接触
「大丈夫かあ」とめんどくさそうな、無愛想な――両方を兼ね備えた声――が頭上からした。
「あたしがサボろうと思ってたのにさ。とるなよ」
「ミサキ」
「どけよー。これから寝るんだからさ」
「お前、死んだんじゃないのか」
気がついた時にはもう遅く、そんな言葉がつい口から出た。
「死ねるもんなら、とっくに死んでるつぅの」
と、にへへと笑う彼女を頭の上で見る。
「とにかく、あたしは寝るんだから。どけてよ」
ぼくの脇腹辺りを押してきた。押してきたという感触が確かにあったのでぼくは背筋がぶるりと震えた。
「お前が、どこかいけよ」
少し口調が強くなったのでしまったと思ったが、
「へいへい」
と言ってミサキは、保健室の引き戸を開けて何処かへ行った。
ほっとしたぼくが居た。
触れられた右のお腹が熱くて怖い。ミサキに触られて怖いなんて事は今まで無かった。なぜなら、ミサキは今まで生きていたのだから。
悪い夢を見ている気がした。もう一度眼を瞑り、「夢だ夢だ」と言い聞かせながら、睡魔を呼んだが一向に訪れてはくれないようだ。睡魔は意地悪だと思う。
最終的にベットに寝転がりながら「ミサキが怖いぼく」が怖くなった。彼女の事を怖いと思ったことなんて一度も無い。
これが悪い夢でありますようにと願った。