With Tabe
ミサキはちょくちょくぼくの世界に現れた。お昼休みや、放課後、HRにも居たりした。
話しかけてきたりちょっかいを出してきたり、窓の外をぼんやり眺めている死んだはずの自分の恋人を見ると、肋骨の奥底が踏み付けられている様な鈍痛。
やっぱり気付いてない。ミサキは生きているみたいに笑う、怒る、ぼくを無視する。面倒くさがりな性格なんて生前と変わって無かった。自分は幽霊にも死んだ事も無いから分からないので、いっそ死んでみようと思ってみたけどやっぱり怖かった。死ぬなんて言葉、日常に溢れかえって見えて本質は突いていなかった言葉なんだったと。
「前田君一緒に帰りましょう」
と話しかけてきた田戸一羽は、長袖のブラウスはもう着ていなかった。流石に暑いからだろう。見ていても暑い。
「そういや、田戸は部活入ってないの?」
「いいえ、入ってはいますが……そんなに力が入っていない部活なので、休みの方が多いんです。顧問の先生はあまり来ませんし」
「へー。この学校そういう部活多いよな」
「前田君は? 入っていないんですか? 意外にも運動部とか入部していそうですけど」
「部活は入ってないんだよな。え? ぼくそんな風に見える?」
と言いながら、二人で小さくくすくすと笑い合った。「くくく」と声を抑えて笑う田戸と一緒に帰る事にした。
「ミサキを……騙すってどうやって。具体的に教えて欲しいんだけど……」
おずおずとまだ他人行儀なのは――そこまで親しい仲でもないか――、田戸がまだまだ得体の知れない人だからである。彼女を信用してない訳じゃない。でもしているとも言い切れない、まだそんな関係なのだ。
「ええと、とりあえずミサキちゃんに『貴方は死んだんだよ』って決して悟られないようにします。ここがばれてしまったなら絶対に駄目です。この計画は失敗と言っても過言ではないです。計画? まあ、計画って事で」
と、自分で突っ込む。
「しかし、ミサキちゃんにずっとこの世界居てもらっても困ります。死後の世界があるなんて知りませんが、そこへ行くべきで、私たちの目の前に出てくることは駄目なはずなんです」
眉を顰め視線を足元へと落として、真夏の太陽の下を歩く。今日も昨日と変わらず暑かった。
「田戸がそこまで考えていてくれたなんて、正直驚いてる……。でもありがとう……」
「いいえ! 私は何もしていませんよ。それと、まだこれからですから」
口元は笑みを浮かべている。しかし眉と両目はしっかりと前向いて、ぼくの瞳孔を捕らえている。視線がぼくより低い田戸だけど、頼もしいとしか言いようが無い気がした。
「はははは……」
間抜けに笑うしかないぼく。だせえ。とにかく、かっこ悪い。
その後は、ミサキの事とか勉強の話をした。気がつけば駅についていて、そこでまた別れた。
そんな日々が一週間ほど続いた。




