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理科室で

 「おーい、ミサキ。ぼくだよ、良太だ」

 倉庫にあるエアコンが冷気を吐いていた。

「ああ、良ちゃん。今何時?」

「今は一時半ぐらい。ずっと寝てたのか?」

「うん、そうだよ。暑くってやってらんねーよ」

 そっか。とぼくは言って、埃っぽい床に座り込んだ。

「地球温暖化のせい? 暑いんだけど。良ちゃん知ってた? 地球って太陽にいつか吸い込まれるんだって」

まあ六十億年後くらいの話らしいけどね、と付け加える。そんなこと知らなかったな。

「それだったら、地球温暖化とかどうやっても防げないんじゃんと思ったことがある。そんな事もあるよね。どうにもならない事ってこの世に溢れてる」

 ミサキは、いつも通り物事を嘲笑するみたいに呟いた。

 その顔を見てぼくの心臓の心拍数が上がった。

 その言葉、誰に言っているんだろう。まさか、ぼくに言っているんだろうか。でもぼくにこんな事を言っても何が変わるんだろうか? 何か伝えようとしてるの――

「そういえば、春芳と最近喋った?」

 自分の口はこう言った。意識していなかったけど、確かに質問していた。

 本当はもっと短かったかもしれない。しかし今のぼくには長く感じた沈黙。彼女は黙った。

「喋ってないよ」

 薬品で汚れた古い試験管を転がしていたミサキの右手がゆっくりになった。硬く白い板の上で、ガラスがごろごろと鳴る。やけに響いて聞こえた。それがぴたりとやんだ。

「だって、見えてるの良ちゃんだけじゃん」

「は?」

「気付いてないの? 田戸ちゃんだっけ、あの子ほんとは見えてないよ。良ちゃんに話し合わせてるだけ。クラスのいろんな人に話しかけたけど、君しか反応してくれなかった。馬鹿なの? 気付いてないの?」

 馬鹿って頭は良い方じゃないけど、彼女に言われると結構傷つく。

 それより、無性にイライラとチクチクとした。言葉で言い表せないよなむしゃくしゃ。胸の辺りに鉛がごろんと転がった。お先真っ暗、ってこんな感じ? ちょっと違うか。でも目の前が真っ暗になったという感じである。

 お昼食べながら話そうよ、と言う。ぼくが返事をしたかはわからない。

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