典に記された終末の預言を成就させ、この世の終わりを招くため流血と破壊が絶えぬよう、国家や政府、あるいは軍や情報機関という名の駒を遊技盤の上で自在に動かして、当初は最高法院という名だった組織としての名を幾度も変え、二千年に渡り活動を続けていた。
アメリカ合衆国戦略機甲軍はこの秘密結社の走狗であり、第三次大戦中期までは、脱走艦であるマリー・アントワネットを私物化したカミーユ・デシャルム准将とその部下たちに、自分たちの非人道的犯罪や破壊活動のすべてを押し付けるプロパガンダを広め、自らを唯一神の使徒でありその正義を体現する聖なる戦士集団だと喧伝することに終始していた。
第三次世界大戦そのものは、その末期に南極ヴォストーク湖地下の古代トゥーレ遺跡を争う大会戦で決着し、アデリーランドに集った、のちの条約機構加盟国軍の勝利に終わった。
だが、条約機構加盟各国もまた、公明正大、自由、正義といった言葉を謳うものの、結局は巨大な利権集団でしかない。
当然ながら、第三次世界大戦以前のすべての悪と罪は、アメリカ戦略機甲軍やその飼い主である最高法院に、まとめて押し付けられた。
諸悪の根源は、合衆国本土だけを干渉不可能な領域に退避させた旧アメリカ政府中枢とされ、復興を優先させる都合上、戦後世界には大戦を引き起こした勢力の残党やシンパも数多く残された。
第二次世界大戦直後に、ドイツ第三帝国の軍事技術とその産物やそれを運用していた者たちが、アメリカやソヴィエト・ロシアに連れ去られ、知識を吸い上げられ、第三帝国秘密警察のネットワークや人員がそのまま諜報網として再利用されたのと同じことである。
このように、西暦2001年以降のアデリーランド条約機構体制となった人類社会は、ある意味では、それ以前の世界と変わらない部分も多々あるが、前向きに変化した部分もあるにはあった。
そのひとつである施策が、第三次世界大戦の開戦劈頭において大質量兵器として使用されたモルフェウス型大陸間弾道弾の爆心地となった12の地点と周辺を条約機構議会直轄の信託統治領として、復興のための産学共同となる経済開発を推し進めた『技術復元解析政策』俗称『第三法則具現化構想』である。
その第一段階として東京都の新宿区と渋谷区と中野区の被災地区はアデリーランド条約機構議会直轄信託統治領として日本国内でありながら法的には独立した地域となり、古代トゥーレの復元技術によって実際の地理的面積からはるかに拡張されたそこは私立三門学園という特殊法人が預かる小世界となった。
徳川ケイはその三門学園創立時の西暦2001年に入学した一期生であり、のちには幼稚園から大学まで整った学部も、その時点では高等部と大学部しか存在していなかった。
彼女はこの学園でそれまで知らずにいた世界の実相を垣間見、そして親友となった三門カレンと出会い、死に別れた。
同じ敵と戦った過去を持つがゆえに、ケイは、教え子たちが秘密裏のつもりでいる『ハイパーボレアまじかる騎士団』の監督役として恥ずかしい役職名を受け取り、かつてケイと親友が打ちのめされた現実から少女たちを守るために奔走していた。
そのケイにしても、少女の姿に化身してしまう藤原ヒロミという少年の存在は驚きだったし、九重タマモという編入生の姿形が、亡き親友と瓜二つであったことは衝撃だった。




