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三毛猫の存在理由

 「さっきは、ありがとう。助かった。田戸(たべ)がぼくの後に、ああでも言ってくれなかったら今頃どうなっていた事やら。本当にありがとう、本当に」

「前田君の力になれなのなら、嬉しいです。私なんて何にも出来ないですから。いつも、仲の良い友達に助けてもらっているばかりなので……前田君にもいつもいつも助けてもらっていますよ?」

 田戸は、ぼくに数学の宿題を見せてもらったとか日直の仕事を手伝ってもらって嬉しかった、と笑顔で話した。少しこっちが照れくさくなった。表情をころころと変えながら喋る彼女は可愛らしかった。ミサキとは違った魅力があるなあ。きっともてるんだろうな。

「でも困りましたね。ミサキちゃん、どうしてしまったんでしょうか。ミサキちゃんと前田君は付き合っていたんですよね?」

「そう。付き合ってた。あいつが死ぬなんて、考えられなかった……」

 ミサキが死ぬなんて、誰にも予想がつかなかった。地球滅亡の時が来ても生き残りそうなやつだった。縁側に絶対居る、三毛猫みたいに、存在するのが当たり前のように生きていたのだ。

 髪の生え際から一筋の汗が流れる。午後四時の太陽は、益々照りつけが強くなる。こんな暑い日でも、長袖のブラウスを着ている田戸の隣はもっと暑苦しい。彼女は汗一つかいていない様子だったが、スクール鞄から掌サイズの団扇を出して扇いでいた。

 どう、扇ごうか? と気を遣ってくれたけど、遠慮した。

「どうするべきかな。ミサキちゃんとっても最良で、前田君にとっても最良な『何か』」

「僕たち二人じゃなくて、クラス全員にとっても良い様にしないと」

「そうだね」

 田戸と並んで通学路をゆっくりと歩いていた。

「ミサキちゃんは自分が死んだことに気がついていない?」

「ああ」

「それなら、もう、ミサキちゃんを……?」

「え? 何?」

線路を電車ががたごとと走り去るまで、彼女は話すのを待っていた。

「ミサキちゃんを騙し通す事しかないのでは?」


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