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プロローグ 001

 ──単一魔法が世界を統一した時に世界は天上へと導かれ、人々の世界は永遠に安寧を得る。この世の悪魔、バグの存在はその時に消え去る。世界に来訪する異界の者が我が子らを導くだろう。愛しき我が子よ、その時が来た暁には天上にて抱擁を交わそう──


 原初の神の神託により、この世界が群雄割拠を迎える様になって数千年。世界には〈魔法ランゲージ〉が溢れていた。祖国はその名を〈太陽の国ジャーヴァ〉と云う。私は国を統べる女王レテュスである。

 この国の歴史は隣国に比べて浅い。しかし、画期的な〈魔法ランゲージ〉を発明した建国の祖、アリューシア一世に導かれ国家勢力は大陸の半分を領地にするまでに至った。

 我が国における最もたる戦力は〈魔装兵団〉である。剣型の〈結合基盤コンパイラー〉に〈魔法基盤ディメンション〉を取り付けた〈魔法発現装置ロードモジュール〉は、建国の頃より受け継がれた〈魔法ランゲージ〉を組み込んでおり、現在の戦においても見劣りする部分は無かった。少なくとも先月までは。

 隣国であるスイ王国が、これまで防戦一方であった戦局を覆したのである。間者の話では、とある魔法学者が登用された後に戦力の改善があったとの事だった。

 現在は兵力の総数で遥かに勝る母国に利があるが、この状況が続けばいずれは敗北となるだろう。その様な事は齢二十四を迎えた自身にとって、臣下から助言を云われる迄も無く判る。


「女王陛下、御拝聴頂きたい案件が御座います」


 玉座の間の扉が開かれると同時、駆け足で眼前に向かいながら話すのは臣下の一人だ。男は玉座の前まで来ると臣下の構えをとる。腰掛けたまま男に話を促す。


「新皇スイ王国の間者からの情報では、彼の国も新たな魔法学者を登用したとの事。スイ王国と続いて今回の件、恐らく神託の時を迎えていると考えられます」

「我が国にそれらしい動きはあったか?」

「それが、未だ発見出来ず」

「そうか。用件はそれだけか?」

「はっ。左様に御座います」


 男はそう云うと恭しく頭を垂れる。「下がって良い」そう伝え頬杖を付く。考えるのは神託の来訪者についてだ。

 それはこの世界とは別の世界からやって来ると云う。恐らくスイ系国家には、既にその者が召喚されている。そして、その後に急成長を遂げている戦力を考えると、祖国にも急ぎ彼の地の者が必要だ。しかし、召喚方法など不明であり、全ては神の意向に従うだけだ。

 腰に下げた剣型の〈結合基盤コンパイラー〉を見やる。我が国の魔導技術に不満は無い。しかし、世界平定の為に不可欠な来訪者の助力無くして、他国との戦争には勝てないだろう。


「はぁ……うちの学者様はいつになったらやって来るのやら」


 誰も居なくなった謁見の前に、自分の声だけが木霊した──


 都内の情報工学高等専門学校に通う数野かずのけいは、いつもの様に放課後電機電算クラブ(通称電電部)へ顔を出す。電電部の活動はハードウェア作成から、ソフトウェア開発の二つに分類される。計は、ソフトウェア開発、その中でも応用ソフトウェア開発に青春を燃やす少年だ。


 人工知能プログラムロジックが公開されて、研究者で無くとも基本パッケージのインストールを行えば誰でもAIを構築する事が出来る様になって久しい。

 また、仮想現実構築用プラットフォームもオープンソースでの開発が熱を帯びて来ており、膨大な処理を低コストで捌く為のバイオコンピュータの登場が、開発の敷居を劇的に低くする事に繋がった。

 時代はIT革命を迎えていたと云えるだろう。


 計が部室に入ると、パソコンやその残骸が散乱する部室に三人の部員が居るのが見えた。彼らは電電部の部員の中でもハードウェアの開発を専攻している者達であり、最近は専ら仮想現実世界へのフルダイブ研究に執心していた。計の活動は、応用ソフトウェアの開発であり、今作成しているソフトウェアを随時、ハードウェアへ組み込んで行く事にある。


「数野、コミュニティーに上がった方法でVR(バーチャルリアル)基盤を作り替えたんだ。早速アプリのテストして貰って良いか?」

「良いですけど先輩、それって安定版(ステーブル)ですか?」

「いいや、開発版(アルファ)だ」

「実機テストの実績は報告ありました?」

「いいや、前人未到だ」

「流石にフルダイブするには抵抗がありますね……バグもフィックスされて無いでしょうし」

「俺達が世界で初めてフィックスする物が出来るかもよ? なぁに、いざとなったら電源引っこ抜いてでもサルベージュしてやるから、レッツダイブだ」


 オープンソースコミュニティーは活発で、そこに上げられた話題は世界中のギーク達によって、凄まじい早さで開発が進んで行く。電電部に所属する技術者はそのオープンソースのコミッターとして、そのメインストリームに加わる事を幸せに感じている。それがほんの些細な修正であってもだ。それでもやはり、後追いでコミッターになっても、人の褌で相撲をとる様な感覚を部員達は感じていると思う。

 新しく作られたプロジェクトに積極的に関わって行く。後追いでは無い状況に先輩が食い付きたくなる気持ちは良く判った。


「フルダイブ用のテストアプリはあるんですか? 俺が作ったのをデプロイしますか?」

「いや、立ち上げ人物が既にサンプルと併せて公開している奴があるから、それを使おう」


 先輩はそう云うとフルフェイスヘルメットを取り出す。勿論、只のメットでは無い。電極やらコンデンサーやらが大量に装着された、重さ十キログラムのヘルメットである。計には仕組みが判らないが、以前聞いた内容だと電気信号間のインジェクションを利用するらしい。

 計が椅子に腰掛けると禍々しくも重たいヘルメットを頭に被せられる。視界は闇に閉ざされ、電気回路に電流を流す装置の駆動音が耳鳴りの様に響く。その音に混じって先輩の声が聞こえる。


「じゃあ起動するぞ。戻ったらレポートよろしく」


 ブンと低い音がなった瞬間、身体にのし掛かっていたヘルメットの重さが無くなり、一瞬浮いた様な浮遊感を覚える。続いて強烈な痛みが頭に走る。これは不味いと感じ、実験の停止を叫ぶ。


「先輩……! ヤバい、止めてっ!」


 その瞬間、意識は完全に断たれた──

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