表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

With Tabe

 ミサキはちょくちょくぼくの世界に現れた。お昼休みや、放課後、HRにも居たりした。

 話しかけてきたりちょっかいを出してきたり、窓の外をぼんやり眺めている死んだはずの自分の恋人を見ると、肋骨の奥底が踏み付けられている様な鈍痛。

 やっぱり気付いてない。ミサキは生きているみたいに笑う、怒る、ぼくを無視する。面倒くさがりな性格なんて生前と変わって無かった。自分は幽霊にも死んだ事も無いから分からないので、いっそ死んでみようと思ってみたけどやっぱり怖かった。死ぬなんて言葉、日常に溢れかえって見えて本質は突いていなかった言葉なんだったと。

「前田君一緒に帰りましょう」

と話しかけてきた田戸一羽(たべかずは)は、長袖のブラウスはもう着ていなかった。流石に暑いからだろう。見ていても暑い。

「そういや、田戸は部活入ってないの?」

「いいえ、入ってはいますが……そんなに力が入っていない部活なので、休みの方が多いんです。顧問の先生はあまり来ませんし」

「へー。この学校そういう部活多いよな」

「前田君は? 入っていないんですか? 意外にも運動部とか入部していそうですけど」

「部活は入ってないんだよな。え? ぼくそんな風に見える?」

と言いながら、二人で小さくくすくすと笑い合った。「くくく」と声を抑えて笑う田戸と一緒に帰る事にした。


 「ミサキを……騙すってどうやって。具体的に教えて欲しいんだけど……」

 おずおずとまだ他人行儀なのは――そこまで親しい仲でもないか――、田戸がまだまだ得体の知れない人だからである。彼女を信用してない訳じゃない。でもしているとも言い切れない、まだそんな関係なのだ。

「ええと、とりあえずミサキちゃんに『貴方は死んだんだよ』って決して悟られないようにします。ここがばれてしまったなら絶対に駄目です。この計画は失敗と言っても過言ではないです。計画? まあ、計画って事で」

と、自分で突っ込む。

「しかし、ミサキちゃんにずっとこの世界居てもらっても困ります。死後の世界があるなんて知りませんが、そこへ行くべきで、私たちの目の前に出てくることは駄目なはずなんです」

 眉を(ひそ)め視線を足元へと落として、真夏の太陽の下を歩く。今日も昨日と変わらず暑かった。

「田戸がそこまで考えていてくれたなんて、正直驚いてる……。でもありがとう……」

「いいえ! 私は何もしていませんよ。それと、まだこれからですから」

 口元は笑みを浮かべている。しかし眉と両目はしっかりと前向いて、ぼくの瞳孔を捕らえている。視線がぼくより低い田戸だけど、頼もしいとしか言いようが無い気がした。

「はははは……」

 間抜けに笑うしかないぼく。だせえ。とにかく、かっこ悪い。


 その後は、ミサキの事とか勉強の話をした。気がつけば駅についていて、そこでまた別れた。

 そんな日々が一週間ほど続いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ