疑問
ミサキが死んだという事実は、そろそろクラスから離れようとしていた。悲しくも思えたが、安心した自分もいた。でもやっぱり、クラスメイトの頭の中から徐々に薄れて行くのは単純に辛かった。
徐々に、学校に来ていなかった人も登校する様になっていた。
「良ちゃんへ
今日も授業をサボろうと思っています。用があるなら、第二理科室の倉庫で寝ているのできてください。お昼ご飯は一緒に食べよう。お昼の時間になったら、屋上にいるね。
ミサキ」
急いで書いたかの様な走り書きがされているノートの一ページが、ぼくの上履きの上におかれていた。折りたたむのも急いだのかな。結構ぐしゃぐしゃだ。
別に中を開かなくても、どうせ彼女からの手紙かなと思っていた。ミサキじゃなったら、田戸くらいなものだ。
予想が的中していた。靴箱で一人微かに笑った為、丁度通り過ぎた人に避けられた。
朝から熱風を抱くぼくの教室へ向かう。
「おはよう」「おはよう」と挨拶。
ぼくから挨拶をする事は無い。相手と目が合って、一秒未満で向こうが「おはよう」と言ってきたら「おはよう」と返す。視線が交差するだけで、何も言われなければこっちだって何も言わない。自分から挨拶なんて図々しいかなと思うのと、面倒だからだ。
「良太、おはよ。……ミサキは?」
「おはよう、春芳。ミサキは今日サボるってさ。第二理科室で休むんだって」
「そっか……」
と自分から振って来た質問なのに、然程興味が無さ気である。
春芳がぼくの椅子に座る。カッターシャツから覗く腕は自分と違って、小麦色になっていた。頬もいい色に焼けている。
「あのさ、ミサキってホントにいるの?」
おずおずといった感じだ。
「だから前も言ったけど、見た。春芳は信じてないわけ?」
「信じる、信じないというか…… 俺は見てないから、どうとも言えねえし」
「え、見てないの? じゃあ、ミサキに会うように言っとく。あいつ春芳と喋ってないのか。それはちょっと意外だったけど」
逆向きに座り、背凭れに顎を乗せている彼の表情が少しだけ柔らかくなった気がした。
「りょーかい。楽しみにしとくわ」
何を楽しみにするのか、よく分からないけど、まあいいか。




