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シゲル国城下町

城を出て、城下町へと降りる。リディは別段感動してはいなかった。普通、人前に出ないということは町にも下りないので感動するかとも思ったが、よくよく考えてみればジャメル公爵が来るたびに城を抜け出していたのだ。そりゃあ町くらい歩いた事はあるよな。


今リディは、以前公爵から逃げようとしたときに着ていた青い闘牛士の服を着ている。フード付きの深緑色のマントも羽織っていたが、ぴっちりとした闘牛士の服はすらっとしているリディにとても似合っていた。


そこで俺はふと、一つの疑問が脳内をよぎった。


「そういえばリディ。その闘牛士の服、どうしたんだ?まさか王妃様が男物の服を繕うはずが無いだろう?」

「ああ、これか。これはアイリスからもらったものだ。あの街、ラーグは水が豊富な事は知っているだろう。それゆえに水牛が多いのだ。そのため、昔からあの街では闘牛が盛んだった。もはやあの街の伝統でもある」

「なるほど。そうだったんだな」

「それでこの間、ラーグから贈られてきたのだ。ラーグの伝統衣装だから着て欲しい、とな」


アイリスとはどんな子なんだろう。少し興味がわいた。


「でも、どうせ贈るなら何で女性用のにしなかったんだろう。わざわざ男性用のを贈るなんてな」

「まぁ、女性の闘牛士もいないことはないが、一般的に闘牛といったら男性を思い浮かべるだろう。そのためか、ラーグでは女性用の衣装は使わないらしい。すべて男性用のものを使っているそうだ。それが、あの街の特殊なところだな」


さすが博識。そんな豆知識みたいな事まで頭に入っているなんてな。


「そうだったのか。俺は生まれてこの方この国から出た事が無いからな。はっきり言って他の土地に詳しくない。これからもいろいろ教えてくれよな」

「了解した。・・・とはいっても、俺も外へはラーグしか行ったことが無い。他の場所は知識でしか知りえないので期待はするな」

「はは、お互い様だな」


そうこうしつつも俺達は市場を抜け、門までたどり着いた。事情を知る門兵は黙って門を開ける。


「それじゃあ、ミシェル。改めてよろしくな」

「ああ、こちらこそ。あんまり無茶するなよ、リディ」

「・・・善処する」


何だ今の間は。無茶する気満々じゃないか!こりゃ本当に目が離せないな・・・。


何はともあれ、本当に俺達の旅は始まった。俺も一応剣は持っているが、なにせステータスが王女の足元にも及ばない。今のままでは間違いなくお荷物だ。早くレベル上げて戦わないと俺の存在意義がどんどん薄れていく。足手まといにだけはなりたくないからな。



ゆっくりと門が開かれる。門を開けた先はどこまでも草原が広がっていた。


だが、俺達はどちらも先へと進まない。


「ミシェル、進まないのか?」

「いや、リディこそ」

「・・・」

「・・・」


なぜ俺達がここで立ち止まっているのかというとだ。


「どっちへ向かえばいいのだ?」

「さぁ?」


道がわからん。至極単純な理由だった。


そう。俺達は地図も方位磁石も持たずにこの大草原を移動しようとしてたのだった。


「リディ知ってんじゃないのか?行った事あるんだろ、ラーグ」

「そんなの馬車に乗って揺られてただけだ。しかも、かなり幼い頃に。わかるわけないだろう」

「そ、そうか、そうだよな・・・」

「ど、どうするのだ!これではラーグに行けないではないか!」


わたわたと焦るリディに俺はまあまあ、となだめる。


「慌てるなよ。とりあえず地図を買いにいきゃいいだろ。それと方位磁石もな」

「な、なるほど。だが俺は使い方がわからん」

「俺がやるから大丈夫だ。とりあえずリディは付いてきてくれればいい」

「・・・了解した」


やれやれ、頼りになるのかならないのか。とにかく、俺もただ足手まといになってるだけじゃなくて、ちょっと安心した。


「じゃ、行くぞ。リディも一緒に来い。さすがにここじゃ目立つからな」

「わかった。行こう」


リディはフードを深く被ると、俺についてきた。わざわざ門を開けてくれた門兵には軽く謝っといて俺達はもう一度町へと繰り出していった。






市場を逆戻りして、道具屋へと向かった。


「地図というのはどこに行けば売っているんだ?」

「ああ、地図みたいな冒険者御用達のアイテムは大体はドニ爺さんのとこだな」

「ふむ。ドニという御老人が売っているのか。ではその人の元へ行こう」

「あの店はこの国のギルド員や冒険者御用達の店だからな。結構でかいんだぜ」

「ギルドか・・・そういえばこの国のギルドはソールという名前だったか。しかし、そもそもギルドというのはなんなのだ?」


確かにギルドについてはリディの勉学の内容には入ってなかったはずだ。リディが知らないのは無理も無い。まぁ、王室にとってはギルドなどは取るに足らないものなのかもしれないが、一応知っておいた方がいいはずだ。


「ああ、ギルドな。あれは元々は王室の管理が行き届きづらかった平民階級の人たちが互いに団結して自治をしようと考えてできた組織だった。でも、今は王室も平民までしっかり統治してるから必要なくなったんで、魔物退治とか頼みごとの依頼とかをこなしていく、いわば何でも屋さんになったわけだ」

「なるほど・・・元々は我が王室の管理の甘さからできた産物だったのか・・・面目ない」

「まあまあ、そう気を落とすなよ。こんなでかい国なんだ。最初っから全部管理しろって方が厳しいんだ。現王様もよくやってるじゃねぇか。それに今はギルドっていう存在は必要不可欠だ。そういうものを作り出したんだから結果オーライぐらいに思っとけ」

「そうか・・・そう、だな」


ほんと、リディは責任感も強いからな。いや、いいことなんだけどさ。


そうこうしてるうちにドニ爺さんの道具屋へ到着した。


カランカラン、とベルの音を聞きつつ、中に入る。


「爺さん、邪魔するぞ」


薬草やら薬やらの入ったショーケースの後ろで、ぷかぷかとキセルをふかしながら椅子に座っている爺さんがいた。この爺さんこそ、ドニ爺さんだ。


「おお、誰かと思えばバルビエさんのとこのミシェルじゃあないか。妹さんは元気かい?」

「ああ、あいつなら今はどっかの国へ出稼ぎに行ってるよ。爺さんのところには寄ってかなかったのか、あいつ」

「さてのぉ、来たような、来てないような・・・」


ずっと考え込んでいるドニ爺さんに、俺は半ば呆れつつも苦笑いして、用件を伝える。


「んなことはもういいじゃねぇか。爺さん、世界地図と方位磁石欲しいんだけど」


俺がそう言うと、ドニ爺さんはゆっくりと立ち上がって棚の中から地図と方位磁石を取ってきた。


「これでいいかの?」

「ああ、充分だ。いくらだ?」

「あわせて130Gだが、まけて100Gにしといてやろう」

「おっ、サンキュー」


俺は金貨を一枚パシッと投げる。爺さんはしっかりと金貨をキャッチした。


「毎度あり。それにしても、お前さんのお連れの女性はどなただい?」

「え?あ、ああ、こいつ?」


俺が買い物を済ませている間にリディは物珍しそうに棚に並んだ商品を見ていた。だが、自分が呼ばれたと気づき、リディはこちらにやってきた。


「申し遅れました。俺はリディ・アル・・・」


俺はすかさず2人の間に割り込んだ。


「あー!コイツは俺のダチでよ、リディって言うんだけど、ラーグから来たんだよ!」


あ、あっぶねぇ・・・。何を言い出すんだよ、全く!正体ばれたら国を出ることすらできねぇんだぞ・・・!俺は目線で、余計な事を言うな!と言いつつ、冷や汗を流しながらもドニ爺さんを見る。


「そうかい。それじゃあもしかして、今からラーグへ帰るのかい?」

「そ、そう!俺がこいつを送ってく途中でさ。地図と方位磁石忘れたから爺さんとこで買おうと思ってよ」


よかった。怪しまれてないようだ。爺さん、頼むから余計な詮索はしないでくれな。


「そうだったのかい。お嬢さん、今ラーグは怖いからね、気をつけなよ」

「ご忠告、感謝します」


リディはふわりと微笑みながら丁寧にお辞儀する。その所作は本当に位が高い者だなぁ、と思い知らされる程に優雅だ。


「それじゃあ、爺さん、邪魔したな」

「お前さんも気をつけなさい。あの街は今ティールに狙われている。命だけは大事にしなさい」

「ああ。わかってるさ」


こうして俺達はドニ爺さんの道具屋をあとにした。




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