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眷恋のプレリュード5
苦瀬は天井の頭を抱きしめる。ワックスの香りが鼻につくも離さない。
苦瀬にとっての天井は自分の夢を託せる存在だ。規則を顧みず、会社の利益のためでなく本当に人のために動ける人だと信じている。勿論失敗もするだろう。だけども失敗を嘲笑うことは絶対にしない。もしその失敗で傾こうと他人事にはせず、真っ直ぐに立ち直れるように力を尽くす所存だった。
苦瀬に呼応するかのように天井は彼女の身体を叩く……否、タップする。
「苦瀬! 死ぬ! 離せ!」
「いいえ、離しません! 店長が全快するまで離しません!」
さらに腕に力が込もり、天井の首の関節から正体不明の音が鳴る。
「……脳細胞が全壊する!」
その痛々しくも光景を安酸はにやにやしながら見守る。
「……見てないで助けろ!」
藁にもすがる思いで助けを呼ぶも、
「鑑識には腹上死って伝えておくね」
「ふざけろー!!!」