三つの空席
死ぬのは怖い。得体が知れないという事が一番の要因だろうか。
「さっきの質問は気にしないでね……何となく思っただけだから、聞かなかった事にして」
ぼくの彼女の幽霊は、エアコンを切った事に少し後悔しているよう。うなじに一滴の汗が走る。
「良ちゃんは天国って存在すると思うの?」
「え? どうだろうな。ぼくはあると思ってたんだけど」
ミサキはこの答えに少し納得がいかないみたいで、面白くないという顔をした。
■ □
お昼休みがもうそろそろ終りそうだ。あと数分で予鈴がなるだろうという時刻だ。
「じゃあね、またね」と言ったかと思えば傍で「すーすー」と寝息を立てているぼくの彼女は、きっと次の授業も休むのだろう。休むとは聞こえが良いが、サボるということである。本当に猫みたいに気楽だなと思った。
五時限目に遅れるといけないので、エアコンのスイッチを入れて設定温度を二十八度にしてミサキを寝かせておこうと思った。
ぼくは右手でミサキの頬に触れた。驚く程冷たかったので小さく悲鳴を上げてしまった。もう一度触ったけど、やっぱりひんやりしていた。人差し指でぷにぷにと触ってみたが、彼女は起きなかった。
諦めて教室に帰る事にした。
■ □
「どこ行ってたんだよー、良太。探したんだぜ」
と春芳が昼食用だと思われるフランスパンを食べながら、訊ねてくる。
「ミサキのところ」
「君たちは本当に仲がいいですね。幽霊になっても好きなんですか」
ちょっと呆れたみたいだ。
そうだけど。ミサキが何であっても、例え幽霊でも好きだよ。
「君たちのことを見ているだけで、俺は腹いっぱいだぜ」
フランスパンを食べ終えてはいないが、口にとりあえず押し込んだみたいで空になった包装ビニール袋をゴミ箱に持って行った。そのまま彼は教室を出て行った。もう五時限目が始まるというのに。
予想通りチャイムが鳴って慌しく席に座る音が続いた。
五時限目は自習になった。今日は欠席がいないはずなのに、三人分の空席を確認したぼく。
ミサキと春芳と田戸だ。
今年最後の更新になるかな?
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来年もしばの晴月を宜しくお願いします。




