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目覚め


「・・・シェル・・・ミシェル!」


俺はゆさゆさと揺さぶられる感覚を覚え、目を開けた。何これデジャヴ?


「んー・・・?」


そこには心配そうな顔で覗き込むリディの姿があった。


「リディ・・・!」


俺は身体の痛みも忘れ、飛び起きた。


「リディ、良かった・・・本当に、無事で・・・!」

「それはこちらのセリフだ馬鹿者!・・・あの高さから、飛び出す者があるか!私がどれだけ心配したか・・・!」


リディは泣きそうな顔で俺を睨んだ。いや、まぁ、確かに自分でも無理をしたような気がしなくもないが。


「・・・すまん」

「お前はいつも私に無理をするな、無茶をするなと言うが、それはお前も同じだ!お前に何かあれば、私が悲しむ」

「・・・以後気をつけるさ」


確かにあの場で身体を乗り出せば、落下することは目に見えていた。俺の判断ミスなのは明らかだ。返す言葉もない。今回は俺が反省すべきだろう。


そのまま、俺たちの間に会話がなくなった。


「・・・だが」


先に口を開いたのはリディだった。


「もともとは私があのような状態になってしまったせいだ。それに、お前がこちらに手を伸ばしてくれたとき、私はとても安心した。救いの手に見えた。私は、怒る前にお前に礼を言うべきだったな。すまない・・・ありがとう」

「そんな、礼なんて・・・俺はするべきことをしたまでだ。って言っても、身体が勝手に動いただけだけどな」


俺が「気にするな」と言うように笑うと、リディも遠慮がちに微笑んだ。


そのとき、俺たちの居る部屋がノックされる。


「ミシェルさん、入りますよ」


そう言って、キィ、と扉を開けて入ってきたのは、アキムさんだった。


アキムさんはリディの姿を見つけた。


「おや、リディさん、でしたか。目が覚めたようで安心しました」

「あなたが助けてくれたのですね。感謝します」


本当にこの旅はいろんな人に助けられてばかりな気がする。


「お二人とも、少し気を使いすぎですよ。こんなオンボロ小屋に怪我人を休ませてしまうこちらが、申し訳なくなります。本来なら、それほど離れていないティール国の病院に運ぶべきなのですが・・・」


アキムさんは手に持っていた、ほかほかのシチューをベッドの脇のテーブルに置いた。


「お二人とも、なにやら複雑な身の上のようで」

「そうなんです。今、ティールに滞在するわけにはいかない」


俺はそう答えた。リディも頷く。アキムさんは微笑んで言った。


「安心してください。この森は複雑だ。入り込む者も、外へ向かう者も惑わせる。森を熟知していない者は、森に喰われるのです」


森に喰われる。その言葉を聞き、俺たちはゴクリ、と唾を飲み込んだ。


「私は長年森と親しくしてきました。明け方は私も警戒してはいますが、昼になれば森を抜けることは容易い。ミシェルさんもその怪我ですし、後で他の方々の元まで送らせてください」

「そんな、そこまでしていただけるなんて・・・」


俺が慌てて言うと、アキムさんはシチューを目の前に差し出した。


「怪我人は無理をしないでください。この森を抜けても、平原は魔物が多いです。それに、急がなければならないのでしょう?」

「・・・このご恩は必ずお返しします」


有無を言わさぬ迫力のアキムさんに、俺はそう、返すより他ならなかったのだった。



しばらくして、俺はそっとカーテンを開けた。


木々の隙間から朝日が差し込んできている。俺はベッドの脇にあった自分の荷物から懐中時計を取り出した。時間にして朝の10時だった。


(エーリカ達はどうしてんだろうな・・・)


俺たちを探しに引き返して・・・いや、今ティールに近づくのはまずい。さすがにそれはないだろう。


だが、俺たちは行き先であるテイリアの入り口を知らない。恐らく、俺たちのことを見捨てていなければ、エーリカ達はどこかの町に滞在してくれているだろう。


連絡手段が無いというのが一番痛かった。アキムさんが、ウーアの魔力を辿って俺たちを送ってくれると言ってくれたのがせめてもの救いだ。今はそれに賭けるしかない。


トントン、と扉をノックする音が聞こえた。


俺の返事を待つ前に、扉が開かれて、アキムさんとリディが入ってきた。


二人はもう荷物をまとめていた。


「もう出発できます。早いほうがいいんでしょう。傷が癒えていないでしょうが、少し頑張れますか?」

「・・・大丈夫です。行きましょう」


俺は上着を羽織り、立ち上がる。胸部の痛みはもちろん治っていない。


「アキムさん。・・・魔結晶とか、持ってないですか?」

「え、ええ。持っていますが・・・どうぞ」


リディがアキムさんに聞いた。魔結晶という物は、魔力を凝固させて結晶化させた物だった。魔力を固体にして持ち運んで、魔力が無くなったときに、すぐ体内に補充することが出来る優れものだ。


訝しげな顔をしながらアキムさんがリディに魔結晶を渡す。リディはそれを受け取り、握り締めると、静かに手に力を込めた。結晶は、リディの手の中で氷のように溶けてなくなった。リディの体内に魔力が吸収された証拠だ。


そして、リディが部屋に入り、俺に向かって手をかざした。リディの手から光が溢れてきた。とても温かい光だ。その光が収束したときには、胸部の痛みは軽減されていた。


「これは・・・治癒魔法ですか。興味深いですね。あなたは魔法使いではないと思っていましたよ」


リディの後ろで、アキムさんが驚いた顔をした。リディがアキムさんのほうへ振り返る。


「基礎中の基礎の治癒魔法しか使えません。私は剣士ですから。」

「・・・そうでしょうね。治癒魔法ばっかりは先天的な素養が無ければ行うことができません。その道を進めば、立派な医療魔法使いになれたものを、と考えれば、いささかもったいない気がします。それにしても安心しました。ミシェルさんをこのまま歩かせるのは、さすがに心が痛みます」

「魔結晶なんて高価な物、最初はいただくべきではないと思ったのですが、この状態でミシェルを歩かせることはできないと判断しました。加えて、私の魔力も落下したことによる体力の消耗に伴いほぼ空だった。申し訳ない」

「構いませんよ。むしろ、もっと早くに言ってくださればよかったものを」


アキムさんは俺の荷物袋を持つ。


「荷物ぐらいは持たせてください。少しは力になりたいんです」

「ありがとうございます。・・・それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


アキムさんは、にこりと笑って頷いた。


「それでは、参りましょうか」


こうして、俺達はエーリカ達に追いつくために、小屋を後にした。

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