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嘆願


「何を申すか!」


なんかさっきも聞いたなこのセリフ。俺は王の間で王の前に跪き、先ほどの事を報告していた。案の定、大臣が玉座の隣で顔を真っ赤にして憤慨している。ああ、俺また職無くなんのかな。だが、ここで引いたら男が廃る。これはミシェル・バルビエという一人の人間として負けられない戦いだった。


「ですから、王女のラーグへの援助を許可していただけないかと申しております」

「バルビエ、先ほどと言っている事が違うではないか!わしは王女を説得してくれと申したはずだぞ!」

「ええ。そのつもりだったのですが、できませんでした。しかし、王女の友を思う気持ちは王妃になるに相応しい素晴らしい心だと思いました。ですから、ここでその気持ちを封じ込めるわけにはいかないと判断したのでございます」


俺は思ったことをそのまま言った。王はうーむと唸っている。大臣は落ち着きを取り戻し、静かに言う。


「・・・そなたの言い分はわかる。だがしかし、王女を戦争地帯の援護に向かわせるということは、わが国が戦争にかかわるというのと同じ事。それは避けたいというのはわかるな?」

「ええ。ですから、秘密裏にことを進めるのがよろしいかと存じます。幸いにも王女の事を目撃している者は少ない。無事にラーグを助ければ、その後はうまくいくはずです」


次の瞬間、一通り俺と大臣の話を聞いていた王が重い口を開く。


「・・・わかった。リディの出発を許可しよう」


王のその言葉に、俺ははっと顔を上げた。大臣も王の顔を見る。


「本当でございますか!?」

「ああ。お前の考えに賛成する。確かに彼女はまだ、まっすぐ育っている。ここで、それを捻じ曲げるのはいいことではない。ましてや、友を救いたいという気持ちを押さえつけるのは、親としても気持ちのいいものではないからな」

「王様、よろしいのですか?アイリス嬢のことであれば、心配はいらないと思うのですが・・・」


まだ不服そうな声音の大臣に、王は笑顔で言う。


「そういうものではないのだよ。心配が無かろうと、大切な者の身を案じる気持ちをないがしろにしてはいけないということだ。だがしかし、条件をつけようではないか。ミシェル・バルビエ。そなたがリディのことを監視せよ」


その言葉に一瞬思考が止まる。ややあって、俺はようやく口を開いた。


「わ、わたくしめがですか!?」


俺は剣ができない。よって、お荷物になる事決定だ。むしろ俺がいないほうが王女の生存率は上がると思う。まだ連れて行くなら、その辺の衛兵の方が頼りになるはずだ。


「そなたがリディのことを支え、無茶をさせないようにせよ。お前の考えを聞いて、お前なら安心して任せられると思ったのだ。剣ができるできないの問題ではない。わしは今回の出来事をリディの成長の糧としたいと考えておるのだ。そのためには、お前は必要不可欠だと思っておる。頼りにしているぞ」


信頼。俺にとっては金や物よりも一番価値のあるものであり、一番欲しい物であった。


誇らしい。今の気持ちはその一言に尽きた。俺に断る理由なんてどこにも無かった。


「はい!全力を尽くします!」


さぁ、これから俺は街を救いに行く。地味で、何の変哲も無いこの俺が。






「本当か!?嬉しい!ありがとう・・・!」


俺が王女に報告すると、王女は俺にがばっと抱きついてきた。いや、嬉しいんだが、立場上なんともデンジャラスである。こんなところ誰かに見られでもしたら俺の首が飛ぶ。物理的に。


「お、王女、離れてください!」

「あ・・・す、すまない」


わずかに頬を赤らめながら王女は数歩下がった。少しは少女らしい感覚もあるじゃないかとほっとした。


「とにかく。そうと決まったらすぐにでも出発しましょう。わたくしの家には他国に使いに行くとでも王室から手紙を書いてもらうことにします」

「そうか。すまないな、お前を巻き込んでしまって」


王女は目を伏せながらすまなそうに言った。


「構いませんよ。これがわたくしの仕事ですから」

「ミシェル・・・」


感極まったように王女が呟く。そして、凛々しい顔で俺に告げる。


「いざとなったら俺を残して逃げろ。俺のことは心配しないでいい。これは命令だ。いいな?」

「・・・わかりました」


命令と言われてしまえば仕方がない。だが、結局そうなったら、どう転んでも俺は命が無いということだ。俺だけ逃げ帰れば、ほぼ間違いなく処刑される。その場にいても敵に殺されるだろう。つまり強敵が出てきた場合は俺の人生はおしまいだ。腹をくくるしかない。


「それと、お前も戦え、ミシェル。いくらなんでも弱い魔物くらいは相手にできるだろうしな」

「わかりました」

「そして、一番最初はラーグでアイリスを探して欲しい。彼女の安否が心配なのだ」

「わかりました」

「そうだ。ミシェル、これからは俺の事をリディと呼べ。敬語もいらん」

「わかりま・・・え?」


ちょっとまて、今聞き捨てならんことを言わなかったか?


「だから、敬語は無しだ。元々お前の方が年齢は上。それは当然だろう」

「だ、だからといって、あなたは王女という身。わたくしめなどが足元にも及ばぬ地位にございます。わたくしなどが、そのような__」

「命令だ」

「・・・承知、しました」


ずるい。命令ずるすぎる。俺、明日までこの首繋がってるかな・・・。


王女は・・・いや、リディはがっくりとうなだれる俺に、優しく語りかけた。


「そうかしこまられるとこちらが疲れるのだ。それに、お前とは対等でありたい。お前は俺に無いものを持っている。とても羨ましいよ」

「・・・ありがとう。俺、そんなことを言われたのは初めてだ」


そう答える俺に、リディは微笑んだ。


「お前、やはり一人称は俺だったんだな。いつも少し無理をしていたように感じていたのだ。その方がお前らしくていい」

「そうか?・・・じゃあ、これでいいや。これからよろしくな、リディ」

「ああ。よろしく頼む」

「でも、王の前とかでは別だぞ?これは俺達の中や、これからの旅の最中だけだ。いいな?でないと俺の首が飛ぶ。世の中には不敬罪ってもんがあるんだ。覚えとけ」

「・・・わかった。お前に死なれては困るからな。それでいいだろう」


こうして、俺達は出発した。


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