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断章『夏の日の夢』3

今週は衆二回ペースに戻せた……なんとか維持したいです。

「……ですが、わたくしの務めは引き継がれねばなりませんわ。何か、キクカとハナを引き継げるようにする手立てはありませんの?」


キクカはすぐに立ち直ると背筋を伸ばして立った。


かつて古代トゥーレ12の都市の中枢となっていたVA艦『高天原(タカマガハラ)』の狂った中枢制御機能を不完全ながら御すことが可能なのは、キクカと妹だけなのであり、弓なりに反った列島に生きる人々を守り、天変地異を鎮めるためには我が身を犠牲にすることをいとわぬ高潔な意志がそこにはあった。


「ただひとり、心当たりがございます。姫様は幸か不幸か、御学友に恵まれ、霊結晶の担い手として覚醒なさっておいでです。『高天原』の砕け散った霊結晶を部分的にでも修復することさえかなえば、これまでとは異なり、その御身を失うことなく、鎮めの儀を執り行うことがかなうやもしれませぬ」


岩倉という老人は主君の回復に安心してか用意していたらしい言葉を続ける。


「霊結晶の修復は古代トゥーレが滅亡してから不可能となり、以降の文明は不完全な模倣品を作るのが精一杯だとミシュリーヌさんから聞き及びましてよ?」

「ただひとり、存在するのです。霊結晶そのものを暗示する言葉として……金剛石(ダイヤモンド)の傷を治すことができる奇蹟を可能とする男が。第三次大戦当時、マーズ・フォリナーというマグナキャリバーと完全に同期したことで死にかけたある少年を救ったのも、その男だと伝え聞いております」

「でしたら、すぐに修復の依頼を出してくださいな。お金は好きなだけ使ってください。どうせ、わたくしには使いみちがありませんの」

「それがなんとも妙なことに……あの男は自分が動くことはできない、代わりの者を行かせるので、その者に委せるように、と、申してきたのです」


苦々しい口調の岩倉の態度から、キクカにはその金剛石の傷を治せる男という人物は、老人とは直接、面識があるのだろうと察した。


「依頼人が直接、顔を見せて事情を説明しなければ引き受けないタイプの御仁(ごじん)ですの? そうであるなら、わたくしが出向いて、依頼させていただきますわ」


キクカは、学園の寮で仲間のひとり中島クルミが大量に持ち込んだマンガやアニメやライトノベルやらそれ以外のサブカル全般の総称である『クルミン文庫』で読んだ劇画と、その主人公である、孤高の超A級スナイパーのことを思い出しながら言った。


「その必要はございませぬ。その男というのは、姫様が学園のサン・ジェルマンという喫茶店で何度も顔を合わせていた武内という者です。決して姫様を忌避してのことではないとも申しておりました」

「まあ、武内さんが……そのような、すぺしゃりすとだったとは、わたくし、さっぱりわかりませんでしたわ。これは、とんだ、うっかりさんですの」


武内という男は学園施設内の一角で、純喫茶サン・ジェルマンの店長として、キクカや『ハイパーボレアまじかる騎士団』の面々と親しくしていた中年男だった。


時折、意味深な助言やら忠告をキクカと仲間たちに伝えてくることは多かったが、まじかる騎士であり、そして最後の皇族であるという正体を明かしてはいなかったこともあり、意外に思えた。


「あの男は私が知る限り、ジュゼッペ・バルサモ並みかそれ以上の魔道士であり、ミシェル・バーネットという食わせ者同様に油断のならぬ人物ですが、契約や約束には誠実な男です。まずは里に戻り、そして代理の者とやらが到着するのを待って、鎮めの儀に移るのがよろしいかと」

「わかりましたわ」


しばらくは静かに時間が流れ、キクカと岩倉は停車したその施設を経由して、伏神の里へと続く、細い山道の前に降り立った。


ここか先は基本的には徒歩かあるいは牛馬に頼るしか移動手段はない。

緊急時にのみ限って、電動二輪を使用することは許可されている。


「あら、出迎えの者が誰か来ておりますの?」


近付いてきたのは、緑色の側車付き二輪自動車――いわゆるサイドカーに乗った女性だった。

黒いライダースーツを着込んだその人物は見た目からすると成人女性らしいが、ヘルメットをかぶっていて顔は見えない。


「あれれ……ミシュリーヌ……さん、ですの?」


サイドカーから降りた女性がヘルメットを外すその前に、キクカは目の前の彼女が発する霊的な波長をケンカ友達であり仲良しになった少女型ヒューマニッカのものと同じだと認識し、そう言ってしまう。


「この姿でお目にかかるのは初めてになりますが、以後、お見知りおききださいキクカさん」

「あんた、ミシェル・バーネットじゃないか!」

「はい。キクカさんと岩倉さんに妹のミシュリーヌがお世話になりました」

「あら、こちらこそ、ときどき差し入れでおすそ分けしていただいたマドレーヌとシードル、いつもいつも、ごちそうさまですの♪」


岩倉翁が1962年当時に見たままの成人女性の姿で、その女は軽く会釈をした。

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